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偽りからの挑戦 ――絆の脅威――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第4章 †真相† ――クリスター政府首都ポートシティ――
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第15話 偽りからの挑戦

※前半はシリカ視点です。

※後半はフィルド視点です。

 私はあの日――パトラーがフィルドと再会した日のことを思い出していた。フィルドと大型飛空艇の作戦会議室でフィルドした会話。パトラーがなぜ、連合政府軍の飛空艇にいたのか。


――実は助けた彼女は“クローン”で、私たちを欺く作戦でも行われていない限りな。


 パトラーがいた理由を、フィルドはこっそり飛空艇に乗り込んだと言った。それに対し、私はパトラーがクローンじゃないのかと言った。

 そのときは冗談のつもりだった。私自身、フィルド・クローンがこの世に存在するハズがないと思っていた。

 フィルド・クローンの開発には5年以上の月日がかかった。そのコストも膨大なものだった。今更、新しく別の誰かのクローンを作る必要はない。その力は、今の連合政府に存在しない。開発していても、まだ途中だ。

 そんな考えが、私にクローン・パトラーの冗談を口走らせた。だが、それは冗談ではなかった。今ここにいるのは、パトラーのクローンだ。私たちを欺く作戦が行われていた。


「フィ、フィルドのクローンだけじゃなくて、パトラーのクローンまで……」


 クラスタが珍しく冷静さをやや失っていた。パトラーとクラスタ。クリスター政府の基礎を共に作った2人。受け入れがたい事実だろう。だが、これが事実。ここにいるパトラーはCP5。パトラーではない。

 私は右手を軽く振り、合図を出す。廊下から2人のクローン将官――オリーブ准将とハーブ准将が現れ、クラスタの手を引いて、彼女を半ば強引に連れ出す。クラスタは動揺しつつも、素直に従って部屋を出ていく。


「逃がしたのか?」

「現職の防衛大臣に死なれては困るからな」

「……残念だ。作戦は失敗か」

「大人しく降伏しろ」

「却下」


 CP5は懐からナイフを取り出す。白く鋭い刃をしたナイフだ。それを手に握る。


「…………。最後に言っておく。シリオードのフィルドからパトラーと一緒にいるとの連絡があったというのはウソだ」

「…………!?」

「それと、データが書き換えられた跡があったというのもウソだ」


 今度はCP5が驚く番だった。彼女はナイフを持ったまま、目を見開き、唖然としている。だが、すぐに私への怒りを表す表情へと変わる。

 いずれのウソも、賭けだった。これでCP5が自ら正体と作戦を暴露してくれなかったら、私たちは偽物を信じ続けるところだった。そして、真実を言い続けたソフィアを失うところだった。


「騙したのか」

「お互いさまだ」


 政府中枢――クラスタ、フィルド、ソフィア、フェスター政府代表、……。あまりにパトラーと仲が良すぎた人が多すぎた。彼女との再会に喜び、ワナにかかっていった。

 私はパトラーとはほとんど面識がない。数回程度しか話したことがない。それもあってか、最初からどこか何となく違和感を感じていた。だからこそ、彼女を試すことができた。


「だが、シリオードのフィルドから連絡がなかったんだな?」

「…………?」


 フィルドは極秘任務でパトラー――CP4と一緒にシリオードに行ったきり、何の連絡もない(最も、これ自体は驚くところじゃないが)。


「…………!」


 この時になって私は恐ろしいことに気が付いた。――フィルドはパトラーが偽物だということを知らない。今も一緒にいるのは自分が溺愛する弟子・パトラーだと思っている。


「まさか……!」

「クク、これと同じナイフで心臓を一突きにしてないといいな。CP4の任務はネオ・ヒーラーズの軍勢が待ち受けているところにフィルドを誘導し、その場で彼女を殺害することだ」

「…………!」

「さて、創造者の任務を果たせないのは残念だが――」


 CP4はそう言うと、いきなりナイフを自分の喉に勢いよく突き立てる。鋭い刃がCP4の喉を貫き、大量の血を迸らせながら、彼女の命を奪う。彼女の体は血まみれになりながら倒れる。


「コミット、あとは頼むぞ!」

「えっ、あっ、はい!」


 廊下で呆然としていたコミットにそう言い残し、私はその場から廊下を走っていく。もはや一刻の猶予も残されていないらしい。今すぐにシリオードに向かわないとフィルドが殺される。今すぐに向かわないとフィルドが――!



◆◇◆



 【シリオード大陸 シリオドア・ノース】


「…………」


 私たちを取り囲む大勢のクローン兵。胸や腹は銀色をし、腕や脚に青色をした強化プラスチック製の装甲服を纏う彼女たちは、ネオ・ヒーラーズのクローン兵たちだ。多くが旧ヒーラーズ系クローン。

 彼女たちの遥か後ろには、メイド服のクローン――ネオ・ヒーラーズのリーダー・フェール、灰色の軍服を纏ったスギライトら幹部たちもいる。


――初めまして、フィルドさん……。


 私の頭にクローンの声が響く。後ろにいるパトラーから聞いていた。フェールはテレパシーを使う。肉声を発さずとも、声を相手に届けることができる。


――あなたがここに現れることは、事前に知っていました……。


「ほう、――」


 誰が教えたのかは言わなくても分かる。ネオ・ヒーラーズにくみするソフィアだろう。それとカルセドニーやカイヤナイトらヒーラーズ系クローンたち。早いところ首都に戻り、ヒーラーズ系クローンを一掃した方がよさそうだな。


――いいえ、違いますよ。


「…………!?」


 フェールの落ち着いた冷たい声が頭に響く。彼女は読心リーディング・マインドといった高度な魔法まで使える。彼女はヒーラーズ・グループ時代には最高の魔導士だったらしい。言い換えるなら、最強の魔法使い。厄介な相手がリーダーになったものだ。

 だが、違うというのはどういうことだ? ソフィアらヒーラーズ系以外にも裏切者がいるのか? ま、まさか、ヴィクターやコミットか!?


――ふふっ、違いますよ……。クリスター政府を崩壊させようとしているのは、――


 そのときだった。


――あなたの後ろにいる娘ですよ……。


 左胸に鋭い痛みが走る。血がべっとりとついたナイフの先端が、自分の胸から飛び出す。真っ赤な鮮血が滴って落ちていく。


「なっ……!?」


――信頼していた弟子に、裏切られる気分はどうですか……?


 フェールが俯き加減のまま、うっすらと笑みを浮かべる。左胸に激痛が走っている。私の体がゆっくりと倒れゆく。

 信頼していた弟子? 弟子はパトラーしかいない。だが、パトラーが裏切るワケない。フェールの言っている意味が分からなかった。


――偽りからの挑戦。フィルドさんは解けませんでしたね……。

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