46日目・長い時間の中で
不老不死の魔法を発動したことによってアーサーの体は全盛期ごろの体へとなった。
「これで…何年掛かっても2人を…」
アーサーは期待に満ち溢れていた。
長い間、禁忌とされる魔法を使えるかは不安だったが36年掛かってやっと成功したのだ。
「…長いな」
そんな期待と同時に不安があった。
時間は無制限となったが、これからすることに比べればこれはまだ一歩に過ぎないのだ。
世界についての魔法もまだ掴めていないし、死者蘇生の魔法も発動することはできない。
このころの魔法は詠唱が存在しておらず、全てを想像で行なっていたため習得には時間がかかるのだ。
「想像がしやすい…か…」
アーサーは顎に指を当てて考えた末に、一つ思いついたことがあった。
魔法を具現化するには高い想像力が必要となってくるが、アーサーはそれが乏しかった。
だからこそ考えたのだ。
想像を現実にするほどの力が必要ならばそれを表す言葉を言うことをで自分にもわかりやすくなる。
「…魔法を表す言葉を…詠唱を使えばいいんだ…」
アーサーは走って自分の家へと帰った。
書斎にある机へと向かうと引き出しから何やら古びて焦げ茶色になった本を取り出した。
それはまさしく禁術の書。
アーサーは禁術の書に記される魔法の一つ一つに言葉を書き始めた。
(それぞれの属性に精霊の要素を足して…
精霊に願うような詠唱だとわかりやすいか…)
アーサーの実年齢は今では20代前半ほどだが、精神年齢は10代のまま。
というか不老不死の魔法を使う前からアーサーの精神年齢は少し、低かった。
歳を重ねれば精神年齢なんてもの実年齢と同じになる、がアーサーは子供の時から"勇者"と呼ばれて過ごしてきた。
いまだに日常使いをされているドラゴンや精霊、魔法がかっこよく思えるのは勇者として生きるようになっていたからなのだ。
「よし…」
強く握っていた深い黒の羽がついている羽ペンを手から離すと、息を「ふぅ」と抜いた。
魔法の説明の隣にはびっしりと言葉が書いてある。
それは厨二病くさいが、全て魔法の発動後の姿や発動中の姿の変化を想像することができる、とても的確な文だった。
「資料通りならこんな奴だが…」
魔法はイメージ。
魔法の資料が載っているものの、自分の思った魔法とそれが違っていれば、見た目だけではなく効果も変わってくる。
つまり全くの別物となってしまうのだ。
そうして新しい魔法を使ってきた歴史もあるが、詠唱によってイメージが変われば意味がないというものだ。
「これはいけるか…?」
試しにアーサーは一つの魔法をやってみることにした。
水の刃を生み出す魔法。
これは水の球を生み出す魔法の応用で刃を作ることができる。
なのにこの魔法は存在しており、しかもこの魔法は効果がとてつもなく弱いにも関わらず、使う魔力の量がとてつもないというものであり、この魔法を使った者で倒れなかったものはいないというほどだ。
基本的に魔力の量は生きてきた長さで決まってくるものだ。
不老不死の魔法を使わなかった時点では、魔力はあっても想像力がないため魔法を使うことはできないだろうが、今は歳が戻ったため単に魔力量が多いのだ。
アーサーは部屋の窓を開いて机のしたに落ちていたもう使わない鉛筆を拾って前へと突き出した。
「水の精霊よ、我が魔力に呼応しろ、ウォータースラッシュ!」
(…我ながらダサいな)
自分で書いていた時はかっこいいと思っていたもののいざ言葉として出すと恥ずかしいと感じた。
それに加えて魔法も発動しない。
他の魔法が発動する訳でもなく何も発動しないということは全く違う捉え方をしていたということ。
つまり失敗だ。
アーサーはがっかりとした顔で窓を閉めたあと鉛筆を机に置き、椅子へと寄りかかった。
その瞬間に「シュンッ」という素早い風の音と何かが切れるような音がした。
音がした方に振り向くと窓ガラスが割れていた、というよりも水で作られた刃が窓へと突き刺さっていた。
「…魔力を使った感覚は無かったはず」
失敗かと思われた魔法はしっかりとできていたのだ。
だが大量の魔力を使うならば普通は気がつくはず、というよりも全く体に疲れを感じなかった。
アーサーは不老不死の魔法を使ったといえどまだ人としての人生では短い方だ。
つまりアーサーの魔力量は他の人よりも多いということだ。
これからは魔力を気にせずにたくさんの魔法を使うことができるのだ。
そこからは研究へと没頭し、何年、何百年という時間が数時間に感じるようになり、長い時間が過ぎるようになった。




