四「希望の本質」
ニューシュタイン打ち上げ成功から数ヶ月後、実現した世界平和に沸き立つ人類は一つになった社会を象徴するため、ある二つの計画を発表する。その一つである火星移住計画第一号艇『オリンピック号』の造船は、たった五年という驚異的な期間で二〇七四年に完成する。造船に携わった各国の強固な連携と技術の発達を世界中に知らしめた二十一世紀最大級の宇宙船舶になる――はずだった。出航から十ヶ月後、火星付近で四百人を乗せた船はエンジントラブルにより火災が発生し火星目前で大破してしまう。地球では宙難事故の詳細は機械の不調に気付かず使い続けたことによる人為的な過失による事故であると発表された。その四百人の火星開拓員のなかにはタイムマシン理論構築の第一人者、フィロンツも選出されており世界中がその悲劇に胸を痛めた。最悪の宙難事故、オリンピック号の悲劇から翌年、最新技術での海底調査により発覚した太平洋の海底下に存在する豊富な資源を求め、もう一つの計画である海洋開発居住区プラント『カナン』が建造される。
「僕の父はオリンピック号で死にました。民間宇宙産業から選ばれ整備長を任された父は、出立の朝に慣れない手付きで黒焦げのベーコンエッグトーストを家族全員分作ってくれました。事故の後にやって来たのは、悲しみではなく世界中からの非難でしたよ。国境を越え南に逃げて……遠い親戚の家に匿ってもらいました。近所に僕達の噂が流れ始めた頃、母が国連宇宙開発事業団からの手紙を握りしめ帰ってきました。親戚一同、海に第二の人生を求めて移り住んだんです」
話しながら落ち着きを取り戻したジェイクはレオナルドに真相について聞き直す。が、
「……すまないジェイク。話せない。宙難事故の遺族となると余計に――」
冷静に見えるその瞳は光が差し込む余地さへ与えぬ深い渦に沈み込む心を表すよう、悲しみを映し出していた。そして警備ロボットから取り上げた拳銃をレオナルドの眉間に突きつけた時、もう一度積み上げ時間をかけて馴らした感情の堰はかたちを保てないほど断ち切られた。
「お願いします。なぜ父は死んだ。父さんを返してくれよ」
不規則に吸われる息は喉に入った力が尋常でないことを物語る。汗が混ざった涙が頬を濡らし顎下に溜まる。垂れる鼻水も気に留めない彼はレオナルドに慟哭ともいえる詰問を繰り返す。手を震わしながらゆっくりと人差し指を引き金にかけると、妙に落ち着きが訪れ、周りの雑音が、波が引いていくように――聞こえなくなった。
――まるで地球の底から湧き上がっているような微かな振動が床から天井へ、部屋全体に染み込んでゆく。静かな世界に自分の激しい鼓動が聞こえ、その奥に誰かの声が徐々に重なり、世界が息づいていった。
答えようとしないレオナルドにジェイクは一息だけ吸い、人差し指に力を入れる。拳銃の引き金は、羽虫が留まるだけでも引かれてしまうはずである。
「待て待て、落ち着け。何も君の目の前にいるこの男が敵なわけじゃない」
エルンストは両手を前に突き出し中腰で構えたままゆっくりレオナルドの盾になるようジリジリと足を運ぶ。ハーマンは銃を取り上げようと慎重に後ろに回り込む。
「エルンストの言う通りだジェイク君。ここでこの薄ら禿げに風穴開けても君の心は埋まらない」
レオナルドはハーマンの光る頭頂部を睨みつけた。
「分かってます。おそらく、いえ、確実に一般公表出来ないことだと。でもお願いします。僕だってこんなことしたくないですよ。でも、それでもっ、聞かなければならないんだ」
突如、建物全体につんざくような警報が鳴り響き四人は目を見合った。そして部屋の角で小さくなる大男を見ると、腕輪の緊急事態を示す赤い点滅が見えた。
「お前、このデカブツが」レオナルドが大男に罵声を浴びせる。
「私はあなたのボディーガードだ。当たり前のことをしたんですよ」
「クソっ。拘束したってのに器用なヤツめ。エルンスト、ハーマン。俺が警備隊に誤作動だと言っておく。装置の権限はこのIDで。ジェイク、君は私と来たまえ。話はそれからだ」
「……」
