表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日の午後  作者: ラゼル
Chapter 2
24/72

Memories when I was a child

今回は長めです。

ほのぼの学校探検~♪

「ちょっと先に失礼します」

 と断りを入れて、もう公園になってしまった。とはいっても遊具も何もない空き地みたいな明らかに手を抜いてそれっぽく造りましたという(テイ)の昔小学校の校庭だったものに足を先に踏み入れる。


「もう本当に残ってないんですね…」

 鉄棒も、登り棒も、雲梯(うんてい)も、たくさんあった桜の樹も、校長先生が植えた銀杏の樹もよくおもちゃにしたツツジの花も体育館も、プールも、鶏小屋も夏に植えたスイカや子供が事故に起こらないようにとあった歩道橋も何もかも…あぁそれと先生と一緒につくった畑の跡地すら残っていない。


 私が通っていたのは普通の公立の小学校だったから、当たり前だが私の家から徒歩圏内の近所にある。大学生になる今になってやっとここを訪れてみようかなという気になった。この学校の体育館が取り壊される前に見ておこう! みたいなポスターを歯医者さんの前で見かけたけれどその時も見ようとは思えなかった。不思議なもんだ…。


 小学校は私の中では一番印象に残っている。クラスメイトの名前も一番覚えているのも小学校の仲間達だ。そりゃあ6年間も通っていて、しかも1学年に2クラスしかなかったのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれない。他は3年間で終わってしまうのだから。要領のあまりよくない私にとっては中学も高校も慣れてきたなぁ…と思えばすぐに卒業といった感じだった。


「しかしひどいですね。かなり手抜きもいいとこです。こんな車道の行き交うなかにポツリと公園を置いても遊びに来る人なんていないというのは分かりますが。これでは浮浪者さんの方とかの絶好の寝床になるだけではないのでしょうか」


「たしかに。屋根も椅子もあるのなら、一晩だけならここで過ごそうという輩もいるだろうな」

 とポツリとした独り言に律儀に返事をしてくれる。それが少し可笑しくてクスリと微笑(わら)う。


「淋しいな……」

 今まで思い出すことなんてなかったのに。訪れてすこし昔のことに思いを巡らせるだけで色んな情景が浮かんできて自分でもびっくりする。あぁそういえば鶏小屋で卵を見つけたら職員室に「あったよー!」といちいち持っていっていたし、プールが終わった後にタオルを身体にぐるりと巻いて日を背に浴びて校庭をぼぅっとしながら歩くのもすごく好きだった。それにあの子はすごく身軽で遊具で遊ぶのがすごく上手だった。あぁそういえばあそこで大喧嘩したんだっけ……原因はものすごくしょうもなかったけど。


「カタチが何も残ってないことがこんなに淋しいと思うとは思わなかった、全然」


「そうだな。小さい頃はそこまで深く考えないのかもな。目先のことをこなすことで精一杯だったのしれんな」

「でもなくならなければ、ここまで色んな情景を頑張って思い出そうとはしないかもしれません」


「会いたいな」

 会って色んな話がしたい人が何人かの顔がふわりと浮かぶ。あちらからすればもう記憶に残っていないかもしれないけれど。


「誰と?」

「小さい頃に色々失礼なことをしたり、迷惑をかけた先生方かな」

 少し謝りたいこともあるし。今思うとかなり失礼なことしたよね……。うぅ恥ずかしい……。

 子どもの頃って怖いもの知らずだよ。ははは。


「一緒に勉強した仲間とかは?」


「成人式。つまり大人になったことを祝う日に会いました。だけど会いたい人はたいてい近所に住んでいるし、それにやっぱりうちの市はなんというか。子どもの頃から変わらないなぁという人ばかりで大人になんて全然なっていないな、と思いました。あぁでも子どもを連れてきている人もいてすごく驚きましたね」


