王宮井戸端会議
ふー。三話連続投稿です。
多分投稿は明日になるか、友達との観光旅行が終わってからかなと思っていたのに意外とサクサク進んだ。
最近は国王聖誕祭が近づいてきており、王宮内はてんやわんやの状態である。
第三王子のセシル=フォン=アイカシア=エレイとその周りの従者もその例に漏れず多忙である。
“第三”ではあるが一応“王子”という肩書きがあるため式典への参加を余儀なくされており、
―――だからこそ執務室ではいま現在はこんな様相である。
「セシル様、ここが支離滅裂です。そしてこのまとめ何なんですかケンカ売ってんですか? 宰相のじいさまにどやされますよ」と淡々と指摘する。
「ッチ……! 売ってんだよ。こんなん出席したくねぇんだからよ。式典なんて堅苦しくてやってらんねぇ」
赤みがかったブラウンのつりめが更に不機嫌に攣り上がり、整っている分大迫力の顔で苛々とした様子は周りに威圧感を与えており、醸し出す空気の質がけっして堅気の人間が出せるものではない。が
「それには同感ですが、これは陛下の義務です。諦めてちゃっちゃとこなしてください。尻拭いはこっちにくるってんですよ」と鼻で笑い返しつつさらっと毒を吐く。
「おまえ俺の従者だろうが…がんばって俺の足りないところを補ってくれ」
とぼやきつつも、手を動かす。
「忠誠も誓っていますし尊敬もしてますよへ・い・か」と語尾にハートマークがつきそうな口調で耳元で囁く
「うわぁっ 猫なで声でいうんじゃねぇ! 気持ち悪い…… ほらみろ!! 鳥肌立ってるじゃねえか。あー気色悪い。」
とカイトに向かって万年筆を投げ飛ばし、腕をさわさわとさする。
しかしカイトは一歩下がって身を引いて、人差し指と中指でサッとそれを受け止めて、にやりと笑って筆をセシルに手渡す。
「うわー。すごいですね。口挟む暇も無いですよ」
とヒューイがあっけらかんと言い放つ。
「ああ、この時期になると殿下は毎回機嫌が悪いからな。避けられないと分かっていながらも当たり散らさずには居られないのだろう。ティータイムには陛下の好きなものを並べよう」
とセシルに同情をしつつ飴を与えようと思索するユリウスである。
この中では一番ユリウスがまっとうな人間である。その所為で割を食うことも多いのだが。
「しかしいつもながらすごいですねカイトさん。あの迫力の中あんな態度……。」
と感心しつつも書類を整理する。
「あぁ。あいつが殊勝な態度をとる相手はかなり限られているからな。ほらこれも添削頼む」と先ほど宰相から届いた書類を仕上げ手渡す。
「了解です。そういえばユリウスさんはカイトさんと幼馴染なんですよね?」
「あぁ。昔からの腐れ縁だ。家同士が仲がよくて幼少期の遊び相手の一人だな。昔はみるからにお上品で誠実で素直そうな感じだったんだが。」
「あー。カイトさん外では真面目で上品で理知的でかっこよくて素敵だわーと奥様方やご令嬢に騒がれてますよね。部下にも尊敬の目で見られてますし、俺の同期にも憧れてる奴いますよ。……こちらがドン引くくらいに」
「そうなのか。まぁアイツは世渡り上手いからな。俺にはない才能だ」
「ユリウスさん真面目だから。まぁ、だから隠れファンが多いんですけど」とボソッと付け加える。
「あぁ、うっかり本性を知った時あわてて逃げようとしたんだが、捕まってしまってな。口封じ材料が俺にはなかった為に監視を理由にと側に置かれたんだ。今思えばあれは人生の転機だったな」
とグレーの目を眇める
「あーなんか想像つきます。先輩たちの子ども時代……。可愛げなさそうですよねカイトさん。」
とため息をつきつつも言い加える。
「あ。そういえば……この前のって一体何だったんですかね。カイトさんが半刻ほど遅刻したと思ったら大きな音がしていつの間にか執務室に現れて、しかもシャツは袖の長さが足りて無い上に色も違うし、ジャケットも着てないし靴も履いてない、で珍しく狼狽してましたよね」
と話題を少し前の出来事に転換する。
「あぁ俺も聞いてみたんだがあれからずっとその件については口をつぐんでいてな。その後もいつもどおりだから何とも言えない」
「ユリウスさんがきいても駄目なら 僕が聞いても駄目ですね」
と他の話題に移ろうとしようとしたのだが、
「なぁお前ジャケット新しいの発注したんだってな。――アレはなんだ?」
――その瞬間空気が凍った。
ぐるりと外野2人はそちらに勢いよく振り向いてカイトの出方を窺う
「…………。」
「…………。」
沈黙が重い……。ユリウスとヒューイは気まずくて固まった。
しかしカイトは一瞬硬直したものの直ぐにいつもの微笑みを浮かべた。
「なんのことでしょう?」
としらじらしく答えにもなっていない返事を返す。
「だからあの時どうして遅刻した上明らかに変な登場をしたか、だ。あまつさえ制服を着ないで微妙にちぐはぐな格好で、だ。訊かれないとでも思ったか?」
セシルが真顔でカイトの目を真っ直ぐ射抜く。
「……。制服は寝ぼけてその辺にあるものを着てしまったんですよ。洗濯当番の方が他の人のシャツと間違えたみたいですねぇ。それと変な登場ですか…。覚えが無いですね。陛下が夢で見たことを現実と混同してらっしゃるんじゃないですか? それとも見間違いか幻覚ですよ。きっと。」
と、とても納得できそうに無い答えをぬけぬけと微笑みを貼り付けながら言いのける。
「そんな答えで納得できると思うのか……?」
と少し不機嫌さを滲ませて再度カイトの目を真っ直ぐ見つめる。そして答えを目で促す。
「…………………。」
「…………………。」
ごくり…。
外野二名は固唾を呑んでセシルとカイトを見る。
「………………………………ッ。だぁーもー!!
あー無理にでも納得しろや。
って言っても退かねぇだろうなぁ……」
と頭を掻きながら大きなため息をつく。
「正直に言うと俺でもわかんねぇんだよ……。―――――これ以上は訊くな」
それ以上の追求は“許さない”と目が語っている……。
「……………わかった。今回は勘弁してやる」
と彼の決意と一欠片の真実を見て取って、渋々ではあるがセシルが退いた。
空気がだんだんと弛緩していく。
――そして硬直していた外野二名は漸くほっと息をついた。
このシーン。カイトの母を出そうかなとも思ったんですがそれは後々ということで。