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白雪姫と七体の悪魔  作者: 柳瀬あさと


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10/10

10、エピローグ

 青い空のもと、教会の鐘が鳴り響く。

 国一番の大聖堂で行われているのは、白雪とマモンの結婚式である。


「自分の結婚式を上から見る日が来るとは思わなかったなぁ」

「し、白雪ぃ……! なんで、何でそんな怠惰な奴とぉ……ッ」


 白けた顔で呟いたのはマモンで、えぐえぐと泣いているのはレヴィアだ。

 二人は大聖堂の天井付近の窓の桟に腰かけて眼下の式を見ている。姿はレヴィアによって隠されているが、レヴィアの泣き声と恨みがましい視線はベルフェに届いているだろう。

 そう、実際のところ、大聖堂で執り行われている式に参加しているのは白雪とベルフェだ。






『白雪との結婚を』


 白雪が玉座についた後、マモン率いる隣国が恩に着せながら突きつけた要望がこれであった。白雪達にとっては既定路線だったが、そこまで知らない臣下たちは渋面となるも、それでもはっきりと拒絶の意を出せる者はいなかった。出来なかった。実際、隣国の介入が無ければ今の状態へ持っていくことは難しかったことががわかっているがゆえに、今は雌伏の時と決め、隣国の侵入を許した。


「幸い白雪様に惚れ込んでいるようだから、白雪様が上手く手綱を操るだろう」

「ですな」


 好き勝手な未来を予測する臣下に、白雪達は何も言わない。真実など知らなくとも平和と栄華を享受出来れば誰も文句は言わないだろうし、マモンはきっとそんな未来へ導けてしまうのだろう。


 そう、白雪は王となった。そして、そのすべてをマモンに押し付ける事にした。


 二人の結婚が決まった夜、白雪達は密かに話し合った。


「さて白雪。それで、君は王様をやりたいかい?」


 答えをわかってるような満面の笑みでマモンが尋ねてくる。

 王の私室で、いるのは白雪とマモンと悪魔たちのみ。大切な存在に見守られながら白雪は口を開いた。


「うん……考えたんだけど……」


 かつてのザターンとの会話を思い出す。

 自分の幸せは何なのか。その為に王と言う立場はどう使えるのか。

 白雪の幸せや望みは結局のところずっと変わらなかった。

 家族がほしい。家族と一緒にいたい。裏切りを心配しなくていい、命の危険を考えなくてもいい、変わらない愛をくれるそんな相手が欲しい。

 そして、そんな家族と穏やかに暮らしたい。それだけ。

 何度考えてもどれだけ考えても、国を治める事にも政をする事にも興味を持てなかった。なんせ人間の知り合いがマモンしかいないのだ。国内の知り合い、ではない。人間の知り合いが、だ。十一年なのだ。十一年の間、顔も知らない存在たちから放置され無視され、そして追い出されて命を狙われてきた。そんな国や貴族達を相手に、王族としての愛情も哀れみも責任感も湧いてこなかった。そして王と王妃が目の前で排されてすっきりしたからか、嫌悪感も憎しみも破壊衝動も今更湧き出なかった。


 ――どうでもいいな。


 出てくる感情はそれだけ。


「マモンに任せてもいい?」


 ゆえに、出した結論は王の放棄。譲渡という押し付け。

 正直な気持ちを言った白雪に対し、悪魔たちは満足げに微笑み、表向きの夫であるマモンも満面の笑みとなる。


「うん、いいよ。大丈夫任せて、うちの国も俺も支配繁栄大得意だからね」

「それは俺も保証するぞ。最終目標は大陸制覇だからな、うちの国」


 ベルフェの補足を受けたマモンはにっこにこで「悪いようにはしないから任せてくれ」と言う。その言葉に嘘が無い事を確信した白雪は「じゃあお願いします」と頭を下げた。こうしてあっさりとマモンは実質的に白雪の国を手に入れた。


 そこから急ピッチで国は動いていく。あれやこれやと色々後始末したり決めたり変更したり。そして、結婚式の準備を進めたり。

 一年かけて準備した結婚式が目前に迫った時、ベルフェが「花婿として参加する」と言い出した。


「俺がいつもみたいにマモンの振りをすればいいだけだろ。実際白雪と結婚するのは俺なんだから俺が出る」

「私まだあなたと結婚するなんて言ってない」


 ふるふると首を振る白雪に、ベルフェは特に傷つかずに「あ~、可愛い」と言いながら抱きしめる。抱きしめられた白雪が特に抵抗をしなくなったのは、この一年かけての変化だった。すぐさまレヴィアが「離れろ!」とベルフェを蹴り飛ばすのは一年かけても変わらなかった。

