42日目・いらない
「一緒に国王が持ってる禁術の書を盗んでほしいんだ!」
アーサーが発した言葉によってギルド内の空気は一気に悪くなった。
国王から盗む。思考回路はどうであれそんなことを考える、それほどまでにアーサーは狂ってしまったのだと3人は悲しくも知ってしまったのだ。
「あんた…何言ってるの?」
リズが信じられない、という顔でアーサーを見つめウィルもレイナも心配そうに顔を覗かせている。
「辛いのはわかるが…俺らが国王に歯向かうなんて…無理に決まっているだろ」
ウィルはやはり正論を押し通そうとした。
国の中では王が絶対、そんなこと誰でも知っている常識なのだ。
禁術の書を盗みたい理由は全員がなんとなく勘づいていた。なんせ何年もアーサーと冒険を共にしてきた仲だからだ。
「…それでも!」
「無理です。」
アーサーはそれでも無理を通そうとした。
だがそれを遮るかのようにきっぱりと断ったのはレイナだった。
レイナもアーサーの気持ちはアーサーにしかわからないものだとは思うがしっかりと状況は掴めている。
だがアーサーのために国を裏切るなど、後から自分を曲がることが嫌いなレイナには出来ないことだったのだ。
「俺も…アーサーの味方ではいたいが…それは不可能だ。」
アーサーの顔が少しずつ歪んでいくなんてお構いなしに、それに続いてウィルも断った。
「リ、リズは…?お前は一緒にやってくれるよな…?」
目を見開いてリズを見るアーサーの問いかけにリズは答えることができずに顔を背けた。
それを見たアーサーは答えを聞かずとも拒否と解釈し叫んだ。
「なんで…なんで分かってくれないんだよぉ」
「お前の気持ちはわかる。だけど」
「うるせぇ!」
ウィルがアーサーを収めようとしたが、アーサーは暴走し始めて机の端にあった花瓶を誰もいない壁へと向かって投げた。
一時的に感情を出してしまっただけで、仲間を傷つけるつもりはなかったのだ、この時は。
「いや…」
花瓶を投げたアーサーをみてそう呟いたのはレイナだった。レイナの足はガクブルと震えており、涙目になっている。
するとレイナはおぞましいものを見るかのようにアーサーをみて詠唱を始めた。
「み…炎の、精霊よ…我が声に応えよ…
ファ、ファイヤーボール」
気が動転していたとはいえその目はもう仲間を見る目ではなくなり、魔獣を見る目となっていた。
「ちょっと!レイナ!」
そんなリズの声はもう遅く、レイナの伸ばした手からは火球が浮かび、アーサー目掛けて飛ばされた。
「ア゛ァ…熱い…熱いぃぃ」
火球はアーサーの顔へと直撃した。
レイナははぁはぁと荒い息を吐いていた。
アーサーは火が消えるまでもがき、苦しみ続けたが誰1人として動けなかった。
王を裏切るような者をこのままにしても良いのかという忠誠心とこれまでの思い出がぶつかり合い、どうすれば良いかがわからなくなっていたのだ。
「そうかぁ…レイナもウィルも…リズも、もう助けてくれねぇんだなぁ」
「っちが」
「もう…お前らなんか、いらねぇわ」
リズは必死に否定しようとするが、アーサーのぐしゃぐしゃに歪められた顔で睨まれると上手く言葉が出てこなかった。
気がつけばアーサーは自分の腰にある剣を抜いていた。目にも止まらぬ速さで3人に近づくとアーサーは迷わず3人の腹部を真っ二つに切り裂いた。
レイナもウィルも言葉を発する暇もなく、即死した。
「ぁ、あーさぁ…」
リズは血が口から溢れてきて上手く喋ることができなかったが、深い傷を押さえながらなんとか言おうとした。
(いまさら何を言うんだよ。)
「だ…いぃす…」
なにかをリズは言いかけたが、少しずつ目から光は失われて行きついには喋らなくなった。
(…)
アーサーは何も考えることができなかった。
ただ今は現実を受け止めるだけ。
そうしてアーサーの足は王が住む、ノワール城へと向かっていった。