警報のどさくさに紛れ銃を取り上げられ落ち着いたジェイクは下を向き、涙と鼻水を拭ぬぐう。レオナルドはその様子にどう声をかければいいか迷っていたが、ジェイクの両肩を強く持って目を合わした。
「しっかりと話すから。もちろんあの事故で全てを失った人は君だけではないことを理解して欲しい。エルンスト、ハーマンも、フィロンツ教授を慕っていた我々も心に穴が空いた。君もそう思って気持ちをおさえていたはずだ。情報を秘匿し公表に踏み切れなかった私が偉そうには言えないが、何より、あの子を守るためにも隠し通したんだ」
「あの子?」
目を真赤に腫らすジェイクはやっとレオナルドの目を見た。
*
太陽系四番目、軍神の名を冠する赤き惑星、火星(Mars)。タルシス高地。
赤い大地を覆う嵐は太陽の光を遮り粘り気のある砂埃を巻き上げ、力を増し次第に地形を変えてしまうほどに成長した。数週間後、大規模な砂嵐は止み、澄み渡る荒涼とした世界が姿を取り戻した。散らばる無数の岩石に混ざり鉄片が転がっている。その先には墜落時に空中で二つに割れ崩れた全長百二十メートル、全幅三十メートルのオリンピック号の残骸が景色に溶け込んでいた。
地平線の奥で低気圧による強風が砂を巻き上げ、空が暗くなった。再びこの地方に嵐が来る。
自然環境が引き起こす壮大な現象は無情にも惨憺たる事故の跡を消していくのである。
「マーズフロンティア南部に降り注いだオリンピック号の破片は回収が終わりましたが、本体の解体作業の進捗状況はまだ十二パーセントほどです」
「二十二世紀までには間に合わせろ」
空中に投射された軍服を着た男が揺らいでいる。
「ほとんどは埋もれる計算ですが、次の砂塵嵐の規模ですと作業の完了は見込め
ません。解体バクテリアの案は移住の際に影響が出るとして却下されました。生き残った
細胞がどこまで飛散するか分からないそうで」
現時点での火星移住計画は真相隠ぺいのため、無期限の中断を余儀なくされていた。
*
オリンピック号の悲劇の真相は驚異的な造船期間にある。平和の象徴の完成を急ぐ政府と財閥の圧力で、各企業は無茶な造船日程を組まれ、製造チームは文字通り悲鳴をあげた。完成を見据えた頃、連携と伝達ミスにより重要部品の規格サイズの誤差が発覚。企業上層部にあげられた問題報告は揉み消され、製造チームは苦渋の選択により既存パーツの再利用、修繕を施した粗悪なパーツを提供する。出航から三ヶ月後、メンテナンス時に部品の摩耗を発見したジェイクの父は交換の際に部品の規格サイズの誤差や粗悪パーツに気付き、一時帰航を進言する。
地球が見えなくなり、窓の外は夜空よりも遥かに広く、深い暗闇の宇宙。数え切れぬ星に包み込まれた一隻の巨大宇宙船オリンピック号は、人類の集大成として優雅に進み続けていた。フィロンツを含む四百人の運命はこの船の中央部にある操舵室の手前、簡素な造りの仮眠スペースでの会話に委ねられた。
「この宇宙船の整備状況は異常です。どうか帰航を」
握りしめた拳は汗で滑り、口は乾いていた。
「整備長。まるで宇宙船を乗りこなしているような口振りですが今回が初ですよね。大役を任されて、かかっているのか知りませんがここは軍人である我々にお任せください。根っからの飛行艇乗りですから」
伸びた背筋、張った胸の礼儀正しい姿勢に馬鹿にした声色は似合わない。
「とにかく、船長と話させてください。お願いします」
「ですから、船長は長旅でお疲れです。また後日に」
「でしたら、機関長に現状を――」
ドアは勢いよく閉じられ、額の汗が滑り落ち鼻翼に溜まり口に入ってきた。荒れた呼吸の合間に塩辛い汗と唾とを吐き捨てた。
軍帽を机に置き重力任せに椅子に座る。よく手に馴染むビロードの箱を開け、オリンピック号造船記念で作られた、開拓員徽章を眺める。平和の象徴は華々しく地球を発った手前、簡単には帰れない。
