第49話・開戦、宇喜多
【天正7年・毛利元広】
宇喜多離反。
俺たちにとっては、
予期していたことだが、他の武将たちは違ったらしい。
宇喜多に呼応して裏切ろうとしている武将もいるらしい。
元長殿も元秋殿も、その対応のために山陰を駆け回っている。
けれども俺にはやることが他にある。
小西行長と会うということだ。
しばらくするとふすまが開き、最近なにかとよくみる顔が入ってきた。
「毛利殿、お久しぶりでございます」
「ええ、お座りください」
いわば、裏切り者の家臣が今さら何のようだろうか。
「実は本日は、一つお聞きしたいことがございます」
敵方の武将が聞きたいことと言ったら、あの事しか思い浮かばないが。
「内情なら教えられないですよ。見知っているとはいえ、
あなたは敵なのですから」
「内情なら、城の様子を見ればわかります。
一見落ち着いていそうですが、少し浮き足だった雰囲気を感じます」
見破られていたらしい。
城主がいない今、俺が城内へ落ち着くよう号令をかけたのだが、
それでも動揺する人はどうしようもない。
しかし、それであれば何を聞きたいのか。
俺は姿勢を正し尋ねてみる。
「では、何を聞きたいのか」
すると相手も、姿勢を正してなにかを言ったようだが、あまり聞こえない。
「なんとおっしゃいましたか」
「いや、なにも、ありません」
そういうと、小西殿はそそくさと立ち去ってしまった。
一体何をしに来たんだろうか。
【天正7年・小西行長】
聞けぬ。何故に私にあのようなことを言ったのかなど。
聞いてしまえば敵である毛利元広にどう思われるか。
しかし任務は果たした。
毛利は少なからず動揺している。
それが分かれば十分だ。
それで十分だ。
そう言い聞かせながら、
馬に乗り、足早に月山富田城をあとにした。
【天正7年・宇喜多直家】
物見に行かせた小西の小僧が帰って来た。
あまり期待はしていないが、商人の息子だ。
眼力は少し買っている。
小西の小僧は毛利の城で感じた空気や雰囲気を手短に語った。
「そうかそうか。その他は」
「ございません」
あきれた。ついこの間叱責したことを。
「お前は阿呆か。そのようなこと、わざわざ命の危険を冒さずともわかるわ。
なぜ兵士の話の一つや二つ、仕入れてこんのだ。
おぬしの眼力はもはやなくなったか」
小僧は慣れたよう平伏し、
「申し訳ございません」
といい、さっさと出ていってしまった。
あいつもそろそろ腐ってきたか。
腐ったものは犬の餌に。
面白そうだ。




