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 わけわかんねぇ事ばっか起こりやがる。一番わかんねぇのは、何でこの俺が、一々あいつに関して落ち着かなくなんなきゃいけねーのかって事だ。

 どうなってんだよ……。



 この目の前で繰り広げられてる茶番は何だ?

 白金の肩を少し越した髪が戸惑うように揺れる。空色のセーラー襟のついた膝丈の白いワンピースってもんを身に纏った、人間の年齢で十代半ばのやつがおろおろと小麦色の瞳をせわしなく動かす。

 そんで、

「美しい乙女、さあ、私の手を取るが良い」

 空には強い夏の蒼海、青々とした色濃い緑に満ちた狭間峰に抱かれ、大樹の古木が両腕を広げ木漏れ日の降る木陰を描くその真下。どっから涌いたこの翼が生えた長髪(ロンゲ)男!

 髪も黒で身に付けてる北域風の洋装も黒だ。肌は白い、目は朝焼け色のそいつが、リトの前できざったらしく跪いてるわけだが。

「おい」

「あ。樹宝さん」

 今まさにリトの手を握ろうとしていた野郎から、リトの肩を抱き寄せるように掴んで遠ざけ、睨み付けた。

 翼長髪(ハネロンゲ)野郎がそこでやっと俺に気付いたらしく、「何だお前は」っつー目を向けてきやがった。

「誰だ貴様は。私は乙女と話している。控えろ」

 訂正。言ってきやがった。つーか、控えろつったかこいつ?

「潰すぞ」

 俺に喧嘩売ったよな? しかも、俺のもんに手を出す宣言をして。……ぜってー潰す。

「控えろと言ったのだ。返事は御意はいだろう」

「あ?」

 立ち上がった翼長髪野朗が寝言を言ってきやがった。

「フン。柄の悪い。見苦しい。私の前からく去れ」

「黙れこの羽虫。縛って川に流すぞ」

「あ、あの」

 この野朗流す。そう決意を固めた矢先、リトが声を上げた。

「何だ」

「失礼、乙女。怖がらせたか?」

「あの、き、樹宝さん。その、肩……」

 言葉に俺はリトの視線の先を追う。さっき野朗から引き剥がしてずっと俺はリトの肩を抱き寄せていた。

 それがどうしたんだと、リトをもう一度見ると何故か顔が赤い。何なんだ?

「貴様、乙女からその手を離せ」

 野朗が不愉快そうにそう言ってくる。が。

「は? これは俺のだ。何で離せとか言われなきゃなんねーんだ」

 抱き寄せた肩をさらに引き寄せる。半分胸に抱える形になったら、抱えたリトから「ひゃう!」とか奇声が聴こえた。

 それを見て、野朗の整ってすかした眉がぴくっと動く。ざまぁ。

「その乙女は私の妃に迎える栄誉を授ける者だ。今すぐその手を退けよ」

「さっきから訳のわかんねー寝言ばっかほざくなよ。こいつは、俺のものだ」

 野朗の纏う空気が変わり始める。不快から殺気へ。じわりと全身から妖特有の気が滲む。

 やる気ならやってやろうじゃねぇか。つか、逃がさねぇ。

「なぁーにを、やってるのかなぁん? 樹・宝・さぁ~ん?」

「げ。ビオルさん」

 すかした野朗の顔面にとりあえず拳でも一つ見舞ってやろうかと思っていた所で、空から声とその主が降ってきた。

 衣の翻る音と一緒に軽い着地の音。俺と野朗の丁度間に、薄茶色の布の塊めいた人が降り立った。

 目深に被ったフードから零れた緑青色の髪と色白な顔の口許しか見えないのが常の風精霊を束ねるその人が、手にいつの間にかハリセンとかいう殺傷能力は低いが音と(色々な意味で)ダメージだけはデカいもんを携えている。

「何だこの布は」

 おい、この野朗、今、ビオルさんをっ。

「てめぇ、黙れ」

「あー、もう、良いから樹宝さん!」

 ビシ! とビオルさんが俺をハリセンの先で示した。

「リトさんがぁ、まいっているよぉ! 何してるのぉん」

「へ? ……っておい!」

 いつの間にか、リトが腕の中で顔を真っ赤にしてふにゃりとなって脱力していた。つか、どうしたんだこれ?

「もう……。それでぇ、くふ、どちらさまぁ?」

 ビオルさんが軽く呆れたような声で俺に言ってから、野朗に尋ねた。

「何故、私が貴様のような得体の知れぬ珍妙な輩に名乗らねばならない」

「うふふ。挨拶と自己紹介はぁ、最低限の礼儀でしょぉ? 私はサーディガーディ。あなたは誰かなぁん?」

 最低限の礼儀。その言葉に野朗は軽くムッとしたようだったが、結局は口を開く。

「良いだろう。私は、妖を統べる者。ナハトだ」

「ナハトさんだね。くふん。よろしくぅ。ところでぇ、リトさんにどんなご用意かなぁ?」

 用件を聞くビオルさんに野郎(ナハト)が胸を張る。

「その乙女を私の妃として迎えに来た」

 しまった張った胸ごと叩き割っとくべきだったな。

 ナハトを睨み殺しそうな俺に無言で釘を差すためか、ビオルさんが目の前に立って視界を遮った。

「それはぁ、困るかなぁん。私はぁ、リトさんのぉ後見人みたいなものだけどぉ、ナハトさんはどうしてリトさんを妃に迎えたいのぉ?」

「お前が後見人? ……助けられたからだ。乙女は怪我をした私に優しく手を差しのべ、見返りも求めなかった」

 朝焼けの瞳をナハトが細めるのが、見えねぇけど、視えた。

 それが、胸くそ悪りぃ。

「だから、私はその美しさと優しさに報いるべく、乙女を正室に次ぐ地位の妃として迎えに来たのだ」

「待て」

 この野郎、今、聞き捨てならねぇことを言ってなかったか?

「何だ」

「正室に次ぐ?」

「あー……、ナハトさんやぁ、参考までにぃ、ナハトさんには現在何人の奥さんがいるのかなぁ?」

 その問いに、返ったのは。

「まだ七人程度だ」

 あの羽野郎……。ふざけやがって。

 他に女がいて、リトに求婚? 絶対潰す!


恋歌遊戯 魔王の求婚 第二話「二人目」


 リトに近づくんじゃねぇよ!

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