39日目・民を守る意味
過去編はとっても分かりにくいです。
「エリザァ…ティナァ…」
何度も泣き叫び枯れた声で2人の名前を呼ぶアーサーの瞳は、光が宿っていなかった。
「俺がぁ何をしたって言うんだよ…
ただ…国民のために、戦っただけじゃねぇかよ…」
彼は勇者パーティーとして命をかけながら戦った。
だからこそ許せなかったのだ。
今までの何年間もの間、自分は民のために戦ったというのにこんな仕打ちをされるのはおかしいと。
何度名前を呼んでも返事を返してくれることのない2人を見て込み上げてくる負の感情を抑えることがもうできないのだ。
2人と男の体から流れ出ていた血液は止まり、死臭が室内に漂い始めていた。
「なぁ2人とも…俺今日も仕事に行かなきゃなんだ…誰のために…こんなことしてるんだろうな」
疲れ果て、力のない声でつぶやく言葉は独り言となっていた。
アーサーは重い体を起こしながらこの3人の死体をどうするか考えた。
(この男はともかく、エリザとティナはしっかりと葬ってやりたいな…)
この時代では人を殺しても軽蔑はされるが罪に問われることはない。
ただ勇者が人を殺したとなれば話は別だ。
(…とりあえず、リズに報告か)
リズだって大切な幼馴染が人を殺したと聞くのは良い気がしないだろう。
だがそんなことを考える暇もないほどに体は疲弊していたのだ。
「もうみんなギルドの方にいるかな…」
アーサーは重たい足を引きずりながらメンバーのいるギルドへと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あいつ遅いわね〜今日もダンジョンに潜るっていうのに!」
そんな不満を漏らすリズは集合時間になっても訪れないアーサーに怒っていた。
「まぁまぁアーサーさんも何かあったのかもしれませんよ」
それをなだめるのはいつもレイナの役割だった。
すると扉の開かれる音がしてきた。
「…すまん遅くなった」
扉を開けたのはアーサーであり、その声はいつものような力が込められていない疲弊した声だった。
「ちょっとアーサー遅いって…アンタなにその顔と服!」
「…?」
アーサーの目の下には真っ黒なクマが浮かび、いつもは整えられ清潔感が漂っている髪の毛はグシャリと歪んでいた。
そして服には赤黒く固まった血がこべりついておりアーサーもリズに指摘されるまでそれに気がついていなかった。
「どうされたんですか?」
「大丈夫か?アーサー。」
レイナとウィルが心配をするもののアーサーは黙ったままだった。
「…エリダとティナが…殺されたんだ…」
アーサーの言葉で部屋の中の空気が凍りづいた。
「えーと…エリダさんとティナさんってアーサーさんの…」
レイナの確認を取るかのような言葉でリズははっとし、口元を手で押さえて信じられないという顔でアーサーを見た。
「冗談じゃないよね?な、なんで…」
リズはエリダとティナとも面識があった。
もっと言うならば休日にティナに会いに行くために遊びに行くほどに仲が良かったのだ。
「それで…人を俺も殺してしまったんだ…」
気まずそうに言うアーサーはもはや3人の目など見ていなかった。
見れなかったのだ。
「は…?人を殺し…え?誰を?」
リズにとって受け入れられない現実をなんとか受け入れようと必死な中でそんな突然の告白に戸惑いを隠せなかった。
「俺が、家を開けていた時に…
空き巣が入って…2人を…
それで…俺はその男を…」
アーサーも放心状態となっており、言葉も途切れ聞き取りにくいほどに低い声だった。
「そんな…アーサーさんどうするんですか?
どんなことがあっても、勇者が…人を…」
いつもはおっとりのした性格で正論をぶつけてくるレイナだったが、今や戸惑いを隠せない様子で考え事をしている。
「とりあえず…今日はもうダンジョンに潜るのをやめにしないか?」
そんな空気を変えるかのようにずっと黙っていたウィルも口を開いた。
「そう…ね、アーサーも今日は休もう。
図書館でも行って心を休めてきなよ」
リズはまだ現実を受け止められない様子だった。
だがそれは全員同じであり、ウィルはまともに話し合える状態ではないと考えたため話し合いを後日に設ける事にした。
(これから…俺はどうすればいいんだ)
大切な人を失い、人を殺め、生きる希望を無くしたアーサーははぁとため息をついて図書館へと向かった。




