第14話 CP
※クラスタ視点です。
「シリカ……?」
「…………」
シリカは黙ったまま、私からソフィアのメールが印刷された紙を奪い取り、後ろにいるパトラーと少しの間を開けて向き合う。
「シリカ、どうしたの……?」
「…………。……フィルドはどこにいる?」
シリカは落ち着いた声で、真っ直ぐとパトラーの方を見ながら言う。何を言っている? フィルドは極秘任務でシリオードにいる。それはシリカも知っているハズだ。
「フィ、フィルドさんならシリオードにいますよ? ご、極秘任務ですよね?」
「ああ、そうだ。だが、不思議なことがある」
「不思議なこと?」
「さっき、フィルドから連絡があった。……パトラーと一緒にシリオードにいる、とな」
「パトラーと……!?」
私は驚きの声を上げる。パトラーと一緒にいるハズがない。パトラーはここにいる。……じゃぁ、フィルドが偽りを言っているのか? 何のために!?
一方、パトラーの表情が変わる。下唇を軽く噛み、明らかに焦っているかのような感じを見受ける。……なぜ?
「それと、あの旗艦爆破事件、爆発時はどこにいた?」
「ろ、6号艦に……」
「いや、爆発が起きたとき、お前の姿は誰も見ていない。監視カメラにも映っていない。お前が出て来たのは、爆発が起きたことが全艦に知れ渡った直後からだ。旗艦から6号艦に乗り移った形跡もない」
6号艦に乗り移った形跡がない? どういうことだ……? もし、シリカの言うことが真実なら、パトラーは空を飛んで乗り移ったことになるぞ?
……ソフィアの主張と合わせなるなら、パトラーは爆発の直前まで旗艦にいて、爆発と同時に6号艦にワープしたことになる。だが、ワープなんて魔法を使えるクローンはいない。もちろん、人間が使えるハズもない。
「そして、このメール。どうやって入手した?」
「情報管理室で――」
「昨夜、情報管理室に入ったことは確認されている。だが、なぜ5時間もいた? メール1つ探すのに時間がかかり過ぎていないか? しかも、その5時間、職員を全員部屋から出したそうだが?」
「ヒーラーズ系クローンもいたから……」
「さっき、報告があった。……通信システムのデータが書き換えられた跡があると」
「…………!!」
パトラーの表情が凍りつく。明らかに動揺している。手が震えている。……まさか、パトラーが通信システムのデータを書き換えたのか!? このメール文は――細工された!?
「そして、最後だ。クラスタの公邸が爆破されたとき、お前はどこにいた? あの時間帯、お前の姿を見た者は誰もいないし、監視カメラにも一切映っていない」
「シリカ、どういうことだ……? まるでそれじゃ、――」
――パトラーが一連の事件の犯人みたいじゃないか!
「…………。ふふっ――」
パトラーはやや俯き加減になり、口端を軽く吊り上らせる。不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと顔を上げていく。
「ま、まさか、お前っ……」
「…………」
「――バレたか」
私に戦慄が走る。バレただと!? 一連の爆破事件は――フィルドの溺愛する弟子・パトラーの仕業だったのか!?
「フフ、ハハッ! そうさ! クラスタの公邸を爆破したのも、旗艦を沈めたのも全部“私たち”の仕業だ! 連合政府の旗艦で出会ったのも計画の内だ!」
「なッ……!?」
「“私たち”はクラスタを、シリカを、ソフィアを、フィルドを消すためだけに送り込まれた」
……私たち? 私たちということは他にも誰か送り込まれた人間がいるのか? 私はパトラーの言葉に違和感を覚える。
「偶然にもクラスタ公邸爆破は失敗した。だが、事態は面白い方向に流れた。疑いはヒーラーズ系クローンに向けられた。そこで“私たち”の創造者は、任務を追加した。――クリスター政府特殊軍分裂という任務を、な」
「…………!」
「あの旗艦では、上手くソフィアの視界に入り、ワザとこそこそ動いて後を追わせ、エネルギー・プラントに入った。後はご存じの通り。バカなソフィアは私が犯人だと言い張り、フィルドと対立してくれた」
話を続けるパトラー。私はゾッとしていた。イヤな汗が身体中から滲み出る。私たちは、何者かが引いたレールの上を歩かされていたのだ。
「そして、フィルドに極秘任務が下った。“私の仲間”が一緒にシリオードに向かった。極秘任務はフィルドだけに下っていた。弟子を溺愛し、守る為に彼女は密かに“私の仲間”をシリオードに連れて行った」
仲間だと!? パトラーにソックリな人間がいるのか!?
「だが、そのフィルドがまさか、お前に同行したことを伝えるなんて予想外だった。それを許す“アイツ”は何しているんだ」
「ま、待て! まるでその言い方だと、パトラー、お前は複数いるみたいじゃないか! そんなことあり得るか!」
「あり得る」
「えっ?」
シリカが少しだけ私の方を振り向いて言う。そして、彼女は思いもよらぬ事を口にした。そしてそれは、全ての謎を一気に溶かした。
「――コイツは、いやコイツらは“クローン”だ」
「…………!? ク、クローン……?」
「最初に再会したクローン・パトラー――CP1は公邸爆破で死んだ。自爆さ。そこからのパトラーはCP2。彼女は旗艦を爆破させて死んだ。そして、6号艦に最初から乗り込んでいたのはCP3。彼女は軍事総本部の倉庫爆破事件で。そこからは今、シリオードにいるCP4。今ここにいるのは私――CP5だ。カラクリ、理解したか?」
目の前にいるパトラー――本人曰くCP5は、ニヤニヤしながら話す。私は呆然とその場で突っ立っていた。あまりのショックで、何も言えないでいた。




