第10話 倉庫爆破事件
※フィルド視点です。
【クリスター政府首都ポートシティ 第1区】
旗艦爆破事件から3日後、私はポートシティの軍事総本部付近にあるレストランで食事をしていた。ポートシティの第1区にはクリスター議会議事堂や各行政省庁の本部ビルがあり、その関係で官僚や議員といった政府要人を多く見かける。ビルの最上階にあるこのレストランとて例外じゃない。
「――それで、ヒーラーズ系クローンと連合政府系クローンの間があまり良くないということですか……」
エメラルドグリーンの装甲服を纏った男性軍人――ジェルクスが言う。彼はクリスター政府“警備軍”に所属する軍人だ。
警備軍は世界各地で展開する地元部隊。国防を任務とする特殊軍とは違い、警備軍は治安維持・警察権行使・魔物討伐が主な任務だ。構成員の2/3が普通人間で、残りの1/3がクローン兵だ。
「ソフィア大将はパトラーが旗艦爆破事件の犯人だと言っているんですよね?」
私の横に座る女性軍人――ルーシーが言う。彼女もジェルクスと同じでクリスター政府軍警備軍に所属している。
「ああ、何を考えているかは知らないがな」
私は透明のグラスに注がれたカクテルを口に運びながら言う。
あの爆破事件が起きたとき、パトラーは別の中型飛空艇にいた。これは監視カメラや複数のクローン兵士たちの発言から間違いないものになっている。一方、ソフィアの主張には証拠が1つもない。
「今日、クリスター議会の安全保障特別委員会では、ソフィア大将からの説明を求める意見が相次いだと聞いています」
「当然のことだな」
「一連のことでヒーラーズ系クローンがクリスター政府内で孤立しつつあると言われていますが……」
ルーシーが不安そうな表情で言う。孤立が深まればヒーラーズ系クローンはクリスター政府から分離・離脱するかも知れない。深刻な問題だ。
そのとき、急に辺りが騒がしくなる。数人の議員や官僚が椅子から立ち上がり、窓に向かって何か指差している。
「なんでしょうか……?」
私とジェルクスも立ち上がり、数人の議員・官僚たちが指差している方向に目をやる。――遠くから真っ赤な炎が上がっている。……あの位置は軍事総本部の飛空艇離着陸場だ。
「フィルド――」
しばらく窓に視線を向けていると、後ろから1人の男性軍人が声をかけてくる。パトラーと一緒にポートシティに戻ってきたときにも会ったスロイディアだ。
「厄介なことになってきた」
「…………? どういう意味だ?」
「今、軍事総本部にいるクローン兵から聞いたが、倉庫の一角で爆発が起きた」
「爆発?」
「その付近にソフィアが倒れていたらしい」
「…………!」
またソフィアが……! 前回の爆発事件――旗艦爆破事件のときにもその現場にソフィアがいた。これで二度目だ……!
私はスロイディアの話が終わらぬ内に、その場から走り出す。後ろでスロイディアが私に留まるように声を上げているが、私は構わずにレストランを飛び出す。
軍事総本部の倉庫で爆発。その付近にソフィアがいた。彼女は大将だ。大将が倉庫に行くことなんて考えられない。ソフィアの性格からしても、それは考えられない行動だった。
とすれば考えられるのは1つしかない。倉庫に爆薬を仕掛けに行った。そんなこと、部下には任せられないのだろう。裏切られたら終わりだ。
だが、爆薬を仕掛けるのに失敗した。誤って爆発させてしまった。もしくは、その倉庫に重大な物があり、それを消すために爆発を起こした。そうとしか考えられない。
*
【軍事総本部 倉庫付近】
私は夜のポートシティを走り続け、軍事総本部へと入る。大きな三角状の屋根をした倉庫が立ち並ぶ薄暗いエリアを駆けていく。もうすぐ爆発が起きた現場だ。大きな炎。それを鎮火するための放水機が空を飛んでいる。
「フィルド――」
「…………!?」
現場へと急ぐ私の前に、数十人のクローン兵を引き連れたクラスタとシリカが現れる。彼女たちは道をふさぐようにして並ぶ。
「クラスタ、シリカ。爆発現場にソフィアがいるらしいな」
「……ああ、旗艦爆破事件の時と同じ状況だ。彼女がそこにいた理由含めてな」
「なに?」
「ソフィアはパトラーを追って倉庫へと向かったらしい。彼女が倉庫に近づいた途端、倉庫は爆発した」
「それはソフィア自身が言っているのか?」
「…………」
シリカは無言で頷く。そうか、だとしたらいよいよ確定的だ。ソフィアは私の弟子を犯人に仕立て上げようとしている。
「シリカ、クラスタ、道を開けろ」
「いや、ダメだ。お前が行けば話がややこしくなる」
「じゃぁ、“ネオ・ヒーラーズのソフィア”を放置しておくのか?」
「…………」
「答えろ!」
沈黙したクラスタとシリカに向かって、私はつい声を荒げてしまう。剣に手がいきそうになる。
「……ソフィアを逮捕し、事件の早期解明を行う。以上だ」
クラスタはそう言うと、白いマントを翻して数人のクローン兵と共に去っていく。残ったシリカが私に向かって歩いてくる。
「クラスタは頭のいい戦術士だ。任せておけばいいだろう」
「…………」
私はシリカと一緒に、勢いの収まった炎を背に歩き始める。だが、私の心の炎は全く収まっていなかった。ソフィアへの怒りは、より強いものになっていた――。




