第19話 連合軍・ルイン本部のウワサ
※フィルド視点です。
【クリスター政府首都ポートシティ 軍事総本部 第1会議室】
シリオドア・ノースの戦いから1週間がたった。私は軍事総本部の大会議室から外をぼんやりと眺めていた。空には灰色の雲が立ち込め、そこに日の光はない。
帰ってきたと思った弟子は偽物だった。再会して間もない頃、シリカが言ったことは本当だった。彼女はクローン。私の弟子ではない。
一連の事件は連合政府を中心とした黒い夢たちの挑戦――クラスタ、シリカ、ソフィア、私の殺害とクリスター政府特殊軍の分裂を狙ったものだった。
「もう、傷は大丈夫かしら?」
後ろからソフィアが話しかけてくる。
「ああ、だいぶ良くなった。……疑って本当に悪かった。申し訳ない」
「気にしてないわ。これからも仲良くやっていきましょう?」
ソフィアは穏やかな表情で言う。彼女の優しさが逆に痛かった。
私は偽物を本物と信じ込み、一方的にソフィアらヒーラーズ系クローンを犯人と決めつけていた。ひどい言葉を浴びせた。にも関わらず、ソフィアたちは私を責めなかった。それどころか、パトラーが偽物だったという真実にショックを受けた私を慰めてくれた。
「フィルド――」
第1会議室の扉が開き、クラスタが入ってくる。彼女は私の横に座ると、分厚いファイルの中から1枚の紙を引き抜く。地図だ。見た感じコスーム大陸の北東部。
「これは連合政府の本拠地があるルイン島じゃないか? なんでまた急に……」
「パトラーのクローンが現れたということは、連合政府はパトラーの遺伝子をどこかで手に入れたということだ。可能性としては高くはないが、もしパトラーが連合政府の手中にあるとしたら――」
「――ルイン本部にいるというのか?」
私の言葉に、クラスタは無言で頷く。
パトラーが偽物だったというショックでそこまで頭が回らなかったが、よくよく考えればその通りだ。クローンは遺伝子がないと作り出せない。連合政府がクローンを送ってきた。ということは、連合政府はパトラーの遺伝子を手に入れている。
「クラスタ防衛大臣閣下、一気に連合政府ルイン本部へ攻め込みますか?」
一連の話を聞いていたソフィアが言う。連合政府はそれほど強大な敵じゃない。ソフィア率いるクリスター政府特殊軍一般部隊がルイン島へ攻め込めば、あっという間に勝負はつくだろう。
だが、クラスタからの答えは消極的かつ冷静なものだった。
「攻め込めば勝てるだろう。だが、もし本当にパトラーが捕まっていれば、コマンダー・ライカは彼女を人質にしてくるかも知れない。それに、一般部隊を差し向ければネオ・ヒーラーズやシリオード帝国、国際政府が攻め込んでくる可能性もある」
「…………!」
「それに、ネオ・ヒーラーズ独立を含め、一連の事件で議会・軍共に動揺している。今は軍を動かせる時期じゃない」
「だが、もしパトラーが――」
「分かっている。だからこそ――」
そのとき、第1会議室の扉が再び開く。シリカが入ってくる。
「シリカ……?」
「――シリカ、フィルド。2人に極秘任務を命じる」
「えっ?」
「これよりルイン本部に向かい、パトラーの救出及びコマンダー・ライカを確保しろ」
「イエッサー……!」
シリカは私に向かって笑みを浮かべながら返事をする。私も同じように笑みを浮かべ、その場から立ち上がる。
また極秘任務だ。シリカと一緒にルイン本部に向かい、パトラーを助け出す。相当に危険度・難易度の高い任務だが、断る気は全くなかった。
「よろしく、シリカ」
「絶対にパトラーを助け出そう」
私たちは言葉を交わしながら、第1会議室を出ていく。廊下を歩いていると、“ウワサ好きのヴィクター”とコミットと出会う。
「あ、フィルドさん! 聞いてくださいよ!」
「今度はなんだ?」
「実は1ヶ月ぐらい前からウワサになっていたんですけど、パトラーさんって連合政府のルイン本部に捕まっているらしいですよ……!」
「…………!」
ヴィクターの言葉に、私とシリカは顔を見合わせる。お互い笑いがこみ上げてくる。
「えっ? ど、どうしたんですか?」
「いや、何でもない。前回のウワサは本当になったな」
以前、ヴィクターが話してくれたネオ・ヒーラーズ独立のウワサ。フェールやスギライトを中心メンバーに、10万人のクローン兵が独立し、新しい国家を作る。あの時の私は呆れ、笑ってしまった。
だが、それは真実になった。本当にシリオード大陸で10万人のクローン兵たちがネオ・ヒーラーズを作り、独立してしまった。
「“今度も”本当になるといいんだがな」
「えっ? えっ?」
「フィルド中将、それはどういう意味ですか……?」
「…………。後で分かるかもな」
「…………?」
不思議そうな表情を浮かべるヴィクターとコミット。私たちは2人を背に、飛空艇離着陸場へと足を進める。極秘任務だ。まだ話すワケにはいかない。
「さて、遂にルイン本部での任務か」
「連合政府の本拠地だ。油断はできない」
私はそう言いながら、デルタ型をした3人乗りの小型戦闘機へと乗り込む。シリカが操縦席の後部座席に乗り込む。私たち2人を乗せた小型戦闘機はゆっくりと浮上し、北東方向に機体の先を向ける。
「絶対に助けるからな……」
私は誓うように呟き、太陽の光が照り付ける軍事総本部の飛空艇離着陸場から、北東に向かって小型飛空艇を飛ばす。
ルイン本部にいるのなら、もう少しだけ待っていて欲しい。必ず助ける――!




