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偽りからの挑戦 ――絆の脅威――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第2章 †噂話† ――クリスター政府首都ポートシティ――
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第4話 シリオード大陸のウワサ

※フィルド視点です。

 【クリスター政府首都ポートシティ 第14区 マンション】


 夜のポートシティ。ポートシティの中央にあるサンクチュアリ議事堂の最上階から街を眺めると、街は無数にある超高層ビルの窓から発せられる光で、暗闇に浮かぶ星々のように見える。ポートシティの美しい夜景だ。

 美しい夜景をパトラーと一緒に見た私は、首都ポートシティにある政府関係者が多く住むマンションへと帰ってきた。パトラーは軍事総本部にある宿泊施設に泊まるらしい。


「あ、フィルドさん、お疲れ様です!」


 扉の電子ロックを解除して、マンション内へと入ろうとしたときだった。私の後ろからクローン将校の1人が声をかけてくる。……同じ部隊に所属するヴィクターだ。彼女とは同じマンションに住んでいた。


「パトラーさんが見つかったらしいですね!」


 ヴィクターはニコニコしながら駆け寄ってくる。私たちはマンション内に入り、階段を上っていく。彼女と私は同じ階に住んでいる。


「私も昔、パトラーさんと一緒に戦ったことがあって、彼女がいなくなったときは本当に落ち込んでいたんですよ!」

「ああ、私もだ。彼女とは付き合いが長いからな」

「ホント、見つかってよかったですよね! また、一緒の仲間になれると思うと、嬉しいです!」


 階段を昇り切った私は、自分の部屋がある方向に足を向ける。ヴィクターも付いてくる。


「あ、そういえば知ってますか?」

「なんの話だ?」

「アレですよ、北方シリオード大陸の件」

「ああ、知っている。それでシリカとクラスタが――、あ、いや、なんでもない。これは別件だった」


 ……シリカとクラスタがテクノシティに向かったのは軍事機密だった。少将以下の将兵は誰にも知らされていないことだ。中将の私も詳しくは知らない。私はうっかり口を滑らせそうになり、半ば焦りながら答える。


「これはウワサなんですが、シリオード大陸で何か起きるらしいです……」


 急に深刻な顔つきになるヴィクター。一方の私は話半分に聞いていた。ウワサの時点でもうアテにならない。……だが、シリカとクラスタがそれでテクノシティに行ったのは事実だ。


「何が起きるんだ? シリオード帝国と連合政府が同盟するのか? それとも、中央コスーム大陸に攻め込んで来るのか?」


 シリオード帝国は“雪山と雪原ばかりのシリオード大陸”を支配する国家だ。連合政府と敵対している。クリスター政府ともあまり仲はよくない。


「いえいえ、違うんですよ……」

「……何だというんだ?」

「それがですね、――」


 ヴィクターが私に近づき、耳元で囁くようにして言う。


「――10万人近いクローン兵が国家を樹立するらしいですよ」

「……はぁ?」


 私はあまりにあり得ない話で呆れてしまう。頭を軽く左右に振りながら、苦笑いをしてしまう。もっと現実的な話かと思っていた。


「いや、ホントなんですって!」

「そうか、ヴィクター。……情報部には向いてないな」


 私は軽く笑いながら言う。そうしている間に自分の部屋が近づいてきた。


「もうっ! ホントですよ! それでソフィアさんが思い留まるように極秘で電子メールを送ったってウワサもあるんですって!」

「フッ、国家樹立を目指すクローンたちにソフィアが?」

「ええ、そうです。そこに知り合いがいますからね」


 怒ったような表情を浮かべていたヴィクターが、急ににんまりとした表情に変わる。


「知り合い?」

「1ヶ月前に急に退任したフェール中将とスギライト少将を覚えていますか?」

「……ああ、いたかな?」


 フェールとスギライト。正直なところ、あまり覚えていない。2人とは所属部隊が違う。私やシリカ、コミット、“ウワサ好きのヴィクター”はクリスター政府特殊軍精鋭部隊だ。一方、ソフィアやカルセドニー、そして今話題に上がったフェールとスギライトはクリスター政府特殊軍一般部隊だ。


「その2人が退任するとき、一緒に10万人近いクローン兵が抜け出たことは知ってますよね?」

「…………。……ああ、もちろん知ってる」


 実は知らない。1ヶ月前はパトラーのことで頭がいっぱいだった。


「あ、そこはご存じなんですね、よかったです」


 すまない、知らない。


「退任した2人とそのクローン兵たちがシリオード大陸に集結し、国家樹立を計画しているらしいです」

「なんでまた?」


 私はヴィクターに促され、扉を開けて家に入る。なぜか、ヴィクターも入ってくる(誰が入っていいと言ったんだ……)。家に入り、私たちはリビングのテーブルに着く。


「ソフィアさん、フェールさん、スギライトさん、10万人のクローン兵。共通するのはなんだと思いますか?」

「彼女たちは全員、私をベースとしたクローンだな。正解か?」

「んー、半分正解ですけど、半分ハズレですね。もっと細かい、――ヒントはグループ!」

「…………。……クリスター政府特殊軍一般部隊?」

「……痒いところに手が届かない感じですね」


 クッ、違ったか。……いや待て。なんで私はウワサ話についてのクイズを出されているんだ? そして、なんで私はそれについてマジメに答えているんだ?


「参った。答えは?」

「私の勝利ですね」


 なんの勝ち負けだ。


「答えは『ヒーラーズ・グループ』ですよ」

「…………」


 なんだそれは? いや、聞いたことはある。クローンだけで構成された組織だ。かつてラグナロク大戦のさ中、彼女たちはクリスター政府と連合政府を滅ぼし、世界を支配しようとした。120万人以上のクローン兵で構成されたその組織の勢いは凄まじかったらしい。

 だが、それはパトラーとクラスタの活躍とヒーラーズ・グループの内部対立で失敗に終わり、組織は崩壊したハズだ。ソフィア、フェール、スギライトはいずれもその組織の幹部メンバーだった。


「ヒーラーズ・グループはクローンによる国家の樹立が目的でしたよね?」

「その夢をもう一度と、ヒーラーズ・グループの残党が動き出したというのか?」

「ええ、そうです。それでソフィアさんが――」


 ヴィクターが目を輝かせながら(事実なら目を輝かせている場合じゃない)話していたときだった。急に私の左手首に付けた小型通信機が鳴る。私は通信をオンにする。


「こちらクリスター政府特殊軍精鋭部隊の中将フィルドだ。どうぞ」

[あ、フィルド中将! 私です! コミットです!]

「どうした?」

[大至急、軍事総本部へお戻り願います!]


 通信機から聞こえてくるコミットの声は相当に焦った声だ。ただ事じゃなさそうだ。微かにだが、通信機からは大勢の人々の声が流れてくる。


「なにがあった?」

[――クラスタ防衛大臣の公邸が爆破されました!]

「……なんだと?」


 クラスタの公邸が爆破された――?

◆ヒーラーズ・グループ

 ◇かつて存在した勢力。

 ◇クローンの国家樹立を目指していた。

 ◇ソフィアやフェール、スギライトはその勢力のメンバーだった。

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