餡子の甘さと二度目の別れ
久しぶりの更新。
8割方はもう既に出来てたんですけどこの後の展開が思いつかなかったんですよ。
「3階にとうちゃーく」
二階にいたときと同じように開いている部屋をちょこちょこと確認していく。
「お。ここ開いてるぞー」
と先に進んでいたカイトが私に知らせてくれる。
「了解でーす。そっちいきますね」
二階と違ってあんまり来る人いないみたいだったから、少し離れて分担しつつ確認中です。階段Onlyだもんなぁ。エレベーターはつけてないみたいだし。
「あ、ここ元コンピューター室だ」
ここはわりかし綺麗な部屋だったんだよね。元々改装されてたし。
「子育てカウンセリング研修会…」
とホワイトボードにプリントや資料が貼り付けられている。
……ふうん。ちゃんとした活動もしてるんだ…なんというかボランティア寄りだな。
1クラス分あったパソコンはごっそり片付けられ10人程度座れそうな円卓とパイプ椅子が並んでいた。
「……なんというか。うーん変わってないといえば変わってないんだけど変な感じ」
壊すのにもお金かかるからこの学校は残ってるのかな…。
「でもこんなに小さい空間でわちゃわちゃやってたんですね…」
私にとってここの教室のひとつひとつは私の世界のひとつひとつ。
外の世界は知らない。あとは家の中くらいなもの。その一つで嫌なことが起きると逃げ場はもうない。
「小さい頃なんてそんなもんだ。その中で精一杯生きていってるんだろ」
「そうですね~。 でも――カイトつまんなくありません?」
完全にこれって私の気分に付き合わせてるもんだし。
「いや、ある意味面白くはあるわな。異世界に来てまで不法侵入してんだから」
「あぁ…。それはまた奇怪な体験してますね」
「おまえのせいだろが」
とコツリと軽く小突かれる。むぅ、そうかもですね。
「次は踊り場いきましょ」
「踊り場…?」
「少し小さめの体育館、運動する場所ですね」
卓球したり、運動会のダンスの練習したり、遠足のチーム分けしたり結構便利だったね。
私達は踊り場って呼んでたけど……。なんで踊り場?
「というかあんまり掃除いきわたってませんね」
全校生徒でやっと手が回ってたから当たり前といえば当たり前か。うーん黒いアレがでてくることもあるんじゃ……。あぁでも食料ないしでてこないか。
「まあお世辞にも綺麗とはいえんな」
「おおーなっつかしー!」
掃除当番でここに来ると色々遊んだわ…。ここ声響くから楽しいのよ。
荷物を置いて靴を脱いで裸足になる。
「いよっと…」
とちょっぴり楽しくなって側転ついでバク転をしてみる。そしてしっかり決めポーズ。
「10.0!!」
イェイ! イェイ!
「おおー!!」
パチパチパチ……と拍手してくれたのも束の間。
「ってアホかぁー!!」
ゴツン!! と頭に拳骨を落とされる。
「!??」
痛いぃ…。けっこうカイトさん結構手が早すぎじゃありませんこと?
