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館の夢  作者: ミロ
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懊悩

僕には、相反するふたつの感情をうまく統合できない悩みがあった。


例えば友人に相談を持ちかけられたとして、僕は内容を聞いてふたつの意見を持つ。


友人は考えて行動したつもりなのだろうから、周りの言葉はひどい。

友人は考えて行動したつもりなのだろうけど、周りの言葉は正しい。


要するに感情論と理性論が同時に発生してしまい、うまくひとつになってくれないのだ。


さっきまで思い込んでいた物事がすぐに変化してゆく。


自分としては、後出しで出てくる情報に振り回されているという感覚だ。


相反する自分なりの倫理に、うまく決着がつけられない。


結果、前半は友人をかばい後半は友人を非難するという最悪のアドバイスをしてしまう。


どちらかに肩入れができない。


うまくできない。


簡単そうなことなのに。


自分という人間の、人格というものがよくわからなくなる。


建前と本音は、うまく使い分けるのが処世術というものである。


理解はしている。


行動に移そうとも努力している。


ただ、うまくできない。


思春期の頃は、大層悩んだものだ。


級友たちを観察していると、自分だけではないのだとも分かった。


しかし事態が好転したわけではない。


解決したわけでもない。


悩みながら過ごしている間に、級友たちはうまくそれを身につけていく。


人格を統合していく。


いわく、多重人格症というものではない。


感情は常に同じではないのだから、記憶が繋がっていればそれは症状ではない。


だからこそ悩む。


僕はなぜ、どちらかに傾けられないのだろう。

僕はなぜ、どちらも同じだけ正しいと思うのだろう。


同じバランスで釣り合いのとれている感情は、しばしば環境によってぐらぐらと傾いたりする。


それははたから見ればただの日和見主義である。


自分というものがない、と罵倒されたりもした。


そのせいで大切な人を失ったりもした。


そのたび、二度と同じ愚は侵すまいと決意もするが、やはり繰り返す。


開き直ってみたりもした。


結果は、ますます孤独になるばかりだった。


僕は、人付き合いの下手な人間だという烙印をただ押されただけだった。


一貫性のある人間に憧れ、ああなりたいと願っていた。


時が移ろうものであるのだから。

気持ちなどさもありなん。

女心は秋の空。

諸行無常の響きあり。


諦めにも似た気持ちにどっぷりと浸かりながらも。

諦めてはだめだという気持ちが僕を引っ張る。


惰性で生きているようだね、と笑われながら。

たまに一生懸命だね、と褒められる。


どっちつかずの生活を続けていた。


そんな僕に転がり込んできた、祖父の遺言状。


不労所得だと喜ぶ気持ちと、面倒事が降ってきたという億劫な気持ちがないまぜになって。


ふわふわしたやりきれない感情を持て余して。


顔には出さないまま、僕は別荘を訪れていた。


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