 ――そう 本当に変わっていなかった。デリカシーの全然無い態度とか、言いたい事をはっきり言い過ぎるとことか、典型的な体育会系の思考も変わっていない。


 20歳になる頃にはきっと皆大人になっていると思っていたのに、小学校の頃から全然変わらない。変わらなさ過ぎて本当に懐かしい。きっと根っこはそのまま。


「昔はこう、悪口だったり喧嘩の多い地域にあるこの学校あまり好きじゃなかったんです。でも進学校である高校に入学して…ものすごく平和だったんですよ。悪口も一切聞こえない。だって面倒ごとが起こる元だってクラスメイトは理解しているから。だからぶつかりあうこともほとんどない」


「へぇ」


「だけどそれって少し味気ないなとも思ったんですよね。これといった大事も起こらないし、それにずっと小学校・中学校と気を張っていたから急に気が抜けちゃって…私の場合気を張っていた方がよかったかもしれないな」

 うん。気を張っていると弱みを見せないようにするために自分を高めようとせざるを得ないから。


「私の根幹はここにもかなりあるんだろうな」

 そう。友達の作り方も喧嘩の仕方も、何かを教える楽しさも、出来ないことに落ち込んだり、

 たくさんたくさん心が動く瞬間があった。今は取り繕うことが昔よりは上手くなってあそこまで掻き乱されることも少なくなった。


「まぁ、小さい頃の経験が人格形成の元になるだろうな…」

 と頭をポンポンと叩かれる。


「カイトにもそういう場所あります?」


「そりゃあ、あるさ。良くも悪くも俺の元となったことが起きた場所はな。あの頃のあの場所から続く関係もあれば、終わってしまった関係もある。まあ縁があればまた始まるかもしれないけどな」


「それはそれは…そのうち詳しく聞きたいものですね。

それにこんな昔話に花を咲かせるなんてあの子と会って以来です」


「あの子?」


「私の小学校からの腐れ縁の友人です。とはいっても今では1年に1回会えばいい方みたいな人ですけど。引っ越したので。勉強は出来る人ではなかったんだけど、人の心の機微に敏感で私が気が付かないところを教えてくれる。とても真摯で真っ直ぐで不器用な人です」


「好きなんだな」


「ええ、大好きです。あちらもそう思っていてくれるといいんですけどね」


「なにか一つでもお前に対して好ましいと思うことはあったんじゃないか。人の心の機微に敏感な奴なら」

 嬉しいこといってくれるなあ……。


「そうだと。いいですね。すいません話につき合わせて…では主要目的を済ませてしまいましょう」

 入り口に向けて足を進ませる。


「外観は本当にそのまま残ってますね。あぁでも二宮金次郎像はなぜかなくなっているな」

 しかし相変わらずぼろい…築100年越えだもんなぁ。


「にのみやきんじろう?」


「あーっと…私でもなんでその人物の像がおいてあったのかわかりません。たぶん勉学の場にふさわしいモチーフ、象徴だったのでしょうけど」


「ふうん。そういうのはどこにでもあるんだな」

 とサクサクともんを通り抜ける表札をちらりと見ると…


「教育支援センター…」

 ……なにをやっているんだろう。と携帯で一応調べてみる。


 不登校支援事業の推進を行い、また、心理・発達など教育上課題を抱える児童生徒や保護者、および学校などの相談を受け付けています…か。

 それに4階建ての校舎をまるまる使うことなんてないだろうに。

だってこの場所を利用する前からそういう活動は親から少しだけど聞いていて行なわれていたことを知っている。そんなに場所に困っているとか言う声もあまり聞かなかった。


「ん? 労働支援相談所……。 もうちゃんぽんですね」

 なにがしたいんだ本当に。もう方向先見失って迷走して無いか……?

