始まりは唐突
「……3限目休校か」
大学へ行くための乗換駅である難波の改札口で友達からメールがきて少しの間沈黙する。目の前には階段、エスカレーター、ケーキ屋、コンビニなどが立ち並ぶ。
……どうしようか。甘いものでも食べにいこうかな。それとも学校に行って自習? などとぼーっと考えながら――目線を目の前から辺りにすべらせる。
「……。」
あれ?
周りの様子はなんら普段と変わりはない。
改札口から乗り換えるために他の乗り場へ歩いていく人や難波に遊びに来た人たちが平日だなぁ……と思う程度に行き交っている。
ただ一点だけおかしい。いやこのご時世ならこんな人がいてもおかしくない。でもなんというか。周りの目線がそこに向く程度には変なモノがある、のにだ。
ただそこだけ空間が遮断されているように誰も目を向けていない。
どうしよう……ちょっとおもしろいかもしれないと好奇心が出てきてしまった。そして声をかけてみよう、という選択肢を選んだわけである。
今思えばあのときはちょっとテンションがおかしかったのかもしれない。深夜のテンションというやつである。いやお昼だったけども。
いつもならおもしろそうと心惹かれても面倒ごとと面白いことを秤にかけてから行動する。
……たぶん。
父曰く『お前は深くは考えてないだろう。考えすぎて動けないことは多いが、考えは浅い』うーん 耳が痛い。
「ねえ あなたどうしてここに突っ立ってるの? その服って自前なの?」
あー 唐突すぎるか……。
質問だけだし、ぶしつけすぎる?
声をかけた相手がこちらを振り向く。背が高いな、弟よりも高い。
うむ、好みの体型だな。ほどよく肩はがっしりしているし、まあ外国人体型というか、一般的日本人みたいに足は短くはない。
というか日本語で話しかけちゃった。
「……。」
うわ無言だ。えーっと、じゃあ。
「Hello. May I help you?」
うん、なんていうか定型語だね 教科書の例文みたい。
「いや なぜここにいるかもわからない。どうみても少し前居たところとはだいぶ異なっているようだ。そして服は王宮からの支給品だ」
あ、日本語だ。ペラペラだー。英語で話す必要なかったな。しかし、雰囲気硬いな。まぁ初対面だし。しょうがないか。
って王宮? どこかの国の要人警護か?
……日本で日常会話で“王宮”って普通でないよね。
「どこの国の人? 日本語上手だね。」
「フィンパネトーネだ 日本語? 私はフィン共通語を話しているのだが?」
……うん 話は変わるが、私は小説を読むのが好きである。
うっかり徹夜して読むくらいには
ファンタジーももちろん好きである。疲れてるときにはいいよね。
どっぷり世界観にのめりこんで……
しかしこういう展開ってありがちだよな。この国の人じゃないのに、意思疎通がなぜか出来るっていうのは。
私がトリップとかそういうのではないけれど
いわゆる逆トリなのか?
それかドッキリ いやでもこんな七面倒くさいこと誰がするんだよ。
話が長くなるだろうな、と思って場所を代えたほうがいいかな、と候補を頭の中で挙げていく。コーヒーショップとか……。あの3階建てのなら丁度いいか。3階とか平日だったら人少なそうだし。
「あのー どうします? 状況わかってないみたいですし、私の推測なら話せますけど長くなると思うので場所移動しません? ここは人たくさん行き交ってるし、通行の邪魔になるかもですし」
まあついてくるか微妙だな 初対面でどこかへ行きません? って言われて
ホイホイ付いて来るとか無いかな。まあ断られても私に損はないので困らないけど。
……なんて他人事だなぁ。
「わかった なんかもうお手上げだ。とりあえずお願いするよ」
しかし彼はキラキラーと効果音のつきそうな爽やかスマイルでそれを受け入れた。どこから出てくるんだその無駄な爽やかさ、と少し羨ましく感じつつも彼を先導してコーヒーショップに向かった。
――それが始まり。