罰ゲーム
「随分余裕じゃないのよ。啓」
ゆっくりと睡魔に身を委ねつつあった啓は、声のした方を向くと二人組の男女が啓の机の横に立っていた。二人の姿を確認すると、再び啓は夢の世界に戻ろうと顔を元の位置に戻そうとするが。
「ちょっとぉ、しゃんとしなさい!しゃんと!」
そういって啓に声を掛けた方が啓の肩を掴みガクガクと揺らす。
それでも啓の頭は半分も可動しなかったが、それでも幾分かましになった気がする。
「で、何のようだよ。結依、智也」
ふらふらする頭を抑え今度はしっかりと向き直り、そう尋ねる。
「だからな、啓。余裕だな、と言っているんだよ」
そういうと九杉智也は、豪奢な金髪の前髪を掻き揚げ、蒼い瞳を高い位置から見下ろすようにこちらに向けてくる。このナルシー野郎、と啓は思ったが、いつものことなので無視した。
「なにがだ、なんか焦るような事あったか?」
啓の単純な質問に二人は顔を見合わせ、ほぼ同時に溜息を付き、お手上げだ、というように両手を挙げた。全く二人が言いたい事がわからずに、ボーっとしていると痺れを切らした結依が説明する。
「あんた、さっきの吉原ちゃんの話を聞いていなかったでしょ?それで吉原ちゃんの所に行かなくていいのか、って言いたいのよ」
わかった?、そう結依が告げると、啓はしばらく考え込んだフリをして見せた後。
「ああー!?なーるほどぉー――――じゃあオヤスミ」
そのまま顔を伏せると又しても結依がガクガクと揺さぶってくる。
「もう何だよ〜どうせ中等卒業テストの事だったんだろ?」
二回も脳みそをシェイクされれば寝る気も失せてくる。
そう言い放つと、二人は目を文字通り点にしている。そんな二人の意外な反応に啓は多少の戸惑いを感じる。
フッ、と智也はキザな嘆息を付いてから。
「いや僕も啓みたいに外をボーっと見ていればよかったなぁ……そんな事ならね」
やたらと末尾の台詞を強調してくる。それに合わせたように結依も。
「ええ、私も昨日、夜遅くまで起きてから啓みたいに寝ていれば良かったわ……そんな事なら」
やはり末尾を強調してくる。一体何なんだ、こいつら、とか啓が思っていると。
「うんうん、君の頭の中はいつも平和だなねぇ」
ポンポンとなれなれしく肩を叩く智也は蔑みを通り越して、哀れみの目をしている。
「でもまあ、今回は君の゛中途半端な学力゛が足を引っ張っているよ」
゛中途半端な学力゛それは嫌味でもなんでもなくただ単純に上でも無く下でも無いという事を現している。つまり゛平均的゛という事だ。どんなテストでも取るのは平均点というある意味、稀有な才能の啓は所持しているのだ。それに敬意を払ってかどうかは知らないが゛アベレージャー゛(命名:吉原)という変な称号を与えられてしまったりしている。
「で、一体、吉原ちゃんは何の話をしてたんだ」
そう仕方なく尋ねると。二人して底意地の悪い笑みを浮かべ。
「「ええ〜言えないよ。そんな事言ってばれたら私(僕)の成績が下げられちゃうし〜」」
そうか、そう言うことか。啓は心の中で毒付きながら、ようはこいつらコレが言いたかったわけか。二人の真意を悟り、怒り狂う精神世界の自分を決死でなだめつつ。
「ありがとう、ほんとーにありがとう。おかげで助かりましたよ。お二人とも」
引き攣る口元と眉毛を吊り上がらせたまま、口ばかりの礼を述べる。
感謝しなさいよ。と結依、あとでなんか奢れ。と智也、散々好き勝手な事を言う二人から身を遠ざけ、廊下に出ると雪崩のように飛び出したクラスメート達がそこいら中でせっせと掃除をしている。
俺にはどんな゛罰ゲーム゛が待ってるかなぁ。とか思いながら、職員室に足を向ける。
随分と次話投稿が遅れてしまいました。
次回は今回よりも早く投稿できたらと思います。