二
今夜は楽しい日なの。お休みの日なの。ママのお仕事がない日なの。
だけどママはまだ、絵のない絵本を読んでくれないの。読んでくれるって約束したから神様は待っているの。
ママはおばさんと話してるの。ママが、「お隣の、七〇五号室の人よ」って教えてくれた。
「あの子、仕事の間ここにおいているんだってね」
おばさんが静かな声で言ったの。ママは何も言わない。
「再婚はしないの?」
ママが何も言わなくても気にしないで、おばさんはそう言ったの。
「まだ……六ヶ月経ってないので」
「あら、六ヶ月経てば再婚できる相手がいる、というような言い方ね」
「……いいえ。言葉の綾です」
ママの声は、ちょっとむっとしてたの。おばさんのことが嫌いみたい。
「とにかく、一人でいさせるのはよくないわよ。ベビーシッターでも雇ったら?」
「そんな金ありませんし……」
ママの声は、なんだか痛かったの。ちくちくと。
「仕事場につれてけないのかしらねえ。その前にまず、この子、家の外に出してやったことはあるのかし」
「あの――」
おばさんの言葉の途中で、ママが言ったの。神様はぴたりと体をとめてしまったの。
「あの、もう帰ってくれませんか」
神様は泣いたの。痛くて泣いたの。ちくちくとして痛かったの。とても痛かったの。
ママが大声をあげたの。
「めくらも涙を流すのね」って、絵本を読んでもらっているときみたいにおばさんが呟いたの。
今夜もつまらない日なの。




