第16話 ヒーラーズ・グループ
※スギライト(ネオ・ヒーラーズの幹部)視点です。
創造者に虐げられ続けたクローンたち。
求めたのは安息の国。
だが、そんなものはどこにもない。
かつての既存国家は、クローンを道具にするだけであった。
だからこそ、1つの理念が生まれた。
クローンの、クローンによる、クローンのための新国家。
それは新たなる白い夢であった。
だが、そこに隠されていたのは、黒い夢でもあった――
クローンの、クローンによる、クローンのための新国家。その構想を初めて耳にしたのは、もう2年も前になる。
当時はまだ連合政府の勢いが激しく、私たち「ヒーラーズ・グループ」はその一角を担っているだけだった。
――EF2013年8月【コスーム大陸 レート州 レートシティ】
中央大陸の東部にレートシティという都市がある。そこは既存勢力の1つ――国際政府と、「ヒーラーズ・グループ」が所属する連合政府が激しく争っている地域だった。この日も私は連合政府軍人として、国際政府軍と戦った。結果は引き分け。いつものことだった。
私は灰色のレンガで造られた半壊の建物内で体を休めていた。同じ部屋にはカルセドニー准将――後のクリスター政府中将もいた。彼女が私の当時の上官だった。
「カーネル・スギライト。クローンの、クローンによる、クローンのための新国家を一緒に作らないか?」
「は? ク、クローンの……?」
当時は連合政府の大佐でしかなかった私に、カルセドニー准将の言い出したアイデアは思いつきもしなかったことだった。
クローン兵士は使い捨ての軍人。言ってしまえば、戦闘用人間型ロボット兵器――バトル=アルファと何ら変わりはない。量産型の兵士でしかなかった。
「コマンダー・カルセドニー准将、何をおっしゃっているのですか……? そんなこと不可能ですよ」
「コマンダー・ソフィア少将も賛同しているんだ」
「いや、お二人が賛同していても、そもそも連合政府が許さないですよ。そんな構想がバレたら――」
「リーダーはコマンダー・エデンだ」
「エ、エデンっ!?」
当時の私はリーダーの名――コマンダー・エデンの名前を聞き驚いた。コマンダー・エデンは連合政府の軍人。その強さは何者にも及ばない。そして、同時に彼女は“反逆者”でもあった。
「あ、あのエデンが……!?」
ボロボロのベッドに座っていたカルセドニー准将は、私の方を向いたまま無言で頷く。
エデンは連合政府リーダーの1人を殺そうとした。それは失敗に終わったが、その事件の後に別の連合政府リーダー――「ヒーラーズ・グループ」のリーダーを殺害した。
重要なのは、エデンは“「ヒーラーズ・グループ」のリーダーの息子”と共謀して、殺害を行ったことだ。エデンと共に“自らの親を殺した少年”は、「ヒーラーズ・グループ」のリーダーになった。事実上、エデンは「ヒーラーズ・グループ」を乗っ取った。
「ヒーラーズ・グループはクローン兵80万人を有する組織だ。計画が成功する可能性は低くはない」
「で、ですが……」
「連合政府は私たちを道具程度にしか思っていない。いつまでも使い捨ての道具でいちゃダメだ」
「…………」
私はカルセドニー准将の誘いを断らず、一緒に「ヒーラーズ・グループ」へと移り変わった。こうして連合政府に使われる日々は終わりを告げた。
だが、クローンの、クローンによる、クローンのための新国家。その理想は幻でしかなかった。
*
――EF2014年9月【コスーム大陸 ホープ州 ヒーラーズ・グループ本部要塞】
私が「ヒーラーズ・グループ」に所属してから1年。ついに「ヒーラーズ・グループ」は侵略戦争に打って出た。既存国家を打ち倒し、私たちの楽園を作ろうとした。このとき、私たちの軍は140万人にもなり、その勢いは既存国家を凌駕していた。
だが、“エデンの真意”を見破ったソフィアは、突如として60万人ものクローン兵を引き連れて臨時政府(今のクリスター政府)に降伏した。
ソフィアの電撃離脱。その後も大勢のクローン兵や幹部たちが臨時政府に降伏していき、「ヒーラーズ・グループ」は大半の兵を失った。
私もその中の1人だった。私は降伏したくて降伏したワケじゃない。エデンと臨時政府を比べた結果、仕方なく降伏した。
*
ソフィアの降伏から1ヶ月後、圧倒的な勢力を誇っていた「ヒーラーズ・グループ」は呆気なく崩壊することになる。
「さ、最期に教えて欲しいんだ……」
「ハッ、今更…なにを、だ?」
「…………」
エデンはクローンの、クローンによる、クローンのための新国家を作る気はなかった。彼女は自分自身の思い通りになる独裁国家を作りたいだけだった。
「僕のこと、好き、だった……? ぼ、僕はエデンのこと、好きだったよ……!」
「…………」
「エデンは、どうか、な?」
“親殺しの少年――セネイシア”も、またクローンの、クローンによる、クローンのための新国家を作る気はなかった。あの少年は、ただ単にエデンに惚れていただけだった。
「――バカか、お前」
「…………!」
「お前を、抱く度にっ、私は…虫唾が、走った。お前のような、子供を…この私がなぜ、抱かなくちゃ、ならんのだ……」
「エデンっ……」
エデンは「ヒーラーズ・グループ」を乗っ取るために、あの少年を利用しただけに過ぎなかった。言ってしまえば、彼はエデンの道具でしかなかった。
「そ、そっか。そうだよ、ね。ごめんねっ……。でも、僕は、エデンのこと、まだ好きだよ」
セネイシアは、臨時政府に降伏した私たちやパトラーたちによって瀕死に追い込まれたエデンにトドメを刺した。世界最強のクローンと謳われたエデンの最期だった。
こうして「ヒーラーズ・グループ」は崩壊し、臨時政府に吸収されていった。だが、あの理想は消えなかった――。




