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プロローグ
幼い頃、祖父の膝の上で絵本を読んでもらったことを覚えている。
それは手作りの装いでお世辞にも出来がいいとは思わなかったけれど、祖父が自分を楽しませるために描いたのだと知っていたので、小難しい説法のような物語を関心深く聴いていた。
死後の世界を思わせるような、あまり子供向けとは思えない絵本だった。
悪いことをすると地獄におちてしまうという脅しを含んだ教訓に、作り話と知っていても背筋が寒くなったものだった。
その絵本は贈り物として受け取ったけれど、成長するにつれて物置に仕舞い込んで、どこにあるのか探しても見つからなかった。
祖父が亡くなったので、帰省した。
手続きに追われる両親の手伝いをしながら葬儀を終え、遺言の通りに相続を決めた。自分には一通の封筒が渡された。
『山奥の別荘の管理人になることを条件に、相続を許可する』
そんな一文から自分への遺言状ははじまった。