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白雪姫と七体の悪魔  作者: 柳瀬あさと


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4/4

4、一方その頃、国では魔女が

 白雪姫を殺してきたはずの狩人が死んだ。

 王妃のリヒルデはその事実にただ顔をしかめただけだった。哀れに思ったのでも不愉快に思ったのでもない。ただただ違和感があったために。


「……狩人が持ってきた臓物を確認して頂戴」


 リヒルデは配下の者に確認をさせる。すると、すぐにおかしい事実が出て来た。


「子供の大きさではない……」


 それは成人男子が持つべき大きさの肺と肝臓。であれば、白雪姫は生きている可能性が高い。


「王妃様、この狩人なんですが……」


 嫌な予感が募るリヒルデに、さらに男の死体を始末してきた配下の者が耳打ちしてきた。狩人の死体は胸や腹部におかしなへこみがあったと。


「その狩人の体を開き、中に肺と肝臓があるか調べなさい」

「はっ!」


 渡された肺と肝臓が誰のものなのか。大きさから白雪姫ではない。動物や他人ならばわかる。だが、臓物を持ってきた本人の物だったなら。

 そんなことが出来るのは魔法使いか魔女か、もしくは精霊か悪魔。

 リヒルデは知っている。あの憎い女、かつての王妃フリーダは召喚士の家系だという事を。


「まさか……!」


 王や城の中の者に聞いた限り、白雪姫はほとんど教育もされていないとの事だった。

 だけど顔合わせの時や挨拶をした時、白雪姫は淡々としてはいたがある程度の教養があったように見えた。

 フリーダの家の者が内密に接触していたとしたら? 召喚士として育てていたとしたら? 既に何らかの存在を召喚していたとしたら?


「白雪ぃ……ッ!」


 リヒルデは手に持っていた扇子を折れんばかりに握りしめる。予想が当たってほしくないと願うも、暫くしてやってきた部下の青褪めた顔に、自身の予想が当たってしまったのだとわかった。


 実際のところは予想の斜め上を行っているのだが。




 * * *




 白雪姫の国の隣、ザターンが住処としている森を境に反対の場所に位置する国の王宮。その一室で一人の王子が部下の報告を聞いていた。


「は、白雪姫を追放?」


 第三王子のマモンは、王族らしからぬ、けれど十六歳という年齢にはさして違和感のない間抜けな声をあげてしまう。


「はい、王妃の独断のようで」

「いやいやいや、だって父親である王が必死になって探すでしょそんなん」


 一国の王女だ。たとえドロドロの政争の末だとしても、たった一人の王の子を表向きはともかく探さないわけがない。そんな当たり前の事を言うが。


「それが探していないんですよ」

「何で?!」


 思わず大声を出してしまう。


「どうやらその出自を疑ってるようでして」

「いや、疑ってるって言っても、白雪姫って王族として認められてるよね?」


 国によって詳細は違えども、教会や王室の専門部署で生まれた子供は記録される。それを以て身分証明とするし、そもそも白雪姫の誕生は他国へしっかりと通知されてもいた。


「認められてますね」

「継承権持ってるよね?」

「現状唯一の保持者ですね」

「え、えぇ……? 馬鹿なの……?」


 信じがたい愚行にマモンはその整った顔を露骨に歪めて全力で引いていた。国を滅ぼしたいのか、それともすでに内乱後なのか。そんな事を考えてると、ズシリとマモンの肩が重くなった。


「えー、何それ、隣国面白い事になってんじゃん」

「ベルフェ……お前は首を突っ込むな」


 圧し掛かってきた存在は、マモンと全く同じ整った顔をしているのに表情がまるで違う。何処か見下しと嘲りが混ざったそれ。そして黒に近い銀の髪と目。暗い金の髪と金の目を持ち、人好きのする笑顔が多いマモンとは、まるで違う印象を与える。

 時にマモンの振りをしたり、時に臣下に紛れ込んだりと自由に振舞うこの存在は、その実、ベルフェという名のこの国の王家に代々憑りついている悪魔である。

 この王宮を住処とし王家を自分専用の玩具としている悪魔は、怠惰で享楽を愛している。それを知っている王家と国の上層部は、悪魔が満足するだけの怠惰と享楽を許し与えているがゆえに、この悪魔は自分の領地と玩具を守る感覚で国を守ってもいた。絶妙な共生関係は長く、それゆえに何処か気安い。特にほとんどベルフェの後始末を任されているマモンは厄介な兄弟くらいの気持ちで接しているし、ベルフェもそれを許していた。


