特殊プロジェクト『プロメテウス』
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クレムリンでの密命から数週間後。
ヴォルコフはモスクワから遠く離れた、シベリアの科学都市ノヴォシビルスク近郊にある、閉鎖された化学プラントを訪れていた。シェスタコフ将軍が手配した、地図には存在しない研究施設だ。
そこには、腹心のパーヴェルと、首席宇宙工学技師のコマロフが集められていた。
「大統領の命令は二つ。『予測を検証し、技術を解析せよ』だ」
ヴォルコフは、凍てつくような空気の中で言った。
「我々はその第二の命令に、今から着手する。プロジェクト名は『プロメテウス』。人類に早すぎる火をもたらす」
彼はスクリーンに、未来メールに添付されていたガス精製触媒の分子構造式を映し出す。
「コマロフ技師、君のチームにはこれを解析し、小規模な実証実験を行ってもらう。目的は量産ではない。この設計図が、我々の科学で再現可能な『本物』であるかどうかの最終確認だ」
コマロフは、信じがたい数式を食い入るように見つめ、ゴクリと喉を鳴らした。
「長官……もし、もしこの触媒が本物なら……我が国のガス産業は十年進歩します。いや、世界のエネルギー地図そのものが塗り替わる……」
「だからこそ、極秘裏に進めるのだ」
ヴォルコフは静かに言った。
「この火が外に漏れれば、我々は世界中の敵意に焼かれることになる。パーヴェル、セキュリティは完璧に。ここでの研究は、国家最高の機密事項とする」
だが難航すると想定された結果は、想定よりもあっけなくもたらされた。
数ヶ月後、この施設からヴォルコフの元に一本の暗号化された連絡が入る。
「プロメテウスの火は、灯りました。実験室レベルで、効率二・三倍の向上を確認」
それは、人類が未来の技術を手にした、最初の、そしてあまりにも危険な一歩だった。