第32話・別所離反
【天正6年・毛利元広】
「叔父上、これはすごいことになりましたね」
「そうだ。これだけ柵と堀を張り巡らせていれば、
ねずみ一匹出入りができないだろう。
これで織田も手出しができないというわけだ。
それにそろそろ播磨内の空気も激変するだろう」
「激変するとは?」
「いや、なんでもない。
だが今から面白くなるぞ」
「はあ」
この叔父上の顔、
なんだか怪しい雰囲気がする。
「兄上」
「隆景か」
「別所が起ちました」
「とうとうか。
これで我らが有利になったぞ」
【天正6年・羽柴秀吉】
「なにっ、別所が毛利に寝返っただと」
「そんな馬鹿な。
この前三木城を訪れた時にはそのようなことなかったはずだが」
「秀吉様、官兵衛殿、寝返ったのは別所だけでありません。
櫛橋、淡河、長井など、東播磨の城はほとんど毛利に寝返りました」
「なんということだ」
「半兵衛、これで我々に味方しているのは」
「龍野の赤松、御着の小寺となります」
「敵の中に取り残されたか」
「このまま東播磨の毛利方を放っておいては我々に害が加わることは必須でしょう」
「上月城を離れ直ちに東播磨攻略に取り掛かったほうがよろしいと思います」
「だが今上月城を離れれば、上月城がますます危機に立たされますぞ。半兵衛殿」
「官兵衛殿、上月城一つか東播磨全体か。
どちらが大切かと思われる」
「何を・・・」
「二人ともやめんか。
都合の良いことに、もうじき援軍がやってくる。
上月城には兵の半分である1万を残し毛利を牽制しておき、
その間に残りの1万と援軍で東播磨を攻めることにしよう。
異論はないな」
「仕方ありません」
「わかりました」
【天正6年・別所長治】
「別所殿、このたびは起っていただき、誠に有難うございます。
これで我々も有利な状況に立ちます」
「礼には及びません」
「いえいえ、そういうわけにはいきません。
別所殿が起ってくださったおかげで、東播磨の大半が信長方から離反いたしました。
これで我々の戦況も一気に変わったのですから」
「ならばあの盟約は?」
「もちろん。
信長方に勝った暁には、播磨一国を任せます」
「そうか・・・」
「別所殿の武運をお祈りいたします」
「・・・」
【天正6年・毛利元広】
「元広、これで織田の軍勢は兵を分割せねばならなくなる。
そうなればこの上月城、簡単に落とせるわ」
「いまでも十分落とせそうですが」
別所長治が裏切ったとすれば
次に裏切るのは・・・
「元広、これで終わらんぞ」