「まぁ待てよ。白雪姫って生きてんの?」


 いや死んでるだろう。ベルフェの問いかけにマモンは反射のように思った。なんせ十歳前後の子供が王妃により追放され、王が探していないのだ。推して知るべしである。ところが。


「はい、国境の森に逃げ込んで生活しているようです」

「え、まだ生きてるの?!」


 まさかの報告にマモンはもう一度大声を出してしまう。自国の諜報員の腕の良さに感心もしながら。

 報告を聞いたベルフェは楽しそうに口笛を吹き、その口笛を聞きながらマモンは瞬時に計算する。


「聞いたかマモン、という事はだ。白雪姫見つけて助けて恩売って結婚しちゃえば?」

「正攻法で隣国乗っ取れるチャンスじゃーん!!」


 三度の大声に、けれどベルフェも部下も、そしてマモン自身も満面の笑みである。


「面白くなってきたな、オイ! 誰が行く?!」

「白雪姫って十歳で合ってるよね? そしたら年齢的に俺かな?」

「正確にはそろそろ十一歳ですから殿下が一番近い五歳差ですね。やりますか殿下!」

「やるやるー! 父上と兄上達に報告したらすぐに行く―!」

「お前のそういう根っからの簒奪者な気質好きだぜー! 俺も行くー!」


 キャッキャと楽しそうに王子と部下と悪魔は盛り上がって動き出す。


「さぁて、どんな面白い見世物になるのやら」


 支度を始めたベルフェは何処からともなく地図を取り出して広げる。目的の森は遠い。そこへ行くまでの旅も楽しめればいい、あまりにも簡単な国盗りだったらいつも通り適当に引っ掻き回せばいい、と思いながら、無邪気な子供にも似た残酷な笑みを浮かべる。


「と、ここザターンがいる森か。ついでだから久しぶりに会いに行くかな」


 旧知の悪魔の存在を思い出したベルフェは、そんな再会も予定に入れて。

 かくして隣国も動き出した。


 そこで運命に会うなどと予想もせずに。




 * * *




「あら、お父様たち国を出ちゃったわ」


 フリーダが水鏡を覗き込んで言った。聞こえた白雪はつられるように水鏡を覗き込んだ。そこにはやけにすっきりした顔の一家が馬車に乗っている様子が映っていた。


「お母様のお父様たち? 私にとってお爺様たち?」

「そうよ、白雪のお爺様とお婆様。ついでに伯父様」

「お前が死んだ時点でもかなり切れてたのに、白雪の保護と後ろ盾を断られた時に王家に対してブチ切れてたからな。遅いくらいだろう」


 ルツィーが後ろからフリーダを抱きしめながら言う内容は、白雪にとって初めて知るものだった。白雪としては完全に捨て置かれているのだろうと思っていたのだ。


「まぁうちは力かなりつけちゃってたからねぇ、あの屑がこれ幸いと力削ぐ方向狙うのはわからないでもないけど、こうなるとこの国の価値が大分目減りしたわぁ」

「お母様、私、お爺様とお婆様に会える?」


 少し緊張しながら言うと、フリーダは遠い目をしながら「やめておきなさい」と言った。


「愛は……愛はあると思うんだけど、ただちょっと大分即物的で欲深い実力主義の召喚オタクの家系で……いや、本当にね? 愛はあると思うんだけどね? ただ教育的に……待って、悪魔に育てられるよりは……? いや駄目だわ、白雪の才能を知ったら別の方向に駄目な教育が始まる……」


 頭を抱えだした母親に白雪はただ頭を撫でる事しか出来なかった。どうやら人間の家族とはとことん縁が無いらしい。それでも『愛はある』と言われたことは少しだけ白雪の胸を温かくした。温かくしたけれど。


「大丈夫よ~、白雪はお姉ちゃんが大切に育てるからね~」


 ひょいと白雪を抱えたレヴィアが、そのままくるくると回りだす。


「私の子供よ?!」

「でもぉ、フリーダはまだ悪魔の常識とか知らないわけだし?」

「白雪は人間!!」

「じゃあ人間についてはフリーダでぇ、悪魔については私!」


 立派な悪魔としても生きていけるようにしましょうね、とニコニコ笑う。


「あああどっちに転んでも教育の重要性……ッ!」


 善意しかないのがわかるゆえにフリーダの頭は痛くなる。


 そんな感じで正当な国盗りを目標に白雪の教育が始まった。


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