「世界征服の巫女」その1
期待せずに読んでいただければと思います。
私をこうしたのはいったい誰なんだろう。
永遠の謎である。
私はたくさんの知識を以てそれを探しているのだが、未だ納得のいく答えは得られない。
もしかしたらこれは永遠に謎なのではないのかと思うこともあるが、それでも他にすることもないのでこの謎の解明に努めている。
私は。
自身の持つ強力すぎる霊感について、調べている。
この力を賜ってから十六年間、ずっと。
そして。
たくさんの少女たちが、その永遠の謎の答えを探して生きていた。
『辻津呷:悪徳宗教①』
私はそのとき、非常に煮詰まっていた。
考えがうまくまとまらない、頭がうまく働かないという時は、人生八十年、六回くらいはあることであろう。
しかしそれにしたって、今回のそれは半端なものではなかった。
何も考えたくない。
何をする気も起こらない。
それは学生としては困ったことである。
もうじき期末の試験があるというこの時期に、これではまずい。
せめて何か気晴らしに、面白いことをやりたいと。
遭遇したいと、そう思っていた矢先。
私は仲間から、こんな話を聞かされた。
「なんっ、・・・何でも炊山の山頂に『霊感体質を取り除く』除霊を行っている神社があるそうですよ。面白そうじゃないですか?」
ほおう、と私は賢いふりして答えた。
霊感激強少女の私としては、願わくばこの体質を除いてしまいたいというのが正直な心持だったから、その噂に強烈な興味をそそられた。
早速私はその男「洞戸岩室」とともに、例の神社へ向かうことにした。
どうやらその神社へはバスで行くのが最短の道らしいので、私達は薄汚れた年代もののバスに乗り込んで一路山頂を目指していた。
「辻津先輩、荷物持ちますよ」
「いやいやかまわない、そんなに重くないし、それに洞戸くんだって結構な重装備じゃんか」
「ああ、これは・・・」
「?」
「まさかバスがあるとは知らなくて」
「登るつもりだったんだね・・・」
彼の背中には巨大なリュックがのしかかっているのである。
「(いやそれでもピッケルは要らないと思うけど・・・)」
とにかくバスはとても空いていたので、私は一番後ろの広い席の右端、洞戸くんは左端に陣取った。
「この席座るの久しぶりだなあ。小学生のときの遠足以来かも」
「ああ、先輩の学校って遠足はバスで行ってたんですか」
「うん。君のところは歩き?」
「そうですね、学校から歩いて十五分のところに海の見えるきれいな公園があるんですよ」
「へー、いいなあ!うらやましい」
「でも僕の家から学校までは片道二時間かかるんですよ」
「ええー!!それ疲れないの!?」
「そりゃ疲れますよ。でも六年も通っていたら慣れます」
「そういえば君この前のマラソン大会すごい速かったもんね。何位だったっけ?」
「総合2位です」
「私191位だったもん、すごいよー!」
「そうですかね?」
そんな話を始めて十分くらい経った頃、話題は私の霊感の話になった。
「辻津先輩って幽霊とか見えるんですよね?」
「まあそうだね」
「どういうのが見えるんですか?っていうか、このバスには何かいます?」
「うーん・・・えーーとね、」
いるにはいる。
ただ、窓ガラスの外にずっとへばりついている。
「おい、聞こえてんだろ?ちょいちょい、そこのねえちゃんだよ、おい無視すんなって!」
窓ガラスをドンドン叩きながら私に訴えかけてくる、私より少し年下の少女の霊。
話し方が気に食わないので今の今まで無視していた。
たぶんこの先もずっと無視していくと思う。
「私の霊感は並みのものじゃないから、『そこに霊がいる』とかそういうことを言うと霊感を伝染してしまう事があるんだよ。だから私は見えているもののことはっきり言わないようにしてるんだ」
「そうなんですか・・・すごいですね、それ」
若干誤解じみている言葉であるが、でもそれだって間違いではない。
事実そういう体質に「なってしまった」人も知っている。
見えてはいけないものを見ようとすることは、皆が思っている以上に重大な禁忌であるのだ。
「お、そろそろみたいですよ」
無線がびりびりと響き、「信者小路」と書かれた小さなバス停で、バスは止まった。
「信者小路・・・なんか胡散臭い所ですね」
「うん」
私は少し苛立っていた。
「いい加減にしろって!見えてんのは知ってんだよ!何でシカトなんだよおい!!」
私の周りを後になり先になり、ひっつきもっつきついて来る。
こんなにしつこい霊も珍しいのだが、同じくらいにこんなに精神的に受け付けない霊というのも、私の人生でなかなか出会ったことがない。
出会いたいと思ったことはないが。
「・・・見えてきましたね、あれがそうですよ」
「え?あ、うん!」
洞戸くんの指差す方向に目をやると、それは確かに存在していた。
「あれが・・・」
山頂にどんと構える大きな建物。
五常宮聖人の秘密基地、「五常宮一門炊山神社」の、氷山の一角であった。
社会現象になる作品より社会問題にならない作品を作っていきたいです。