第36話・播磨撤退
【天正6年・毛利元広】
天正6年7月、半年にも及んだ上月城攻めに突如終止符が打たれた。
上月城が降伏してきたのだ。
それにより尼子家当主・尼子勝久は切腹し、
一の家臣であった山中鹿之助は我が毛利の軍門に下った。
「叔父上、終わりましたね」
「ああ、本当に長かったな」
「叔父上、降伏してきた山中鹿之助をどうするつもりですか?」
「ああ、そのことだが元広、殺してきてほしい」
「え?」
「鹿之助は今まで何度も尼子再興のために我ら毛利に反抗してきた者。
このまま生かしておいたらまたいつ反抗するかわからん。
今のうちに手を打っておく」
「叔父上」
「やってくれるな」
「わかりました。毛利家のために」
【天正6年・山中鹿之助】
私はなにもできなかった。
尼子のためになにも・・・
今まで尼子のために戦ってきたが、
毛利の策略から義久様と尼子家を守れず、
勝久様を当主に迎えて出雲に侵入した時も攻めきれず、
最後には織田に捨てられ尼子は滅びた。
私は尼子のために何もできたかった。
せめて最後に打って出ていたかった。
「「あーーー」」
遠くから声が聞こえる。
これは何か。
「進めー。早くせよ」
これは、こちらに向かってきている。
「皆の者よ。応戦準備じゃ」
一体何が起こったんだ。
「山中鹿之助だな」
「いかにも、私が山中鹿之助幸盛だ。
おぬしら何者だ」
「私は毛利元広だ。皆、かかれー」
「毛利だと!
おのれ、謀ったな。皆の者、応戦せよ」
「もう遅い」
「なにっ」
「覚悟ー」
【天正6年・上月城】
「兄上、上月城を落としたからにはさらに東上し、
三木城を助けましょう」
「隆景、そうは言うが今、わしのところに援軍に来てほしいと
但馬の国人衆から書状が来ている。
但馬に織田が進出しようとしているらしい」
「ですが今進軍しないと三木城が孤立してしまう。
そうなれば播磨が織田の手に渡ってしまいます」
「隆景、宇喜多のこともあるだろう。
今宇喜多に不審な動きがあること、お前を知っているだろう。
織田が但馬に進軍し、その上宇喜多が裏切りでもしたら今度は我らが孤立する。
まずは但馬の守りを固め、備前の国境の守りも固める必要があるだろう」
「致し方ない、ですね」
「納得したか隆景」
「ただ今戻りました」
「元広か。どうだった?」
「万事うまくいきました。
心配はいりません」
「そうか。ならばよい」
「元春叔父上、隆景叔父上と何を話していたのですか?」
「元広、わしは但馬に行く」
「但馬に?」
「そうだ。毛利軍は播磨から撤退する」




