第34話・尼子のために
【天正6年・毛利元広】
ついに戦況が動いた。
織田が離反した野口城の城主の、長井政重を討ったのだ。
これは織田にとっても毛利にとってもいい様に働いた。
織田は別所を少し追い詰めることができ、
毛利は上月城を少し追い詰めることができたのだ。
しかし織田も、東播磨の城を落としていけばそれだけ
上月城の援軍を送れなくなる。
つまり毛利にいいように働くというのをわかっているのだろうか。
「元広」
「叔父上、どうされました」
「織田が我々に向けて攻撃を仕掛けてきた」
「攻撃を?」
「そうだ。隆景もわしもいまは出れぬ。
元清とともに兵をだし応戦せよ」
「わかりました」
なぜ今織田が攻撃を仕掛けてくるんだ。
毛利軍6万に対して織田の上月城救援は1万、
勝ち目がないとわかっているはずなのに。
【天正6年・羽柴秀吉】
「兵5千を出発させました」
「そうか。このまま上月城が落ちれば
尼子にも申し訳なく、
織田の評判も下がる。
負けるとわかってはいても兵を出さずに終わらせるわけにはいかない」
「承知しております。
ですから我が黒田の兵も今回の軍勢に入れたのです」
「そうだったな。
すまんな」
「いえ、大丈夫です」
「そういえば、滝川殿と明智殿はいつごろ到着じゃ」
「4月から5月ごろかと」
「そうか。援軍が参れば戦いは三木城攻めを優先しなければならなくなる。
すまぬ。尼子殿」
【天正6年・毛利元広】
「このような今にも雨が降りそうなときに戦いを仕掛けてくるとは、
織田も何を考えているのだか」
「しかし元広殿、
我らの軍勢は2万、織田の5千の兵など袋叩きにしてしまえば済むこと。
この戦いが終わった後に御嫡子の誕生祝の酒を飲みましょう」
「御嫡子とは、誰の子が生まれたのですか?」
「元広殿、御冗談を。
元広殿の子が生まれたこと、兵のほとんどが知っておりますよ」
「えっ、マジ?」
「元広殿、軍勢が見えてきました」
「えっ?あ、そうだな」
「元広殿、行きますぞ」
「ええ、わかりました」
そんなの全く聞いてないぞ。
本当か後で聞いてみないと。
だがその前に織田軍をなんとかしないと。って
いつの間にかこんなに近くに。
「全軍いけー」
俺が考え込んでいる間に元清殿が指示をだし戦闘が始まった。
「元広殿、私は前方に行くのでここは任せました」
「わかりました」
今は子のことなんて気にせず、
この戦いに集中するぞ。
【天正6年・多治比猿掛城】
「龍様、水を汲んでまいりました」
「勝法師丸、ありがとう」
「もったいないお言葉です。
私はただ命を助けていただいた殿の御力になりたいだけです」
「まだ元服前なのに何を言っているのですか。
子供は子供らしくていいのです」
「はい。
それはそうと龍様、
殿は子が御生まれになったのになぜ書状を送ってこないのでしょうか」
「そうですね。確かに元春殿に書状を送ったのですから、知っているはずですが。
忘れているのかもしれませんね」
「そうですね」




