現実逃避の主人公
見上げれば澄み渡る空の青、見下ろしてみれば運動場で少年少女たちが楽しそうな声を上げて走りまわっている。
あー楽しいそうだなー思い返せばあの位が一番楽しかったなぁ。
自分の幼い頃の思い出に浸りつつ、頬杖を付きながら、松崎啓は半分夢見心地な気分でぼんやり外を眺める。
やべー眠たくなってきた。
数分前から確か高校に進学するに当たっての心構えとやらを教師(?)が説明していたようだった。
しかし、そんな話は啓にとってはどうでもいいことなので話が始まった数分後には今のような感じだった。
そんな事よりも、まぶたのシャッターに毎秒ペースで増えていく重みに抵抗するので精一杯だ。
だめだぁ、もう寝そう。でも、寝るとうるさいんだよな。
果敢な抵抗を続けようとするがついに甘美なる睡眠の欲求に身を任せかけた瞬間。
「そこぉー寝ーるなー」
精一杯引き出したような甲高いかわいらしい声で現実に引き戻されると同時に目に入ったのは白い塊だった。
それが、すこーんと小気味のいい擬音が聞けそうな勢いで額にヒットする。
「痛いよー吉原ちゃん。しかもチョーク投げなんていつの技だよ」
啓は額をさすりながら教卓に立つ、教師(?)にチョークを弧を描いて投げ返す。
吉原ちゃんと呼ばれた教師(?)は、腰に手をあて、軽い前傾姿勢を取る。
「うっさい、寝てるやつが悪いの!あと教師゛役゛を吉原ちゃんとか馴れ馴れしく呼ばない」
投げ返されたチョークをキャッチするとやっぱりかわいい声で怒鳴る。
「へいへい、わかったよセンせー」
そういうと啓はとりあえず視線を黒板のある方に持っていく。
吉原ちゃんは、啓と似たような状態に陥ってる生徒に注意をすると、溜息と咳払いを一つずつしまた説明に戻る。
「もう一回最初から説明するよ。いい?」
最初から真面目に聞いていた生徒からはブーイングが起こるが、吉原ちゃんはそこそこになだめる。
「みんなはこれから高校に進学する事になります」
教室全体を見渡し、まだ寝ている者、まどろんでいる者が目に入ったらしく吉原ちゃんはヒクッと表情を引き攣らせる。
「そうなると、自ずと社会的貢献度に深く関ることになり、重い責任や義務を持つ事になります。例えば今までは、学級委員のみに与えられていた。年少者への管理義務も全員に与えられる事になり、各々が特化した技能を行使するための各委員会への所属義務などがぁー」
吉原ちゃんは、捲くし立てるように話続けると、ふと話をするのを止め何かを考え込むように黙る。
しばらくすると吉原ちゃんは、パッチリした目を細め、かわい……いや、意地悪く笑うと。
吉原ちゃんは、教卓を勢いよく叩くと意外な破裂音でまどろんでいた者に正気を、完全に眠ってた者には悪い寝起きを与えてくれた。
教室内の睡眠率が0%を記録し、吉原ちゃんに全員の視線が集まった瞬間。
「説明すんのが、メンドイ。てゆーかちゃんと一回は説明したんだよね」
不味い、今まで寝ていた生徒でこのフリを覚えていた者は全員がそう思っただろう。
「話を聞かないで寝てるやつはー」
「「「ちょ、ちょっと、ま―――」」」
気付いた生徒の決死の言葉を遮り満面の笑みを浮かべ。
「知らない」
可愛くポーズ付きで言い放ってから、吉原ちゃんはさっさと教室から出て行った。
しばらくの沈黙の後、教室の廊下へと繋がるあらゆる通路から寝ていた生徒の95%が、我先にと彼女を追って出て行く。
そんな中、残り5%は―――また、ぼんやりと外を眺めていた。
人物の外見描写が全く入ってないことにあとから気付きました。