三
向こうには何があるんだろう。向こうには何がいるんだろう。
神様はそう思ったの。向こうの原っぱを眺めて。大きな木の枝に座って。
薄緑の草や、この大きな木を、太陽が抱きしめていたの。原っぱがなびいているのはまるで、くすぐったがっているよう。木の葉が揺れているのはまるで、喜んでいるよう。
神様も、太陽に撫でてもらうの。木の葉がつくる陰は、ちょっとくすぐったい。途端、神様は前のめりになってしまって枝から落ちたの。どすんと音がして、神様は木の根に当たったの。だけど、ぜんぜん痛くはなかったの。神様は大きく笑ったの。なぜだかおかしくて、神様は笑ったの。それでもどうしてか、その笑顔には涙が混じっていたの。
そうしているうちに、また夜が来たの。辺りが真っ暗になって、いま自分がどこにいるのかも分からなくなっちゃう。
「ママどこぉ」って、神様は呟いたの。
だけど、ママの声はしなかったの。
代わりに、変にのびた音がしたの。それは神様のまわり全部に響いているような、はっきりとしてるけどどこかぼんやりとした音。そういえば昨日おばさんが来たときも、こんな音がしていたかもしれない。
そのあとすぐに「宅配でーっす」って知らない人の声がしたの。
神様はゆっくりと、声のしたほうへ向かったの。
すると、行き止まりに来てしまったの。先に行こうと思っても、何かが通せんぼしていて進めない。
また「宅配でーっす」って声がしたの。それはこの壁の先から聞こえてきたの。
どうにかしたら、先へ進めるのかもしれない。
神様は手を上にのばしてみたの。ぺたぺたと、壁を伝って。そうしたら何か、出っ張ったものに手が当たったの。触ってもどうやら痛くはなかったの。神様はそれを掴んだの。
そして壁は開いたの。
だけど、もう声はしなかった。神様が遅かったから、もう帰ってしまったの。




