序章~はじまり、新しい地へ~(5)
前にいる電車との間隔の調整とかなんとかで、若干の遅れを伴いながらも、ほぼ予定通りに新幹線に乗る大きな駅にたどり着いた俺は、あまり来たことのない新幹線乗り場専用のホームに立ちながら電車を待っていた。
春休みとはいえ休みなのは就学している児童や生徒だけなので、ホームには今から仕事で地方に向かうサラリーマンの姿がまばらに見られた。
やがて新幹線がホームに入ってくると、下においていた荷物を手に持ち、乗車の準備をする。
通常の電車よりも豪華な車内に一人で乗ることに少々緊張を覚えながらも、指定された席にたどり着いて、同様にいつも乗る電車よりも快適そうな席に座った。
なかなかの座り心地に思わずふぅ、と一息ついてしまい、その後でおじさんみたいなことをしてしまったなと一人で勝手に恥ずかしくなる。
十一時二十四分。定刻通りに発車した電車は、瞬く間に都心を離れ、本格的に緑の多い山間部へと突入した。昔家族旅行などで山の多い地方に行ったことはあるが、さすがにあまりよく覚えていない。なので今見ているこの光景も、まるで今日初めて見たような感じがして、非常に新鮮だ。
途中何度かトンネルを通りつつ、過ぎゆく景色を見ながら俺はいつの間にか眠ってしまっていたのだった。
新幹線を降車したのは、もうそろそろ三時になろうかという時だった。そこから俺が向かうことになる東福村へはさらに数時間かかる。
東京の電車に乗りなれていて、地方の電車に関してほとんど知識がなかった俺は、何度か駅員に道を尋ねながら、ようやくといった思いで東福村の最寄り駅である、鷺ノ宮駅にたどり着いた。
しかし、村への行き方を道行く人に尋ねた時、思わずえっ?と声に出してしまっていた。
「ここからバスで四十五分、ですか?」
なので今聞いたばかりの情報を、もう一度確認してしまったのも仕方のないことだろう。
俺がそう尋ねると、道を尋ねた中年のおばさんは、おかしそうに笑った。
「あら、あんた外から来た人なのかい?それじゃ、この辺は不便に感じるだろうよ」
そう言って周りを見渡したおばさんにつられるように俺も視線を周囲に向けると、確かに駅前にもかかわらず、春休みらしい賑わいは見られない。
そもそも遊ぶところや買い物ができるところがないのだ。駅の南側にあるのは民家、小さな学校、コンビニ、そしてどこまでも広がる田んぼ。駅の北側にあるのは山である。
地方の山の中である事を考慮したとしても、言い方は悪いが発展していないといわざるを得ないだろう。
そして、今から俺が向かうのは山しか見当たらない北側だというのだから、気が滅入ってしまうのも当然といえる。
「いえ、ありがとうございました」
道を教えてくれたおばさんにお礼を言い、さっそくバスに乗り込むべく、今いる駅の南側から線路を渡って、北側に出る。
しかし、バス停について時刻表を見たとき、再び声を発してしまった。
「えっ!?次のバスは四十分後かよ!」
なんと東福村方面へ行くバスは二時間に一本で、しかも割と早い時間に最終バスが来るようなのだ。
東京が異常なのだろうか。そう考えていや、と心の中で首を左右に振る。確かに東京は電車もバスも数分おきにやってくるが、都市部ではそんなの当たり前だ。
二時間に一本というのがおかしい。そう思うことで、度重なる驚きの連続に対する心の整理をつけた。