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白雪姫と七体の悪魔  作者: 柳瀬あさと


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3、白雪姫はみんなの為に

 地面に描かれた召喚陣が青白く輝く。輝きはどんどん強くなり、それに合わせて陣の中心が歪み、そこから風が吹き荒れていく。その様子をしっかりと確認して白雪は安心する。これは間違いなく成功だ。初めての成功。母のフリーダとその夫のルツィーに関しては、正直召喚とは言えないと今でも思っている。なんせ単独現界しているルツィーが直々に「こういう陣を描け」「で、ここでさっき練った力を籠める」「そうそう、これぐらい光れば成功、じゃあちょっとそっちから改めて顔出すから、そしたら今度は契約の結び方を教えるからな」と指導しながらのなんちゃって召喚だった。もうただただ白雪を召喚士に仕立て上げて、単独現界出来ないフリーダと契約を結ぶためだけの茶番だった。

 だから白雪にとって、今この召喚が初めての召喚で初めての成功だ。


「あれこれ結構いくな」

「君、どんな教え方したの」

「基礎しか教えてないんだが……」

「白雪ったらちゃんとうちの家系の力使いこなしてる……! 嬉しい……!」

「これ多分お前より才能あるぞ」

「え、本当? やだ、うちの子天才?」


 白雪の召喚を横で見学していた悪魔たちは、想定以上の大物を召喚しようとしている状況に素直に感心していた。

 召喚士が召喚する時は召喚対象が好むものを贄とする。魔獣ならば血肉を、精霊ならば聖力を、そして悪魔ならば魔力を。聖力も魔力も実際は同じものだ。魂が持つ生命力や活力をそれぞれの属性に変換するのだ。

 贄は多いほど、質が良いほど、強力な存在を召喚できる。

 もとより白雪の母、フリーダの家が召喚士の家系で、フリーダ自身も強い召喚士だった。だから何となく白雪もそれなりの召喚士になるだろうとは思っていたが、それなりどころではない。


「――私を呼んだのは、だぁれ?」


 蕩けるような甘く力強い声が空間に響く。


「うわ」

「おや」


 悪魔が出てくる。その悪魔の声が、ルツィーとザターンには聞き覚えがあった。


「この私を呼んだのだから、呼べたのだから、どんな願いでも叶えましょう。さぁ、願いを――……?」


 ふわりと召喚陣の中心に降り立ったのは、燃えるような赤髪の美女。蛇にも似た鞭のような尻尾が生えている以外はほとんど人間。つまり強力な悪魔という事だ。その強い悪魔が発言を止めて、自分に注がれる変に冷めた視線のもとを見る。

 冷めた視線のもとは、二体の悪魔。


「ギャー! ルツィーがいる!! 最悪!! 大外れ!!」

「失礼な」

「やぁレヴィア、久しぶり」

「キャー! ザターンがいるー!! 最っ高!! 大当たりー!!」


 レヴィアと呼ばれたその悪魔は、叫びながらザターンに抱き着いた。

 そしてその光景を見ながら、白雪は疲れてフリーダに倒れ込んだ。


「ちょっといいかい? レヴィアはまず召喚主と挨拶をしようか」

「ん? あ、そうか。私を呼んだのは誰な、の……って、えええ?!」


 抱き着いてキャッキャしているレヴィアを落ち着かせて白雪との対面を促す。白雪はフリーダに抱きかかえられてくったりとしていた。精霊や悪魔を呼び出した召喚士が陥りやすい症状、力の注ぎ過ぎである。しかし、レヴィアが驚いたのはそこではない。


「何この子! 魂超ぴゅあっピュアじゃない! うっそ、何この魂、え、かっわいい!!」


 白雪の魔力の源でもある魂の質。その純度に驚いていた。

 悪魔は魂で人間を見定め、その魂には様々な質がある。喜び、怒り、哀しみ、憎しみ、慈しみ、その様々な質に良い悪いは無いが、聖力や魔力に変換しやすい魂の質があり、さらに変換した力が濃厚かどうかが決まる純度というものがある。

 白雪の魂は何も持たないまっさらな質で、更に純度が高かった。これならば魂の力を変換すれば聖力でも魔力でも強く濃いものになるだろう。勿論、その変換をうまく行えるかどうかは白雪の努力次第だが。


「生前産んだ私の娘です」


 くったりしたままお辞儀をする白雪の頬を撫でながら、フリーダはどこに出しても可愛い子供だと胸を張って答える。


「は? え? どういう……ああ、あなたが噂の可哀そうな元人間……頑張って」


 一瞬混乱したレヴィアは、けれどフリーダのすぐ隣に立つルツィーを見てすべてを察した。ついでに哀れみの目になった。


「待って、どういう認識?」

「だってルツィーの花嫁になっちゃったんでしょ? この男相手だったら多分向こう二千年は物理的に離してもらえないと思うし……愚痴とかだったら聞くよ? 私の連絡先いる?」