ていうかハーブ栽培してるのか…おいおい。もう本当になにがしたいんですかうちの市……。

 先刻までいい雰囲気で思い出に浸っていたのになんだか脱力してしまう。


「ここは小学校とかいうところじゃなかったか?」


「ああ。元小学校です。公共施設の一部になったみたいですね、相談所という名の……」

 あはは……と力なく笑って応える。


「ではカイトに付き添ってもらって小学校探検開始です」

 と脱力した自分に軽く喝を入れてドアを開けるように促す。

ドアにはたくさんポスターが貼ってあってこれは前と変わらないところだなと感じる。

 入り口の周りにはごちゃごちゃと物が置いてある。これ人が相談しに来るとかいや、人の気配がない廃墟ともまた違ってバリバリ生活感あるなあ……。


ちょっぴりドキドキしながらもカイトの腕を胸に抱きながら、校舎の中に足を踏み入れる。

 だってこれ不法侵入だもの。公共施設だからいいのかな? とも思うけど。

「おじゃましまーす…」

「へい、へい」


 カイトは緊張が見られない。うーん順応力の高さ半端無いな…。

 心臓に毛が生えているのか、鋼鉄製なのか。


「しかし、ここにきて何がしたかったんだ?」

「特になにがしたいとかは思わなかったんですけど、とりあえず好奇心ですかね。どう変わったのかとか」

 あとちょっぴりのノスタルジー? なんちゃって。


「とりあえず教室にいってみましょう! GO! GO!」

「何気に興奮してんのな」

 ウチの校舎の一階は給食を作る場所、図書室、靴置き場、家庭科室、理科室などがある。

 職員室や放送室があった場所は取り壊されているのでそこはなしってことで。

 廊下の床は黒い大理石っぽい感じでひんやりした空気が流れている。


「とりあえず図書室かな…」

 たぶん、ここだったと思いつつ。かちゃりと戸に手をかける。が、


 ガチッっと音を立てて扉に進路を阻まれる。


「…………。」

「閉まってるな」


 サッとヘアピンを鞄の中のポーチから取り出してみる。

「これでなんとか空けられませんかね? シンプルな南京錠みたいですし。

すいませんけどこれ軽く曲げてもらっていいですか?」


「ああ」

 こういうときは男手だ。活用できるものは活用させてもらう。それに爪切ったばかりだから私には無理だ。こんなん初めてするわ……とちょいちょいと鍵穴にピンの先をいれてなんどか中をこねくり回してみると、


 パチンと音を立てて錠が外れる。


「おぉ…。開いた……」

 ちょっとカンドー。


「完全に泥棒の(てい)だな…。」

 それは言わない約束だぜ。とっつあん。


「失礼しまーす」


 本棚そのまんま置いてある…中身は空っぽだけど。本当にここ活用できてんのか?

