序章~はじまり、新しい地へ~(6)
それに四十分待ちでまだよかったのかもしれない。例えばこのバス停に着いたとき、直前にバスが行ったばかりだったら、二時間待つことになる。こんなところで四十分も何をしていればよいのだろうか。
それを考えれば四十分なんて待てないということはない。すぐである。俺はそんな風に考えて、なんてことはない、そう思い込むことにした。
しかし、そう思うには今日の俺は長旅と、何より新天地への不安で疲れすぎていたのである。
四十分後。バスが来たときには、丸一日飯を抜きにされた後、ついに目の前に食事が置かれたような思いだった。
バスに乗り込むと車内には誰もいなかったが、もはや意外とも思わず一番後ろの席に座った。
「またここから四十五分か」
先ほど道を教わったおばさんによると、祷福村へはバスでそのくらいかかるらしい。
辺りはすでに暗くなり始めていて、これから山道を通るバスもライトをつけている。
バスのドアが閉まり、ゆっくりと発車する。駅の北側にある山の中に入っていくバスは、まるで異世界へとつながるトンネルへと入っていくように、辺りに木々がたくさん立ち並ぶ薄暗い道を進んでいくのであった。
『祷福村』と名付けられたバス停にバスが付いたのは、辺りがもうすっかり暗くなった頃、時間でいえば六時を少し回ったくらいの時であった。
バスには途中ちらほらと人が乗ってきたが、全員合わせても数人程度で、俺がここで降りたときには、すでにみんな降車した後だった。
バスがまるで俺を置き去りにするように発車し、その姿が完全に見えなくなると、バスのライトの光を失ったバス停周辺は急に暗くなった。
「ほとんど何も見えないぞ」
そう呟きながらも、母親から教わっていた『祷福村』停留所からの村への順路に従って、歩き出す。
幸い獣道のようなところを通るということはなく、ちゃんとコンクリートでの道を進むことができた。
村の人が駅へ行くときに通るために、ある程度は通りやすいようになっているのかなと考えつつ、歩くこと約五分、ついに村の入り口らしき大きな門がシルエットで見えてきた。
「やっと着いた」
俺の短い人生で、一、二を争うくらいの、心の底からの『やっと』を吐き出しつつ、いったん立ち止まって、今日からお世話になる村の入り口をじっと見つめた。
さすがに村の入り口ともなると明かりがないということはなく、門の両側に高さ三メートルほどの電球式の街灯があり、足元などは問題なく見えるようになっている。
視線を上げると先ほどから存在感を出しまくっている大きな門がそびえ立ち、まるで見下ろされているかのような感覚を覚えた。