「なにすんですかー!?? 私なにもしてませんよッ カイトの暴力魔ッ DVはダメですよ」
「訳わからんこといってないで自分の今の格好をよーくみてみろ。馬鹿っ」
……アホと違って馬鹿は真面目に傷つく言葉だよね。
「ああ。大丈夫ですよ下にショーパン履いてるし」
とピラと横からスカートをめくって見せる。
――あ。マズイ。
「だ・か・らそういうとこが“馬鹿”だっていってんだろーが!!!」
あ。強調された。ちょっとヒドイ……。
「あーすいません。今のは私が悪いです。ちょっと楽しくなっちゃってうかつでした。やー。でも久々だから不安だったけどとりあえず形にはなってましたかね」
と謝りながらも楽しくてつい笑みがこぼれる
「あぁ。結構見事なもんだな……っじゃなくてお前…」
「はい?」
「――もういいわ。なんか言っても疲れるだけだわ」
とカイトがふらりと脱力する。なんかちょっとグサッとくるものがあるな。
えーと。あぁ、すいません。たいした事ないもの見せちゃって…。
「ふふ。カイトもできます? バク宙とか…」
と歌を口ずさみながら手や足を軽く動かし踊りつつ聞く。ここ床柔らかいからいい感じ。
「さぁ? やったことないからなんとも言えんな」
身長高いから出来たら大迫力だろうな。カイトはそのまま床に座り込む。
~♪ ~♪
なんというかちょっとノッてきてしまってくるくる踊る。ヒップホップやバレエ、日本舞踊ごちゃまぜで思いつくまま色んな歌を口ずさみつつ肩から胸にかけて波を流すように、腰の位置に気をつけて、
指先まで神経を通して女性の身体をいかしつつ。あ、これ運動会で踊ったヤツだ…意外と覚えてるもんだな。
「うん。満足まんぞく♪」
やっぱり身体動かすのもきもちいーなぁ。カイトは港で身体動かしてたけど私はたいして今日動いてないし。あ、バイトは別ね。なんていうかこうストレス発散系統の動きの方ね!
「そりゃあよかったな」
とやれやれと肩をすくめつつもカイトが笑う。
「はいっ。やっぱり楽しいですねー家は狭いしこんなことできないんですよねー!」
観客もいるほうがやっぱりテンションは上がるとも思いません?
とぎゅむっとカイトのお腹に腕を巻きつけ甘える。
ふうー。うん幸せだね。
手が腰に回って私の体をしっかり支えてくれる。それに伴って少し力を抜く。
「へへー」
「ん。」
ポスポスと頭をなでられてギュウっと身体をさらに近くに引き寄せられる。
あぁ…。気持ちいいーツボを押さえた動きだ
「んー。けっこう動きバラバラだったな。なんというか統一性がないというか。激しくなったり、女性らしさを強調した動きだったりとか、あとは子どもっぽかったとこもあったな。」
「思いつくまま今まで見たことや習ったこと混ぜ混ぜですからねー」
「まあ。面白かったな、というか踊っている時は顔緩んでんだな」
「あぁ、一種の興奮状態なので緊張とか吹っ飛ぶんですよ」
そうそう。かなり自分の世界に入り込んでいて周りの目を気にし過ぎなくて楽なのよ。
ぐりぐりと頭を胸に撫で付けてみると、ギューっと体を抱きしめられる。
そして頭を旋毛から首の方へ上から下へと何度もなでられる。気持ちいいな…。
ふは―――っと大きく息をついて、またカイトにそっと身を寄せる。
「……お前の方もあんまりスキンシップとやらに抵抗なくないか?」
「あー。基本的に触るのは嫌いじゃないんですよねー
でも抵抗ある人も結構多いし。」
基本的には甘えたくなっても我慢するんだよね
「の割には動揺してる時もあったけど」
とクスクス微笑う。うーんやっぱりいじめっ子だねー。男性の癖に色気半端ないッス
「受手の時は心の準備ができてなくてびっくりするんですよ。嫌とかではない…とは思います。
生理的に受け付けないひとじゃなければ。それに誤解を受けやすいじゃないですか。」
うん。たまにいるんだよ生理的に絶対無理って人。
私の場合は暑苦しいひとかな。あとはカエルっぽい人。それにくっつくと周りの目があるときはそんなことをすれば不都合も結構起きるだろうというのは誰でも予想はつく。異性ならなおさら。日本はハグとかが習慣になっている国ではないしな。
「あとは私に対して良くない感情持ってる人も勘弁ですね」
これはけっこう当たり前の感情なのかな? なんだか気持ち悪くて駄目。
「ふうん。そうなのか」
「自分で言うのもなんですけど他人の感情には敏感な方だと思いますよ?
