第13話 ソフィアの裏切り
※クラスタ視点です。
【クリスター政府首都ポートシティ 軍事総本部】
私は小型飛空艇から降りると、1人で軍事総本部内を走って行く。
パトラーがいる。だが、ヴィクターの話だとフィルドと一緒に行ったハズだ。今はここにいないハズだ。……考えられるのは、フィルドが帰ってきた、その可能性があることだ。
今、フィルドに戻られると厄介だ。ソフィアを解放してしまっている。フィルドからすればそんなことは絶対にあり得ないと思っているハズだ。――余計な火種になる!
「クラスタ防衛大臣閣下!」
軍事総本部内を走っていると、コミットが声をかけてくる。私は足を止め、彼女に視線を向ける。
「コミットか、フィルド見かけたか?」
「フィルド中将ですか? いえ、見かけてませんけど……」
見かけていないだと!? じゃぁ、隠れているのか? いよいよ、私とも対立しそうだな。パトラーやシリカに間を持ってもらうしかない。どうやって、関係回復につなげるか……。
「それと、さきほどパトラーさんが爆破事件の件で話があると……」
「…………!」
「シリカ大将とクラスタ防衛大臣だけにお話ししたいとのことです」
「私たちだけに?」
「ええ、そのようです」
「……今、どこにいる?」
「第146会議室です。恐らくシリカ大将もすぐに来るか思います」
「そうか、分かった」
私はコミット一緒に軍事総本部の本館内を走って行く。パトラーはソフィアと並んで爆破事件の中心人物だ。真相に近づける話だといいんだが……。
やがて、私とコミットは第46会議室前に辿り着く。扉をノックし、中へと入る。小さな部屋の中には、パトラーが1人でいた。まだ、シリカは来ていないか。
「あ、クラスタ!」
窓から夕日を眺めていたパトラーは私の方を振り返り、いつも通りの笑顔を見せる。彼女は窓際から離れ、紫色のソフィアに座る。
「コミットから話は聞いた。例の件、重要なことが分かったのか?」
「…………。本当に残念だけど――」
「…………?」
パトラーは黙り込むが、しばらくして顔を上げ、私にしっかりとした目線を向ける。
「ソフィア、やっぱり爆破事件を主導してた」
「なにっ!?」
私の背筋に冷たいモノが流れる。手が震える。これでヒーラーズ系クローンと連合政府系クローンの分裂は確実になった。
そのとき、私の頭に今日の委員会質疑が思い浮かぶ。――ヒーラーズ系クローンがクーデターを起こしたら、それを防ぐことはできるのか?
「しょ、証拠があったのか……?」
震える私の問いに、パトラーは無言で頷く。その表情は暗いものだった。
思い返せば、旧ヒーラーズを降伏させ、仲間にしたのはパトラーと私だった。その仲間に裏切られた。それどころか、降伏させ、仲間にしたことがクリスター政府を危機に晒している。そう考えているのだろう。
「昨日の夜、情報管理室でソフィアの通信記録を調べていたら、一通のメールがあって――」
パトラーはそう言いながら、私に1枚の紙を差し出してくる。私は震える手でそれを受け取り、目を通していく。
『「ネオ・ヒーラーズ」創設とクローン兵団の合流について
クリスター政府は連合政府との戦争を継続することに決めたわ。本当に残念だけど、戦争継続がクリスター議会で決まった。
クラスタ「防衛」大臣は、「防衛」という大義名分で「侵略」を繰り返す気だわ。その任務を背負わされるのは、私たちクローン兵。連合政府が滅べば、次はシリオード帝国。シリオード帝国が滅べば、ビリオン=レナトゥス……。戦争はクリスター政府以外の国がなくなるまで続くわ。
戦争によって兵士として使われるのは、私たちクローン兵。最初にクローン兵を使い始めたのは連合政府。連合政府の酷い扱いに我慢できず、私たちは「ヒーラーズ・グループ」として独立しようとした。
でも、「ヒーラーズ・グループ」は内部争いが激しかった。リーダーのエデンは、私たちを利用して世界征服に乗り出そうとした(覚えているわよね?)。
私たちは、私たちを大切にしてくれると思ってパトラーとクラスタに付いて行った。でも、彼女たちも結局、私たちを無理やり軍人にしたわ。
フェール、スギライト。準備ありがとう。「ネオ・ヒーラーズ」という新国家で、私たちは自由に生きていきましょう。
ただ、連合政府系や退任したクローンからも仲間を募りたいと考えているわ。そして、クリスター政府側からの反撃時の戦力を抑えるためにクラスタとシリカ、フィルドは消しておきたい。合流はもう少しだけ時間をくれるかしら?
ネオ・ヒーラーズ防衛大臣ソフィア』
「…………ッ」
私はパトラーから受け取ったソフィアのメールを印刷した紙を握り締める。なるほど、動機もしっかりしている。
かつて、連合政府によって虐げられていたクローンたち。その一部が「ヒーラーズ・グループ」の構成員となって、クローンに自由を認める国を造ろうとした。
だが、その「ヒーラーズ・グループ」はクローン・リーダーのエデンに利用されているだけだった。エデンはクローンに自由を認める国じゃなくて、自分の独裁国家を造ろうとした。そのせいで、「ヒーラーズ・グループ」は崩壊した。
クリスター政府ではクローンに普通人間と同等の権利を認め、軍からの退官も自由にしていた。なのに、まさかそんなことを考えられているとは思っていなかった。
「…………。……認めるワケにはいかない。ソフィアらヒーラーズ系クローンの将官たちを捕えるぞ」
私はソフィアのメールが書かれた紙を握りしめたまま、勢いよくソファから立ち上がると、すぐ後ろの扉に向かって歩いていこうとした。だが、――。
「待て、クラスタ」
「…………!?」
小会議室の扉を開け、壁にもたれ掛るようにしてシリカが立っていた。