「失礼な、同意のもとで花嫁になってもらったんだぞ。なぁ、フリーダ?」

「同意はしたけど二千年は聞いてないわね」

「大丈夫、俺は浮気なんてしないというかお前以外に興味はない」

「そこの心配じゃないのよねぇ」


 今更ながらに愛の重さがおかしいと気付いたフリーダは、早まったかもしれない、いやでも白雪を守るためだし、と葛藤しながら白雪を抱く力を強くした。


「え、でも待って、じゃあ宝石が宝石産んだってこと?! やだ、めっちゃレア! あなたもう二・三人産んでから悪魔になればよかったのにー! あ、召喚主寝ちゃったー、寝顔も可愛いー!」


 気絶するように寝てしまった白雪の頬をツンツンとつつくレヴィアに、フリーダの顔がじんわりと歪む。


「これは褒めてるの……?」

「一応褒めてる」

「褒めているねぇ」

「え、ていうか見かけもいいんだけどヤバ! えー、この魂でこの肉体とか愛しかないんだけど、召喚主大当たりじゃん、やったぁ!」

「褒めてるの……?!」

「一応褒めてる」

「かなり褒めてるねぇ」


 なりたての悪魔にはまだ一般的な悪魔の感覚がわからなかった。






 白雪が目を覚ますとそこは借りているベッドの上で、すぐ横で赤髪の美女が笑顔で白雪を見つめていた。


「おはよう、我が主。私の事は覚えている?」


 言われて頭がはっきりとし始め思い出す。自分が召喚をしたことを。成功した事だけを確認して疲れて眠ってしまった事を。


「……おはようございます、えっと、召喚が成功したって事ですよね?」


 体を起こしながら言うと、美女は何処から取り出したのか、白雪の背中にクッションをいくつも置いて楽に寄りかかれるようにした。


「そうよー、私はレヴィア、あなただけの悪魔、よろしくね、我が主」

「主……」


 言われ慣れない呼び方にむずむずしていると、それに気づいたレヴィアがすぐに助け船を出してくる。


「別の呼び方の方がいい? 希望を言って、合わせるわ」

「白雪でいいです。私は何て呼べばいいですか?」

「白雪! 可愛い名前ね私の主! 私の事は好きに呼んでいいのよ!」

「えっと、じゃあ、レヴィアで」

「やーん、声も可愛いのね、最高! さて、それじゃあ白雪は私に何を望むのかしら?」


 それまでは順調に受け答えをしていた白雪が、そこで首を傾げて止まってしまった。


「……何を……って言われると、難しいんですけど……」


 普通、召喚士は目的があって召喚するものだ。ならば間違いなく願い事が、目的があるのだ。それを言い淀むというのは、人間にとって言い辛い内容なのだろうかとレヴィアは考えた。


「いいのよ、私には隠さなくて。召喚したからには何かやってほしい事があるんでしょ? 何でも言ってみて」


 優しく言っても白雪は困ったように眉根を寄せる。

 そもそも、召喚をしようと思ったのも自主的なものではなかったのだ。


『基本白雪は守るが、ほら、やっぱりフリーダと二人きりになりたい時もかなりあるわけだしな。そういう時に白雪を守れる存在が欲しい』

『私は白雪と二人きりになりたい時の方が多いわよ』

『ルツィーかなり我慢してるもんね、いいよ』

『白雪はいい子だなぁ』

『ねぇ二人とも?! 聞いてる?! 特に白雪マイベイビー?!』


 父親代わりのルツィーと母の会話が発端で、それならばどうするか、と考えた結果が悪魔召喚だった。ちなみに魔獣を召喚するのは世話が大変そうで、精霊を召喚するのは悪魔と喧嘩しそう、という消去法での悪魔召喚である。

 私がいつでもどこでも白雪を守るけど?! と意気込むフリーダに、白雪はきゅっとフリーダの手を握り顔を覗き込んだ。


『だってお母様には幸せになってほしい……』


 フリーダに稲妻が走った。


『白雪!! 私の宝物!!』


 思わず全力で抱きしめたフリーダが後に言うには「うちの子が可愛すぎる。上目遣いになったのは身長差のせいであるが恐ろしい加点要素だった」との事だった。

 そんな経緯を思い出して、白雪はもう一度頭を悩ます。

 親がいない時に自分を守ってくれる存在を作れ、と言われた時から考えていた。それってどんな存在なのだろう、と。

 召喚士とは召喚した相手を配下において従わせる。それはわかっている。わかっているけど、親がいない時に守ってくれるって、それって配下じゃなくて、もっと身近で……。

 目的はどんな時でも自分を守ってくれる力。けれど、白雪が本当に願っているのは。

 家族。

 そう、きょうだい、みたいな。


「……あ、あの、ね」


 白雪は布団を端を握りながら、絞り出すように言う。


「……私だけのお姉様に、なってほしい、かも……」


 レヴィアに稲妻が走った。


「私だけの妹ッ!!!!」


 鼻血も出しかねない衝動で抱きしめたレヴィアが後に言うには「主が可愛すぎる。自分を従える力を持つのに自分を頼りにお願いしてくるとか倒錯的で新しい扉を開きそうだったていうか開いた」との事だった。


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