第33話・それぞれの戦線
【天正6年・羽柴秀吉】
「村重殿、お待ちしておりました」
「羽柴殿、御久しぶりです。
私の後に信忠様、明智殿が参ります。
その軍勢と相談し播磨攻略を進めよ、と信長様が命じられました」
「そうですか。信忠様が。
して、信長様はいつ播磨に?」
「周りの者どもに反対されているらしく、
しばらく信長様が播磨に来ることはないだろう」
「そ、そうですか」
「失礼します」
信長様は来ないか。
だが信忠様が来るということは指揮権が信忠様に移るということ。
となると信忠様がどう命令するかがこの播磨攻略を進めるうえで重要になる。
どうなるか・・・
【天正6年・別所長治】
織田から離反してはや1ヶ月。
織田からは羽柴・荒木の軍勢が来ているが、
我々と共に離反した者たちの攻撃をしているため、
まだ我々にの攻撃に本腰は入れてない。
だがこれから必ず本腰を入れてくる。
その時どれだけ対抗できるか。
「殿、毛利から使者が来ております」
「通してくれ」
やってきたのは毛利の外交僧と呼ばれている安国時恵瓊だ。
「これは恵瓊殿、御久しぶりです」
「別所殿、このたびは織田からの離反、
誠におめでとうございます」
「本願寺といい、貴殿といい、
私は僧侶に振り回されます」
「振り回されたのち、
別所殿には必ず幸運が訪れます。
我々を信じてください」
「そうか」
「それに、別所殿が離反したおかげで、上月城攻略も行いやすくなり、
近々落ちるでしょう。そうすれば必ず、三木城の救援も行います。
ご安心ください」
「必ずですね。
別所家が織田から離反したのは貴殿の助言もあったから。
責任を果たしてもらいますよ」
「それは承知しております。
任せてください」
「まあ、こうなれば貴殿を信じるほかない。
頼みましたよ」
「はい」
【天正6年・小早川隆景】
「隆景、なかなか城攻めが進まんな」
「兄上、あまりそのようなことをあまり言わないでください。
兵の士気が下がります」
「わかっておる。だから元広には大口をたたいておるのだ」
「上月城は包囲してはや3ヶ月、
尼子勝久・山中鹿之助が籠っているだけあってなかなか粘っているようだが、
そろそろ落ちるであろう。
なんせ尼子が頼りにしている織田の軍勢は別所に気を取られ、
いまや尼子救援の兵は1万しかおらず、
今後増えることもないでしょう。
そうなれば落ちることは必須。
兵糧も底をついている頃、近々城は落ちましょう」
「それならいい。
それに近頃但馬に危険な雰囲気が漂っている。
早く上月が落ちてくれなければ山陰が危うい」
「織田はとうとう山陰にも手を広げようとしているということですか。
そうなればいくら播磨が織田と戦おうが、我々は退却せざるおえなくなる。
さらに宇喜多の様子もおかしい。もしかしたら織田と通じている可能性も」
「だからあの時宇喜多と組むのを止めたのだ。
だが、今さら言っても遅い。
上月にしろ但馬にしろ宇喜多にしろ、なかなかうまくは行かぬな」
「ええ」
【天正6年・山中鹿之助】
織田の軍勢は何をしているんだ。
なぜ援軍を送ってこない。
なぜ兵糧を入れない。
なぜまったく我々を助けようとしない。
せっかく織田に尼子家再興を託したというのに、
これなら今まで通り独自で出雲回復戦を行っていたほうがよかったではないか。
「神よ。そろそろ尼子に武運をお授けください。
たとえわが身が朽ち果てようとも。尼子再興を」