どうしてそうなったか…は。さすがに大まかにしかわかりませんけどね」
テレパスとかじゃないんで。
「なんか野生動物みたいだな」
「………。」
それまたなんというか微妙な評価ですね。嬉しくもなんともないわ。
「んー。」
チョイチョイと合図をして少しお互いの間に隙間を空けてもらって荷物に手を伸ばし靴を履く。
「次行きません?」
「んー了解」
と手をぐいっと引っ張られ立たされる。なんというか保護者ですね。
「こんどはこっちの階段使いましょ」
「こっちは木製なんだな。しかしずいぶん古いなー」
「ええ。この階段だけギシギシいうんですよね。あれからもう10年くらい経ちましたし、うっかり踏み抜くかもしれませんねー」
「そういうことは早く言え。担ぐぞ」
「いや。たぶん踏み抜くことはない…とおもいますよ。多分」
「多分ってついてんだろうが。しかも靴もわりと素足が出てる型だろ、俺はブーツだから問題ない」
……心配してくれてるんだし。ここは有難くその好意に甘えよう。もうお腹が圧迫されることもなく肩に乗ることが可能になっている。もう俵担ぎも慣れたもんよ。
「ん。ついたぞ」
「ありがとうございます。ずいぶん楽でした」
もう四階か…。というか三階よりも汚いぞ。もうほっとんど使って無いな。倉庫として使っている感じだ。
「これは、なんというかスペースがないですね。荷物でほとんど埋まってますよ」
「あぁ。教室の中に入ってもほとんど身動き出来んな」
「……四階は終了ですね」
「まあ仕方ないわな」
「ではメインイベント? の屋上いってみましょー! 生徒の時は立ち入り禁止だったんですよねー」
「今でも立ち入り禁止じゃないのか? それは」
「いいんですよー。せっかく来たんですし」
学園ものといえば屋上のシーンは必須ですよね。この小説学園ものじゃないけど。
「…まぁ鍵閉まってますよねー」
「だろうな」
ここはまたまたピンの出番ですねー。もう二度目だから簡単~♪
「………。」
カイトが微妙な顔をしてこっちを見ている。まあいいことではないですけどね。
「ほい。開門~」
あら。意外と狭いな……。というかこれって。ヘリコプターを止める場所ですね。降りる場所の印ついてますし。緊急時に停まるんだろうなぁ。あ、いい風。
「じゃあ。おやつ食べましょうか。お疲れ様でした。それと付き合ってくれてありがとうございます」
「これなんだ?」
「たい焼きです。味は普通の餡子と黄金餡の2種類です。飲み物はミルクティーと緑茶のどっちにします?」
「たいやき? 甘い匂いがするな」
「ええ。餡子の甘さは苦手だったら、おにぎりも一応用意してますから言ってください」
「飲み物はどっちにします?」
「んー。とりあえずこっち」
「緑茶に黄金餡ですか。渋いですね。では乾杯♪」
コツンとペットボトル同士を酌み交わす。
「ん。上手いな」
「それはよかったです。ここのは美味しいんでたまに食べたくなるんですよね」
「そっちも一口くれ」
「ん、どうぞ。そっちもください」
「ん」
「美味しいですねー」
「だなぁ」
あぁ。ここの黄金餡美味しいんだよね。皮まで入ってるやつで。生地はパリパリ。
しっとりしてるのも美味しいとおもうけど、たい焼きの場合はパリパリのほうが好き。
「「ごちそうさまでした」」
屋台のおっちゃん美味しかったです。さんきゅう。
「なあ」
「はい?」
「なんでこんなに良くしてくれる訳?」
――は?
「……良くしてますか? 結構私の気まぐれに付き合ってもらってません?」
確かに初日はわりと細々とお世話したような気がしなくもない。
けど今日なんてほぼ私の気分、好奇心を満たすための行動だ、と思う。
まぁ食べ物を無料で与えられてっていうのはいい待遇なのか…な?
それに我ながらたいして長く付き合っているわけでもないのに随分甘えた態度もとっている。
もしかしなくても私しか話せないという立場から拒絶できなかったとかだったらどうしよう。
でも私がいなくても充分なんとか生きていけそうな気がする。私以外に存在は認識されなくても物には触れるわけだし。あぁ、でも自動車とかの危険性とかは認識してないと危ないかもしれない。
その辺にもあんまり気が回っていなかった。歩く時に軽く注意する程度だったし。
今更だが振り返ってみれば私が知らないうちにしたことも含めて失礼なことも結構しでかしている気がする。むしろ私の方が世話になってないか?
