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赤と黒、そして光  作者: 水島順太郎
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序章~はじまり、新しい地へ~(9)

さすがに長年使われていなかった風呂場については業者を呼んで掃除してもらったらしく、ボタン一つであとはお湯がたまるのを待つだけだった。

お湯が入ると脱衣所で服を脱いで、軽く体と髪の毛を洗った後湯船にどっぷりとつかる。

「ふぅ~」

息を吐き出す長さが今日の俺の苦労を物語っている。新幹線で数時間。新幹線を降りてから祷福村の最寄り駅である鷺ノ宮駅まで電車で約一時間半。鷺ノ宮駅で降りてバスを待つこと四十分。やっとの思いでバスに乗ってから四十五分。もはや旅である。

「ふぅ~」

二度目に大きな息を吐きながら、今後の生活について考える。

まずはこの村での生活に慣れなくてはならない。どこに何があるのか、買い物できるところはあるのか、どんな店があるのか。そういった点も明らかにしておく必要がある。

また、来週からは新しい学校に転校することになる。友達はちゃんとできるであろうか。東京から来たというだけでよそ者扱いされないだろうか。そんなことを考えるだけで、疲れが倍増してくる。

「やめだ、やめ」

せっかく一日の疲れをとるために風呂に入っているというのにこれでは本末転倒である。そう考えて、俺はこれからのことを考えるのを一切打ち切った。

明日以降のことはそのときになってから考えればいい。今日はとにかく、風呂からあがったら寝てしまおう。

それ以上の思考は完全に放棄し、もうしばらくお湯につかった後、風呂から上がった。

俺が使うことになる家具などは数日後に届くことになっている。したがって、今日はベッドなどはなく置いてあった布団を敷いて寝ることにした。

「あ、そうだ」

もうそろそろ寝ようかと思ったとき、無事に祷福村に着いたという連絡を母親に入れることを忘れていたことに気付いた。

その旨のメールを送ると、早くも返信が来た。

『よかった。今日は疲れているでしょうから、ゆっくり休んでね』

そんな文面のメールを見ながら、ふと形態に表示されている時刻に目を向けると、時間はもう十時前を示していた。

いつもなら到底寝る時間ではないが、今日はさすがにこれ以上起きていられそうもない。早く寝たくて母親に『わかった』とだけ返信すると、電気を消して布団にもぐり込んだ。

いよいよ一人暮らしが始まる。朝起きても母親がご飯を作っていてくれるということはなく、晩御飯を家族とともに食べるということもない。

そんなことを考えていると、先ほど風呂に入っているときに浮かんできた数々の不安が再来しそうになったが、もう今日は考えないことに決めたということを思い出し、すんでのところで飲み込む。


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