うあー懐かしい…。まだ返して無い本1冊家にあるんだよな。今日持ってくればよかったかもそれでそっと空っぽの本棚に入れておくとかして。


「ここは?」


「図書室です。子供向けの本があって、休み時間とかに借りていくんですよ。

 とはいってもあんまり私が読みたい本なかったんですけど」

まぁだからこそ伝記すら読んだんだけど……。じゃなきゃ物語系ばっかり読んでただろうし。

図書館の存在を知った時は叫喚乱舞だった…。毎日のように通ったもんな。

あそこ児童書のセレクトがいい感じなんだよな~。大人になってから気づいたけど。

大人用の本は逆にあんまり置いてないから、最近は他の市の図書館行ってるけど。


「でも空っぽだな」


「えぇもう読む人もいないですし」

 なんというか淋しい光景だね。


「では次行きましょう!」


「もう階段あがるのか。 他は見なくていいのか~?」


「んー。図書室があんなんだとたぶん施設だけのこってて、物はごっそり抜き取られてる感じなのかなと思って、鍵をいちいち開けるのも面倒ですし」


「……お前最後のが本音だろ」

さぁ? どうでしょう。


「廊下の様子は前と変わんないですね~。トイレもそのまんま…。」


――あ。人だ。職員の人かな。しかしゆるい格好だな。


「………。」

「………。」

 なんとなく見えていないのはわかっているんだけど。少し廊下の端によって二人して無言を貫く。


「行きましたね」

「行ったな……。」


ふうーと息をつく。なんというか、うん。緊張した。というか本当に認識されないんだな。人がいないところだとそれが余計に際立つんだ。


「そういえば、ある程度離れれば私の方だけは認識されるんですよね、今気づきましたけど」

「今更……」

 カイトの方はもう既にお気づきでしたか…。すいません鈍くて。


「まあ、じゃなきゃ買い物できませんよね。今思うとどのくらいの距離で私の方が認識されるか実験しとけばよかったですね」


「ああ、最初飲み物奢ってもらった時はあそこからここまで位離れてたか?」

 と指をさしつつ私に確認する。


「あぁ、コーヒーショップの時ですね」

 あのときは3mってとこかな…。


「とりあえず今はうかつに離れられませんね」

「だな」

 きゅっと先刻(さっき)よりも傍によって歩く。まあ念のため、念のため。

 拒絶されないな……そういえば最初会ってからずっと。


「……こんな風にべたべたされるの大丈夫なんですか?」

「まあ普段ここまでくっつく相手はいないな」

「そりゃあ、私もここまでは……ないですね」

 って答えになってませんよ……?


「じゃあ。行くか」

「え……? あぁ、はい」

 何箇所か見てまわった結果そのうちの教室の一つが開いていたので入ってみる。


「黒板がホワイトボードになってる…」

 なんか時代を感じる…。まぁチョークの粉とぶし利用回数も減るならこっちにするよな。

費用考えなくていいし。私達みたいに毎日使うわけじゃないんだから。


「なんだ? これ」

「えーっと」

少し横を見るとマーカーが置いてあったので、手に取ってキュポンと蓋を外す。


キュキュキュ~。


“藤宮芽衣”と名前を書いてみる。


「こんな感じで使うんですよー」

といいながらちょこちょこと落書きを続ける。うーん。楽しい…。


「ふむ。貸せ」

「え? はい、はい」


“カイト=ルー=シュピッツ”


「……読める」

「…あぁ。」

 流石にこれは私でも気づく。可笑(おか)しいだろ言語違うのに書いて読めるとか。

 どんだけ高性能なんですか、翻訳機能……。

 というかゴメン苗字そんなんだったんだね。忘れてたよ。


「なんというか本当に便利ですね」

「あぁ。便利だな」


「………。」

「………。」

 なんというかもうこのことに関しては投げやりだな。お互いに。


「あーっと。今度こっちの本でも読んでみます?」

「あぁ。なんか貸してくれ」

 ええ。お勧めの本を厳選せねば……! どんな本が好きなんだろう?


 ……というか。

「教室せまーい。うわー。なんか新鮮な感じ!」


「そりゃあ身体も大きくなって……というか小学校って何歳くらいから通うもんなんだ?」


「5歳くらいですかね……たぶん?」

「それはそれはおっきくなったなぁ…」

「なんか年寄りっぽいですよ」

「まぁお前からみたらオッサンかもなぁ…」

 ちょいとあんさん。言いながら落ち込まないでくださいよ。


「まだ大丈夫ですよオニーサン」

 そうそう。よっ男前! ウチの大学のオネーさんたちもきゃあきゃあ騒ぎそうだ。


「あ…夕焼け綺麗ですねー」

「おお。そうだな。あれお前のうちじゃないか?」

「そうですよー近いですからねー」

 と教室をくるくると視線を走らせて一段落して廊下に出ようとドアを横に滑らせて開けると


「あぁそれと、お前に触られるのは気持ちいいから大丈夫だ」


「へ?」


――ああ。先刻(さっき)の答えか。というか聞く人が聞いたら絶対誤解を招くぞ……。


「………。」


 うん。まあ私も気持ちいいけど。さ

そういうことは恥ずかしそうにいうもんじゃないだろうか……。


カイトさんの恥ずかしさの基準はどこにあるんでしょう。

それととっつあんの下りは元ネタ気づいた人いるのかなー?


すみませんが、この続きはまとめて更新したいなーと思っているので少し日が開くと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