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動かぬ証拠

2000年の夏が過ぎ、モスクワに秋の気配が漂い始めた10月。

ヴォルコフが後見人であるシェスタコフ将軍に協力を取り付けてから、9ヶ月が経過していた。

表向きは「新型偵察衛星開発の机上検討」として承認された極秘プロジェクトは、水面下で着実に、そして静かに進行していた。


ロスコスモスの地下にある、電子的に遮蔽された作戦室。

そこに集まっていたのはヴォルコフ、部下のパーヴェル、そして宇宙観測部長オルロフの三人だけだった。


「報告します」


パーヴェルの声は、緊張で硬くなっていた。

彼はスクリーンに二つのファイルを映し出す。


「まず一つ目。9月15日、グリニッジ標準時04時32分。メールに記載されていた座標を、未知の小天体が寸分の狂いなく通過しました」


スクリーンには、ぼんやりとした光点が黒い宇宙空間を横切る連続写真が映し出された。


「直径はおよそ30メートル。高速で移動したため、我々の事前観測がなければ、他のどの天文台もこれを捉えることはできなかったでしょう。

ハワイの観測所がこれを『発見』したのは、通過から実に72時間後のことでした。……あの未来メールの予測は、ありえない精度です」


オルロフ観測部長が唾を飲み込む音が、静かな部屋に響いた。

ヴォルコフは無言で次のファイルを促す。


「二つ目です」

パーヴェルは続けた。


「10月3日、米国東部標準時21時08分。通信衛星『ギャラクシーIV-R』のKバンドトランスポンダ7番が、予測通り機能停止。

公式発表は『原因不明の技術的障害』。しかし、我々の傍受したテレメトリデータは、メールに記載されていた通りの、特定のコンデンサのショートを裏付けています」


それは、人為的な操作が不可能な天体現象と、他国のインフラ内部で起きた極めて具体的な事故。

偶然で片付けられるものではない、二つの動かぬ証拠だった。


「……偶然ではないな」


ヴォルコフは、誰に言うでもなく呟いた。

この9ヶ月間、彼の生活は正常に戻っていた。

パーヴェルとの約束通り、酒を断ち、仕事に没頭した。

だが、心の奥底で常に燻っていた疑念と希望が、今、確信という重い現実となって目の前に突きつけられている。


「メールの信憑性は、もはや無視できる段階ではない。

 2003年の太陽嵐は、ほぼ間違いなく起きる」


ヴォルコフは立ち上がり、二人に向き直った。


「パーヴェル、オルロフ。ここまでの働きに感謝する。

これより、我々は次の段階に移行する」


彼の声には、以前の迷いは消え、冷徹な決意が宿っていた。


「シェスタコフ将軍に報告し、大統領閣下への上申を準備する。……これはもう、我々宇宙庁だけの問題ではない。

ロシアの、いや、人類全体の生存戦略の問題だ」

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