第3話 ラグナロク大戦
※フィルド視点です。
【クリスター政府首都ポートシティ 軍事首都本部 飛空艇離着陸場】
真っ青な空から照り付ける太陽の光が、白いコンクリートの地面に反射する。そこに白地に青いラインが入った飛空艇の艦隊がゆっくりと着陸する。
私はパトラーと一緒に飛空艇乗降口から建物の中へと歩いていく。後ろからシリカやコミットら、クローン将官が続く。
私たちはパトラーを中心に、色々と雑談しながら灰色の床や白い壁・天井が続く廊下を歩いていく。しばらく歩いていると、途中で数人のクローン将官と出会う。クリスター政府軍一般部隊のソフィア大将とその部下たちだ。
「フィルド中将、お疲れ様です。クラスタ防衛大臣閣下がお待ちですわ」
私たちを出迎えた優しそうな表情をしたクローン女性――ソフィアが言う。
「クラスタが? エコノミアシティに視察に行っているハズじゃなかったか?」
「パトラーさんに一刻も早くお会いしたいとのことで、視察先のエコノミアから急遽お戻りになったとのことです」
ソフィアが答える代わりに、その側にいたカルセドニー中将が答える。私たちは彼女たちに先導されながら、廊下を歩いていく。
「クラスタが来てるんだ、久しぶりだな」
パトラーは明るい声で言う。クラスタとパトラーは仲がよかった。2人は何度も肩を並べて連合政府と戦ってきた仲だ。彼女も早く会いたいのだろう。私はやや急ぎ足で進んでいく。
やがて、私たちは軍用空港の最上階にある第1応接室の扉を開け、部屋の中に入っていく。広い部屋の奥で待っていたのは1人の女性――クラスタだ。
「……パトラー!」
「クラスタ、久しぶり……!」
パトラーは私の側からクラスタに向かって駆け寄っていく。彼女は半ば飛び込むようにしてクラスタを抱き締める。クラスタも同じように抱き返す。
「よかった、無事でっ……!」
「今までずっと戻らなくてごめん、クラスタ」
……パトラーによると、この2ヶ月、1人で連合政府のコマンダー・ライカを捕まえようとしていたらしい。コマンダー・ライカは連合政府の総統だ。彼女が捕まれば、連合政府は大きなダメージを受け、戦争終結が早くなる。この戦争を終らせるために、1人で戦い続けていたらしい。
戦争が続けば、それだけ味方のクローン兵は死んでいく。私やシリカ、コミットが死ぬかも知れない。それがイヤで、ずっと戦い続けていたらしい。
「……フィルド、連合政府の動きはどうだ?」
灰色の軍服を纏った男性軍人が私に声をかけてくる(クリスター政府軍は大半がクローン軍人だが、彼はクローンじゃない)。
「……大陸北東部に攻撃を仕掛けた連合政府は敗走しましたよ、スロイディア将軍」
「そうか、4年に及ぶこの戦争、終わりが見えて来たな」
「ええ、同感です」
私は再会を喜ぶクラスタとパトラーを目にしながら、スロイディアに答える。
全世界を巻き込む世界大戦――ラグナロク大戦が始まってもう4年になる。かつて連合政府は世界の半分以上を支配下に置き、破竹の勢いで勝利しようとしていた。
だが、今その勢いはない。今や世界の9割以上がクリスター政府の統治にあり、連合政府勢力は3大大陸の内、中央大陸と南方大陸からは完全に排除されていた。連合政府の支配地は今やルイン島という小さな島のみだ。
「だが、油断はできん」
スロイディアの側に控えていた別の男――レイズが口を挟んでくる。彼もスロイディアと同じくクリスター政府軍に所属する人間男性だ。
「連合政府を操る真の支配者“パトフォー”を倒すまでは――」
「分かってますよ。戦争を引き起こした張本人ですから」
私はチラリと窓を見る。青い空が空一面に広がっている。その下には何千万人もの人がいる巨大都市ポートシティが広がっている。平和な都市だ。――一昔前までは、大陸各地で戦いが続いていた。この街も連合政府の支配下にあった。
4年続いたラグナロク大戦。それを終わらせるためには、戦争を引き起こした張本人で連合政府を支配する男――パトフォーを倒す必要がある。コマンダー・ライカはただの操り人形に過ぎない。
「フィルド、ちょっといいか?」
「どうした、シリカ?」
これまでずっと私の後ろで控えていたシリカが話しかけてくる。パトラーとクラスタはまだ話している。よっぽど、再会が嬉しいのだろう。それを邪魔しないように配慮してか、シリカは声を落としている。
「……今、北方大陸を調査しているクローン情報部から連絡があって、何やらおかしな動きがあるらしい」
「おかしな動き?」
「まだ詳しいことは知らないが、今夜にもクラスタと一緒にテクノシティに向かうことになった」
「クラスタは知ってるのか?」
私はチラリとパトラーとクラスタに目をやる。椅子に座って談笑している。
「今はマズイだろうから、パトラーと別れた後に伝える」
「そうか、分かった」
私はそう言葉を返す。今伝えないのは、邪魔になるからだろう。……もっとも、いつまでも再会の喜びに浸っているヒマはないのだが……。