第20話 実験台の弟子
※パトフォー(連合政府の黒幕)視点です。
【ルイン島 ルイン本部】
広大な海。薄暗い雲。下へと向かっていく白い無数の粒――雪。窓から見える光景は変わらないものだった。
ここはシリオード大陸の南東、コスーム大陸の北東に位置する小島――ルイン島。連合政府の本拠地・ルイン本部を有する島だ。
「パトフォー閣下」
小部屋の扉が音を立てて開き、黒い装甲服を纏った1人のクローン兵――コマンダー・フィンブルが入ってくる。彼女はコマンダー・ライカなどよりも遥かに強いフィルド・クローンだ。
「準備は整ったのか?」
俺は部屋に入ってきたコマンダー・フィンブルに背を向けたまま言う。
「新しく開発された“サイエンネット・タイプ4=ウィルス”の準備が完了し、これより実験台――パトラー=オイジュスに投与するとのことです」
「…………。……そうか」
俺は窓に目をやったまま言う。
パトラー=オイジュスの師――フィルド=ネストは魔法が使える。彼女をベースにしたクローンたちも多くが魔法を操る。それだけではない。彼女たちの身体能力は凡人よりも高い。生命力然り。
元々そうだったワケではない。フィルドも元は普通の人間だった。魔法など使えはしなかった。生命力も普通の人間と大差なかった。
「…………」
あの女が16のとき、俺は彼女を実験台にした。サイエンネット・タイプ1=ウィルスを彼女に投与した。
結果は成功。初めてのことだった。そして、彼女は魔法を使えるようになり、極めて高い身体能力と生命力をも得られた。
だが、そのウィルスは彼女以外には馴染まなかった。つまりのところ、あのウィルスは俺には使えないのだ。使えば死ぬだけだ。
「コマンダー・ライカに伝えよ。――実験を開始せよとな」
「イエッサー……!」
フィルドという成功例。そこから13年もの年月をかけて改良を続けた。その過程でフィルドのクローンを作り、それを実験台にした。そして、遂にサイエンネット・タイプ4=ウィルスに行き着いた。
これから最後の実験が行われる。普通の人間であるパトラー=オイジュスにウィルスを投与する。成功すれば、彼女を廃棄処分にし、そのウィルスを俺自身に投与する。
「最初の実験台がフィルド。その弟子が完成したウィルスの実験台に使われる。皮肉な話だな」
開始から20年にも渡るサイエンネット計画は、終わりを迎えようとしていた――。