第12話 見たんですよ
※クラスタ視点です。
【クリスター政府首都ポートシティ クリスター議事堂 イースト議院第1委員会室】
「クラスタ防衛大臣――」
私の座る席――答弁席の右側にいる安全保障特別委員会委員長が私の名前を呼ぶ。右手を軽く上げていた私は、答弁席から立ち上がり、数本のマイクが置かれた台に向かって歩いていく。
「お答え申し上げます」
私は手にしていた資料を、マイクが設置された台の上に置きながら言う。私の目線の先には60人近い与野党の議員がこっちを向いて座っている。
「ソフィア大将解放の件につきましては、いわゆる連続爆破事件の真相を調査・解明するために必要であったことから講じた措置であり、ご指摘のようなヒーラーズ系クローンに対する配慮では全く御座いません。今後も事件の真相解明に向けて首都警備軍と合同で調査を進めていく予定で御座います」
答弁を終えた私は軽く頭を下げ、後ろの答弁席に戻る。椅子に座ると、また与野党議員たちと向き合う形になる。その議員たちの最前列真ん中――質問席に座っていた議員が立ち上がる。
「ソフィア大将を巡っては、――私も信じたくはないのですが、ネオ・ヒーラーズと内通しているのではないかという情報もあります。万が一それが真であれば、我が国は存亡の危機に陥ることも考えられますが、防衛大臣はどのように考えておられますか?」
「委員長っ」
私は軽く右手を上げながら指名を求める。
「クラスタ防衛大臣――」
委員長の指名を受けた私は再び答弁席から立ち上がり、発言台に向かって歩いていく。
「ソフィア大将がネオ・ヒーラーズと内通している事実は勿論のこと、現時点では動機も見当たりません。また、仮に内通していた場合、余計な疑惑を抱かれる前にヒーラーズ系クローン兵はクーデターを起こしているここと考えられます。考えたくはありませんが私やフェスター首相ら閣僚、政府高官を殺害し、このポートシティを占領することもできたハズです」
私はそう言うと、再び答弁席に戻り始める。私が座る前に質問者は立ち上がり、質問を始める。
「ウェスベ警備大臣、あり得ない事態だと思いますが、ヒーラーズ系クローンがクーデターを起こそうとした場合、首都警備軍でそれを防ぐことは可能ですか?」
「ウェスベ警備――」
委員長が指名しかけたとき、私はやや離れた場所に座る1人の男性を指差す。警備軍首都部隊の長官レイズだ。正直、ウェスベは議論に弱い。あの男の方がいいだろう。
「えー、政府参考人――」
「ちょっと、警備大臣! 警備大臣ですよ! ウェスベ大臣、警備軍のトップなんですから! 首都警備にお詳しいハズのウェスベ――」
「“もっと詳しいレイズ警備軍首都部隊長官”っ!」
委員会室に大勢の笑い声が上がる。白地に黄色のラインが入った軍服を纏った男性――レイズが立ち上がる。彼は私やウェスベの前を通り、発言席に立つ。
「お答え申し上げます。首都警備システムは9割がすでに完成・稼動しており、また首都警備部隊にも多くの有能な人材が集まっておりますので、クーデター等の発生時には迅速に対処されるものと考えております」
答弁を終えたレイズは自席に戻っていく。質問者が立ち上がる。
「強兵揃いのクローン部隊がクーデターを起こしたとき、首都警備システムや警備兵だけで対処することはどう考えても不可能であることを指摘して、質問を終わらせて頂きます! ありがとうございましたッ!」
拍手が沸き起こる。質問していた議員が下がっていく。彼の指摘したこと、間違いではない。ヒーラーズ系クローンが一斉にクーデターを起こせば、首都警備軍だけじゃ防ぎようがない。そういった意味で、私は賭けをしているのかも知れない。
「本日の質疑は終了しました! これにて散会致します!」
与野党の議員がバラバラと立ち上がり、同僚議員に声を掛け合いながら委員会室を後にしていく。私やウェスベ、レイズも立ち上がり、委員会室から出ていく。
「クラスタさん、お疲れ様です!」
委員会審議が終わり、議事堂の廊下を歩いていると、連合政府系クローンのヴィクターが声をかけてくる。私はウェスベと別れ、彼女と一緒に大勢の議員やメディア関係者のいる廊下を歩いていく。
「そういえば、パトラーさんとフィルドさんに何か命令出したんですか?」
「……なんの話だ?」
「昨日の夜、フィルドさんにパトラーさんが言ってたんですよ!」
「何をだ?」
「“シリオードに一緒に連れて行って”って」
「…………!?」
私はぎょっとしてその場で立ち止まる。数歩前に出たヴィクターが不思議そうな表情で見てくる。
フィルドに出した任務は極秘任務だ。なぜパトラーが知っているんだ? いや、あれだけ弟子を溺愛するフィルドだ。パトラーにだけは話していても不思議じゃない。
「フィルドとパトラーはどこで話していたんだ?」
「軍事総本部の飛空艇離着陸場セントラルタワー内ですよ。それでフィルドさんがパトラーさんに黒いローブを被せて、一緒に行っちゃいました」
「……その場に誰かいたか?」
「誰もいなかったですよ。私も、曲がり角のカゲからこっそり聞いてただけです」
……と言うことは、他の人間にバレているワケではなさそうだな。私は内心、ほっと安心しながら廊下を歩いていく。
ただ、パトラーがいなくなったことは少し残念だった。本当は彼女にも調査に協力して欲しかった。大きな協力者を失った感じだ。
「でも、変なんですよ」
「何がだ? フィルドとパトラーはいつも一緒じゃないか」
「あ、そっちじゃなくて、さっき見たんですよ」
「何をだ?」
私はもうすでにヴィクターの話を聞き流していた。頭の中では今後の調査をどうやって進めていこうか、それを考えていた。
だが、ヴィクターの次の一言は、私の意識を無理やり会話に引き戻した。
「パトラーさん、見たんですよ」
「――は?」