 王子と王女、いや、女王の結婚だ。国と国の契約であり、国をかけた威信であり、好き嫌いややりたいやりたくないで通る話ではない。だが通された。マモンも式が成功して国内外に問題なく知れ渡り認知されれば、自分が出ようが出まいがどうでもよかったのだ。


 そして無事、今日の結婚式を迎えた。






「にしても、ベルフェがねぇ」


 ベルフェの怠惰な気質を知り尽くしているマモンだからこそ、眼下に広がる面倒臭さの極みに身を投じているベルフェがおかしくて仕方がない。同時に、白雪への重い想いも伝わってきてさらにおかしい。


「うう、白雪ぃ……ッ」

「まだ泣いてるの? 仮初の結婚式で演技なんだからそこまで泣かなくても……」


 ハンカチを差し出せば、バッと奪い取られて盛大に鼻をかまれた。ついでにそのまま燃やされた。


「演技じゃなくなってきてるから泣いてるのよ!!」

「え、そうなの?」


 まだまだベルフェの片想いだと思っていたマモンはぱちりと目を瞬かせる。この一年の間の二人を振り返っても、べたべた絡むベルフェを塩対応してる白雪した覚えがない。だが、白雪をビジネスパートナーとしてしか見てるマモンと家族として見ているレヴィアでは解像度が違った。


「認めたくないけどそうなのよ……ッ私の、私の白雪なのにぃ……!」


 塩対応は塩対応でも、そこに気安さが混ざり始めた。ベルフェがその場にいないと一度探すようになった。レヴィアに「悪魔のお付き合いとか結婚とかってどんな感じなの?」と質問をしてきた。レヴィアは思わず嘘八百を吹き込んだ。すぐに他ならぬベルフェにより嘘をばらされた。おのれベルフェ。

 白雪の態度が軟化すればフリーダはただ笑顔で見守る体制に入ったし、フリーダがそんな様子ならルツィーも手を出さない。ザターンは他者の関係に深く介入する性質ではないし、アスモとベールツェはそもそも白雪が無事王となった時点でお役御免と魔界へ帰った。つまり、抵抗しているのはレヴィアだけだった。


 白雪とベルフェが何も信じていない神に誓いの言葉を捧げる。芸が細かい事に、ベルフェは誓いの言葉は述べずに、周囲の人間に言ったと思い込ませていた。そこまでして神と関わりたくないのに、それでも今ベルフェは愛の為に神の前に立っている。嘘の結婚式だけど。


「結婚は離婚っていう未来があるけど、姉妹は永遠に姉妹なのよ」


 レヴィアが縁起でもない事を言い始めた。着飾った美女が涙をためている様子を隠さないのは、妙なアンバランスで異様に美しい。


「……いやこれ二人の結婚じゃないし、悪魔の結婚って離婚は無いんじゃ……」

「黙りなさい」

「あと君たち別に実の姉妹じゃないし……」

「黙りなさいって言ってるでしょ?! もー、マモン可愛くなーい!!」


 慰めなさいよ!! と泣き喚くレヴィアも、その発言から認めてきているのがわかる。

 マモンは予備で持っていたもう一つのハンカチを差し出す。また奪い取られたが、今度はぎゅうっと握りしめられている。燃やされずにすみそうだ。

 今、ドレスと礼服に身を包んでいるのは白雪とベルフェだが、この結婚式は白雪とマモンのものだ。マモンが白雪の国を手に入れるための小細工の一つに過ぎないが、それでも実際に参加している二人のものではない。だけどいつの日かまた、同じような光景を見るのかもしれない。その時はちゃんと列席者の場所で参加して、ハンカチは十枚くらい用意しよう。そんな事をマモンは心に決めた。


 誓いが終わった花嫁と花婿は向かい合う。周囲からの祝福の眼差しを受けながら、ベルフェが白雪のベールをあげる。何の邪魔もなくなった二人がほんのりと甘さを滲ませながら見つめあう。そして――……。









 そして白雪姫はいつまでもいつまでも、本当にいつまでも、王子様と家族と一緒に幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。


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