第37話・子はかわいいもの
【天正6年・有岡城】
「荒木殿、貴殿は相当織田に不満がたまっているでしょう。我が殿と同じように」
「何を言っている。わしは織田の部将ぞ。
織田に不満がたまってなど」
「大阪方面軍指揮官を佐久間信盛に奪われ、
さらには播磨方面軍指揮官まで羽柴秀吉に奪われた荒木殿の心中、
我らにはよくわかりますぞ」
「何を言っている」
「我が殿、足利義昭公について、一旗揚げて見る気はありませんか。
毛利も荒木殿を応援するでしょう」
「毛利が?そんなはずはなかろう。
毛利はすでに備中まで撤退しておる」
「毛利はいずれ必ず、再び播磨に出てまいります」
「あり得ん」
「あり得ます。必ず、毛利はきます。
それともこのまま織田に付き、こき使われたいのですか」
「・・・」
【天正6年・毛利元広】
上月城落城からひと月もたたないうちに毛利軍は備中松山城まで撤退した。
だが依然、本願寺・別所家への支援は続けられていた。
「叔父上、このたびはお疲れ様でした」
「輝元、ねぎらいはいらぬ。
それよりわしは今から但馬に行く。
輝元、隆景、山陽は任せたぞ」
「わかっております兄上、兄上こそ、山陰を守り切ってください」
「わかっておるわ」
「叔父上、頼みましたぞ。
それと元広」
「なんでしょうか。兄上」
「このたびの活躍は見事であった」
「ありがとうございます。兄上」
「それに子も生まれたようだな。
今すぐ子に会いに行け」
「ですが、このようなときに城に帰ることは」
「何を言っているんだ。
戦は叔父上たちが居れば十分だ。
元広は休んでおけ」
「は、はい」
【天正6年・毛利輝元】
何とか城に帰せた。
あれ以上元広に手柄をたてられては面倒だ。
その上私にはいない子まで出来るとは。
羨まし。
いや、恨めしや。
【天正6年・毛利元広】
久しぶり猿掛城に帰ってきた俺は、
家臣たちに出迎えられた。
家臣と言っても、兄上の家臣の次男三男といった者たちだが。
「殿、お帰りなさいませ」
「勝法師丸か。背が高くなったな。
ちゃんと勉強しているか?」
「ありがとうございます。
殿が留守にしている間は龍様にお仕えしておりました」
「そうだったのか。
そういえば龍は?」
「本丸に居ります。
生まれた子をあやしています」
「おっ、そうだった」
元の時代ではもちろんいなかった子供だ。
そういえば俺もこの時代に生まれて25年と、とてつもない時間がたったものだ。
その間に、当然だけど生活にもすっかり慣れて、
生まれた時には意味不明だった昔の字体まで読み取れている。
俺がこの時代に来たのも不思議なものだ。
「えーんえーん」
本丸からかわいい声が聞こえてくる。
その声が近づいていくたび、俺は胸を躍らせていく。
自分の子とは、一体どのようなものなのか。
全く想像がつかない。
俺は龍と子供がいる部屋の襖をあける。
「殿、お帰りなさいませ。
出迎えに行けずに申し訳ありません」
「いいのだ。それより子は?」
「この子で御座います」
「そうか」
龍から渡された子は、とても小さかった。
生まれてから半年もたっているがまだまだ小さい。
まさか自分が子供を抱くなんて思ってもみなかった。
「この子の名は?」
「もうつけてしまいました。
この子の名は、勝丸です」
「勝丸か。縁起がいい名だ」
今日で連載開始から1年が経ちました。
何とか完結に持っていきたいと思いますので、
これからもよろしくお願いします。