…と俺は思うわけ」
――え?
「え?」
「あ?」
「………。」
あー。これは多分カイトの話を聞き流したな。自分の思考に沈んで
これは完全に私が悪い。
「本当にごめんなさい。うっかり考え事してて聞き流してしまいました」
と頭を深々と下げる。
「どこからだ?」
少しだが険の含まれた声にびくっとしてしまう。こういうときは今までの経験から“すぐに”返事しなくちゃダメだと感じて背筋に冷や汗を流しながらいう。
「よ、良くしてくれるのはなんでだ? の答えに私が返事をしてからですかね」
カイトにイライラとした態度を向けられて声が少し上擦った。
「もう次はないから。今度はしっかり聞いとけ」
「はひっ」
と正座をして背筋を伸ばして耳をしっかり傾ける。
コホンと咳払いして話し始める。
「そっちからしたら大したことじゃないのかもしれないし、単なるきまぐれなのかもしれないが、
手立てがなくなったときに声をかけてくれたのがお前でよかったと思っている。
それに緊急事態でも普通に過ごさせてくれたのも有難かった。
あー…とつまり感謝してるってことだ」
そおっと顔を上げてカイトの顔をちらっと見てみる
……よかった。とりあえず怒りは治まりつつあるようだ。
「なんでよくしてくれるのか…って聞きましたけど私はそういうつもりはないんですよ。
いま思うと最初は好奇心からでした。変な人がいるーって……
そのあとは…なんだろうなんとなく流れに乗っただけ」
そうなんとなく、おもしろそう――最初はそれだけ。
「きっと自分が背負いきれないってなったら逃げてたかもしれませんよ?」
だから感謝なんてしてもらえない。
「じゃあ二度目会ったときは? 無視しても良かっただろう?」
――え?
「…考えたこともなかった」
無視するなんて選択肢は考えつきもしなかった。
「…ふうん。なるほどなぁ」とカイトがニヤニヤと笑う。
なんかムカつく……というかなにがなるほど?
「まぁとりあえず感謝してんだからそっちはどういたしましてっていっときゃいいんだよ」
と宥めるように頭をなでられる。
「……どういたしまして?」
「疑問形か……。」
うーんとカイトが唸る。いやそういわれましても、ねぇ?
「もう夜遅いですねー」
「ああ、どっぷり日も暮れちまって…お、今日満月だな」
「あ、ほんとですねー」
と空を見上げ、そしてカイトの横顔をちらりとみる、が。
「―あ”!?!?」
と声をひっくり返したのが私で
「ん?」
と暢気な返事をしたのがカイトである。
「て! て! 手が透けてますよー!!」
「お、マジだ。」
とひらひらと手を月の光にかざす。
「マジだ、じゃないんですよー! もうちょっと慌ててください。私が居た堪れないから!」
「……これ俺還るんじゃね?」
ガシリとどこでもいいからと腕を伸ばし掴む、それは右腕だった。
「んー?」
とりあえずカイトの透けていないところを掴んでみたが、心臓がバクバクと音を立てる。ジワリと涙が滲む。くっそう何でそんな暢気なんだよ。私だけワタワタしてるんじゃないか。
「あっ、あのですねー」
「あぁ」
とカイトが甘さをそぎ落とした真面目な顔をしてこちらを向く。
「また会ったら何か食べに行きましょう」
(何それ?)
「あぁ、また“今度”な」
「っはい!」
フワリと風が吹いたかと思うとカイトが目の前から消える。
「消えた…」
――うん、また“今度”だ。
ちなみに芽衣さんは好意は自覚済み、依存は無自覚です。
タイトルで内容のネタバレするの嫌なんですけどねー。
これ以外思いつかなかったもので…
カイトさん二回目の帰還です。
このあとはカイトさんサイドつまり王宮編になります。
今日中に続きがアップできたらラッキーですかね。
キリのいいとこまで書き上げたいものです。