四
神様が言うの。「ママ、ねえママどこぉ」って。
だけどママは何も言わなかったの。昨日と同じで、今夜もいなかったの。
「ママ……」
神様は、暗闇の中を彷徨ったの。覚えているはずの道が、今夜はなぜだか分からなかったの。どこがどこだか分からなかったの。
壁にぶつかって、痛くて泣いたの。静かに泣いたの。誰かの声がしないか、耳を澄ませながら泣いたの。
時間が経つと、涙は出なくなったの。頬がひりひりしてる。
ふと気がついて、神様は壁を叩いたの。そして手を上にのばしたの。
壁は、扉は簡単に開いたの。
ふいに、風が神様に当たったの。驚いた。ここは太陽の出ているときと同じで、ずっと向こうまで広がっているのかもしれない。
向こうには何があるんだろう。向こうには何がいるんだろう。
神様は、進んだの。風がいっそう強くなったの。
向こうには何があるんだろう。向こうには何がいるんだろう。
地面がなくなっているところがあったの。でも慎重にそこを踏んでみたら、ちょっと下になって地面があることに気付いたの。その地面から先も、ちょっと下のところに、その先も下に。ゆっくりと、転ばないように神様はそこを下りていったの。
叫び声が聞こえたのは、そのすぐあとのことだった。神様はすぐに分かったよ。その声がママのものだってこと。
「ごめんね、ごめんね、ごめんね」
いつの間にか神様は抱き上げられていたの。いつの間にかママがいて、なぜだかママは謝っていたの。
ああ、神様どうか助けて――ママの声は、パパと月がいなくなったときのと似ていたの。
神様はママを助けるの。そう決めたの。
でも、向こうには何があるのか、向こうには何がいるのか、知りたかったのに、今日も分かることはなかったの。
ママと朝を待つの。




