第1話 待ちわびた再会
※フィルド(本作の主人公)視点です。
固い絆で結ばれた2人。
弟子は師を信頼し、
師もまた弟子を信頼していた。
あるとき、弟子が消え、師はひとりとなった。
再会を求めるのは当然のこと。
だが、再会から動き出す黒い歯車。
それに、師は気づかない――
私は剣を抱き締め、薄暗く狭い大型戦闘ヘリの中で椅子に座っていた。外からは絶えず、砲弾が飛ぶ音や激しい銃撃音が聞こえてくる。
「フィルド中将、間もなく敵の旗艦です」
「……ああ」
白地に青いラインが入った軍服を身に纏った女性軍人――コミット准将が私に声をかけてくる。それに対し、私は俯いたまま返事を返す。心あらずの返事だった。
剣をぎゅっとより強い力で抱きしめる。頭に思い浮かんでいたのは、この剣の持ち主――私の弟子のことだ。
「コミット准将、敵旗艦を護衛する軍艦が破壊されました。これより一気に小型飛空艇プラットホームに入ります」
「了解っ!」
大型戦闘ヘリ――ガンシップを操縦するパイロットと、コミットとの会話を私は聞き流しながら、操縦席の窓から向かう方向に目をやる。黒い大きな航空機――飛空艇“司令艦”が浮かんでいる。あそこに敵の指揮官がいる。
私の弟子は2ヶ月前、戦いのさ中にいなくなってしまった。その戦いも、こういった空中戦だった。まだ、その死体は見つかっていない。
2ヶ月前のあの日、私の弟子は敵の飛空艇に乗り込み、そこでいなくなった。その後、その飛空艇は海に墜落した。
「…………ッ!」
イヤなことが頭に思い浮かぶ。――もう、彼女は死んだんじゃないのか? 大型飛空艇は炎上しながら海に沈んだ。死体が見つからないのは当たり前のことじゃないか。なにを言っているんだ?
「うるさい!」
「えっ?」
「…………!」
私ははっと顔を上げる。コミットや、白地に青いラインが入った強化プラスチック製の装甲服を纏った兵士たちが私に顔を向けている。
「あ、いや、何でもない」
私は額の汗を拭いながら、“彼女たち”にそう返す。しばらくすると、ガンシップの向きが勢いよく変わる。同時に機体後方の扉が開く。……敵軍の司令艦に到着したらしい。味方の兵士たちが武器を手に飛び出していく。私もそれに続く。
「ふふっ、来たな」
ガンシップから司令艦のプラットホームに飛び降りると、やや距離を開けたところに、黒いレザースーツに白いマントを纏った敵軍の女性指揮官――コマンダー・ライカが待ち構えていた。彼女の後ろには、武器を携えた何百体という戦闘ロボットが控えている。
「“パトラー=オイジュス”は死んだ。次は君の番だ!」
「貴様ッ!」
私は剣を引き抜き、コマンダー・ライカに飛びかかる。早くも冷静さを失っていた。彼女は床を蹴って、後ろに下がる。入れ替わるようにして青いマントを羽織った鋼の騎士型ロボット――バトル=パラディンが飛び出してくる。
パトラー=オイジュス。私の弟子だ。長い間、ずっと一緒だった唯一無二の仲間。誰よりも大切なパートナー。私がずっと探している女性だ。
「フィルド中将、落ち着いてください! ただの戯言です!」
後ろで叫ぶコミットの声が耳に入らない。私は槍を手に突きかかってくる何体ものバトル=パラディンに対し、剣を鞘から引き抜く。白い剣の刃に黒い煙――驚異的な破壊力を有するラグナロク魔法が纏わりついていく。
私は正面から飛びかかってきたバトル=パラディンの腰を斬り裂く。鋼の騎士型ロボットは斬り飛ばされ、別のバトル=パラディンを巻き込んで遥か遠くの壁に叩き付けられる。
間髪入れずに私は、槍をぐるぐると回しながら私を突き殺そうとするバトル=パラディンを縦に真っ二つにする。流れるようにして目の前に迫って来ていた別のバトル=パラディンの頭を横に斬り飛ばす。
「う、うわっ、ひぃ……!」
コマンダー・ライカが逃げ出す。私はバトル=パラディンを2体まとめて斬り捨て、それが倒れるのを目にせず、彼女を追いかける。
だが、後ろに控えていた何百体もの下級人間型戦闘用ロボット――バトル=アルファたちが一斉に襲い掛かってくる。その手には連射式銃火器――アサルトライフルを携えていた。一斉に銃撃してくる。
「フィルド中将っ! 全兵、バトル=アルファを片付けろ!」
「イエッサー!」
私の後ろでは、白い装甲服の兵士たちが前にまで走り出るとアサルトライフルの銃口を前方に向け、バトル=アルファたちに銃撃を始める。一部の兵士たちは炎の弾――火炎弾や、電気の弾――電撃弾を飛ばしてくる。――いずれも魔法だ。“彼女たち”は普通の人間じゃない。
私は群がってきたバトル=アルファたち向かって、手のひらをかざす。僅かな間を置いて、何十体ものバトル=アルファの身体が斬れ飛ぶ。――これも魔法の一種だ。魔法で斬撃を飛ばした。私も普通の人間じゃない。
「んんっ、なんだ君はっ!?」
「…………?」
コマンダー・ライカが廊下に通じる扉の前で妙な声を上げる。私が魔法を使えることぐらい、今初めて知ったワケじゃないだろう。では、一体なんのことについてだ……?
私はバトル=アルファたちに魔法弾や斬撃を飛ばしながら、少しずつ進んでいく。コマンダー・ライカにある程度追いついたときだった。
「えっ……?」
扉の前に誰か立っている。黄色い髪の毛をし、ボロボロになった灰色の軍服を纏う女性。恐らくは軍人だ。――私の頭にある可能性が浮かぶ。だが、なぜ?
彼女は腰に装備していた銀色の小型銃火器――サブマシンガンを手に取る。なんの偶然だ? いなくなった私の弟子も同じサブマシンガンを使っていた。
「う、うわっ! な、なんでここにいるんだっ!?」
コマンダー・ライカが怯えたような口調で言う。それに構わず、彼女はゆっくりと私とコマンダー・ライカの方に向かって歩いてくる。……その足取りは決して軽いものじゃない。少しフラつき、今にも倒れそうだ。幸いにして、コマンダー・ライカは気が付いていないようだが。
「ひぃっ、こんなの反則だっ!」
コマンダー・ライカは恐怖が限界に達したのか、慌てふためきながら逃げ出す。私はもはやあんな小物、追う気になれなかった。
サブマシンガンの銃口をこっちに向けていた彼女の手から、それが落ちていく。急に膝が曲がり、崩れるようにして倒れようとする。私はそこから走り、今まさに正面から倒れようとした彼女を抱き留める。震える手で彼女を動かし、正面を向かせる。そして、激しく動揺しながら問うた。
「――パトラーか?」
酷く疲れた様子の彼女はしばらく何も言わなかったが、やがて無言で私の問いに、ゆっくりと頷いた――