訪れ
「秋臣さまですね」
出迎えてくれたのは、いかにも執事でございといった服装の男だった。燕尾服というのだっけ?
黒髪が胸元まで伸びていて、ひとつにくくっている。なんだか色気のある人だと思った。
「はじめまして。私が管理人の理人でございます」
深々とお辞儀をされて、僕は面食らってしまった。
なんという物腰丁寧な人だろう。
「お待ちしておりました。当主様からお話は聞いております。中へどうぞ」
ごく自然な動作で、僕は手にしていたボストンバッグを理人さんに渡した。
まるで荷物を預かるのが当然だというような仕草で手を出されたからだ。
バッグを受け取った理人さんが、嬉しそうな顔をしたように見えた。
「まずは応接間へご案内致します」
僕は、正直唖然としていた。
なんなのだろう、ここは。
爺ちゃんは確かに金持ちだったし、遺産争いとまではいかないにしろ、親戚同士で少しは揉めた。
孫にあたる僕ら従兄弟たちは、現金ではなく土地や建物、それらに付随するものを相続した。
一番年の近い賢にいちゃんは避暑地の別荘をもらって、すぐ売った。
そのお金で留学期間が伸ばせると喜んでいた。
僕もそうするつもりだった。
土地付きの別荘を相続するにあたって、爺ちゃんの出した条件は「管理人になること」だった。
まあ当然だ。名前だけの管理人だってかまわない。人を雇ってしまえばいい。
僕はその手続きすら面倒だったから、賢にいちゃんと同じように売却予定で今日ここに来た。
この別荘の持ち主は、一応今はこの僕なわけで、でも申し訳ないけどまだ大学生だし管理なぞ出来そうにないから今まで通りあなたが管理人で持ち主は変わりますと言うつもりだった。
けどこれはちょっと揺らぐぞ、さすがに。
「どうかなさいましたか」
「あ、いえ」
途方もなく高い位置にあるシャンデリアを見上げて口が開きっぱなしになっている僕を、理人さんが心配そうに見ていた。
「綺麗でしょう。一点ものです。当主様が海外で見初められたとか」
「そーなんですか・・・」
爺ちゃんわりと買い物好きだったしな。本宅も、いく度に調度品に新しいのが増えていた。
この別荘も、何年かに一度しか使ってなかっただろうに、今にも大物を招いた宴ができそうなくらいの豪奢なつくり。
山奥にあるから、殺人事件の舞台になったらさぞ映えそう。
「すんごい豪邸ですね」
「そうですね。当主様はこの館にこだわりがあったそうです」
「なんですか?こだわりって」
理人さんは静かに笑った。
「立ち話ではなんですから、応接間へどうぞ」