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静かに体を伝い流れていくシャワーのお湯には自分の体液が混ざっている。

もしかしたらそっちの方が多いんじゃないかというほどに赤い液体が排水口へと吸い込まれていった。

ジャケットを脱いでワイシャツとズボンの裾を折り、器用にシャワーのノズルをくねらす。

動かない体を風呂場のタイルに投げ出し火韻は華雪と石鹸に身を任せていた。

あちこちがしみるがもう泣く元気もなかった。

痛々しい少年の体を恐る恐る洗い上げていく。

この男は殴るよりも愛でることの方が苦手なのか、と内心で嘲笑った。


「うちの専属医があと数分で来るから。

もう少し我慢してね」


眼鏡をかけ直し、丁寧に火韻の体をふいていく。

何せ両足と腕の骨が折れているので他人であっても満足に体を動かすことが出来ない。

お姫様だっこすら苦しいものだった。

再びベッドに下ろされるが、先程の拷問のあとが強く残っており、シャワーが無駄になるんじゃないかというほど汚かった。

なけなしにカバーを変えてはあるが心地よいものではない。

それどころか火韻は

「ひっ」と怯える声をあげ反射的に身構えた。


男はその様子を見て心底申し訳なさそうにそっと火韻の前髪を掻き分けて呟いた。


「ごめん、ここまでするつもりじゃなかった」

「……あんた、なんなんだ。

何がしたいんだ?」

「君を」


そこまでいって男はうつむいた。

その弱々しげな所作が頭に来る。

足が動くのなら蹴りあげるのに、腕が動くのなら首を絞めてやるのに。

忌々しげに火韻は舌打ちをした。


何をするでもなくお互い押し黙っていると、不意に部屋のベルが鳴った。

専属医とやらが到着したらしく、華雪は立ち上がりドアの方へ急いだ。


「ありがとう、こんな時間に」

「ああ、で?どこだ。お前が散々弄んだ可哀想な子供は」

「あっち」


そういって連れられてきた医者は火韻を見るや否や大きなため息をついて華雪の胸ぐらにつかみかかる。

そのままなにも言わずに殴った。


「僕、大丈夫か?

いや、大丈夫じゃないよな、今手当するから」


火韻はぎょっとした。

医者が泣いている。

手際よく医療器具を並べていくが涙は流れ続けていた。

どうしてこの男は泣いている?

華雪に出逢ってから訳のわからないことばかりだ。


「入院させるべきだな、うちにつれていくぞ」

「うん、よろしく」

「え…?僕、帰りたい…」

「すまない、だが君の体は見た目以上に酷い損傷を受けている。

ご家族には私から連絡するから。

名前と住所を言えるかな」

「その子は皇の家の子だよ」


火韻が名乗る前に華雪が言い放った。

だがそれは火韻の姓ではない。


「は?僕は宮部…」

「君の本当の家の姓だよ」


何を言っているのか全く理解が出来ない。

僕は宮部火韻だ。

父親も宮部、家の表札だって宮部だ。


「…成る程な。

だがやりすぎだ、灯翁【ひおう】」

「うん、分かってる

ごめんね、火韻君」

「…僕には何もわかんないんだけど」


皇って誰だ?

火韻の頭には追い付けないほどの疑問があって、優しく治療してくれてる医者にすら苛立ちが生まれ出していた。

自分のことなのに自分は何も分からず周りが納得していると言う状況が腹立だしい。


「君が退院したら順を追って話すよ。

今夜のこともお父さんに僕から話しておく。

だからもう君は眠りなさい」

「はあ…!?勝手に…んっ」


反論に出ようとしたところで医者と言う男に何かを嗅がされ意識がとぎれた。


「さて、どうするんだ、灯翁」

「とりあえず君のところに連れていって矢嗣【やつぐ】」

「当たり前だ。

だがお前…これは火種になるぞ。争いの」

「分かっているよ、そのつもりだもの」

「馬鹿が」

「それもよく分かってる」


男達の声はもう火韻には届かない。

眠りについた傷だらけの少年。


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