その後ジェイクの父は独断で地球に救難信号を送り、焼けたエンジンを逆噴射し船を止める。地球からの助けを待つ分の食料は十分にあるためこの船の全員を死なせない方法はこれしかないと考えた。しかし実際に予備食料保管庫に入れられていたものは開拓用ロボットおよそ二百体であった。二〇五〇年代の先駆けとなった火星開拓部隊は居住施設の設置、増築、農耕に成功していたため、計画本部は火星着陸からすぐ食料の確保が可能と踏んでいた。宇宙食の開発の費用も時間もなかったことも理由の一つであった。食料がない事実を知った後、出来るだけ修理し再出発したが動力の灯は火星付近で彼ら四百人の夢と共に途絶えた。
「ジェイク、君のお父様が地球へ送った救難信号で救助艦隊を組むことになったが、国連軍上層部が公にしないと決定してしまった。もっとも、まだ宇宙開拓期の初期だったから艦隊を宇宙に出すなんてリスクが大きすぎたんだ」
圧力により、各国の宇宙軍部が状況を把握しながらも艦隊編成を拒む中、まだ発足されたばかりの東和の航宙自衛隊の一人の男が国連や統合幕僚監部の決定に反発し、救助艦『春雷』は、単艦でオリンピック号へ向かった。春雷が到着した時、すでにオリンピック号はエンジンが停止した状態で火星の重力に引きずられ、船首に軌道衛星が衝突していた状態であった。船内で暴動が起きる中、春雷の存在を知った搭乗員が雪崩のように逃げ込む。
そして悲劇は悲劇を呼び寄せる。
乗り込めず、死を悟った搭乗員は軍の武装を持ち出し春雷に攻撃を仕掛けたのである。食料と希望が尽きた船内の人々は、火星に引きずられながら血をながし、鼓動が聞こえなくなった頃、船は大気圏付近のスペースデブリにより風穴を開けながら火星の赤い岩肌に燃え落ちていった。
オリンピック号のブラックボックスはマーズフロンティアの礎である先発開拓部隊の居住施設内で結成された探索隊によって回収され、解析されると、部品の不調が原因であると判明し即座に地球へ知れ渡った。後、火星基地に保管され、それ以上の情報は秘匿された。火星移住計画本部は公開された情報の削除や火消しに奔走するが無意味に終わり、全責任を部品製造を依頼された企業や工場、搭乗していた整備士や機関員に責任を押しつける形となった。
そして事故から一年後、月付近に流れ着いた一隻の脱出ポッドが発見される。その中にはコールドスリープ状態で保存されたたった一人の少女がいた。レオナルドが語る根本の事故原因と船内の行く末はその少女の証言を基に推察を交えたものである。
石原梨音当時六歳。月基地での療養時の証言。
――「フィロンツ教授が“先に行け”って乗せてくれたの。“後で行くから、待っててね”って。教授は? お母さんとお父さんにはいつ……会えますか」
石原の存在はオリンピック号の真相を知る唯一の証言人であり、それを思わしくないと感じる者達からの何かしらの陰謀に巻き込まれる可能性がある。と、それを案じた月基地の人間達は、少し前に出ていた火星開拓部隊の帰還船に乗せられた捨て子で、親探しの期間、月面基地で生活していたとする文章を不正に作成する。その時、月面基地にいた合衆国出身の女性の宇宙局員が彼女を引き取り、合衆国民としての人権を特例で取得し今に至る。
「資本家や政治家、時の権力者の本質はいつも変わらない。責任逃れ、押し付け、隠蔽。君のお父様、リオンの家族、フローは時代に殺されたんだ。まさに大世紀時代の陰に埋もれた闇……これが私が知る全てだ。私に銃を向けたこと、謝らせるつもりなんてない。むしろよく撃たなかった。どこで道を間違えたのか……君の歳に戻りたい」
ジェイクは再びうつむき、情報を整理してどうにか自分に落とし込む努力をする。
「……その女の子、今はどうしてますか」
「確か、この工科大を卒業して、宇宙局の開発部にいると聞いた。全てが闇に消えても、彼女、リオンがいる限り意思は継がれていくはずだ」
――エルンストとハーマンが地下十二階へ急ぐ途中、警報が鳴り止み装置がある厳重な部屋の前へ到着した。
「当初の計画じゃ上手くいってなかったかもな」
「ジョー・ハーマン宇宙局に舞い戻る計画は完璧だ。現にさっきの監視員はワシを見て通してくれただろ。それに最終的にはレオの協力を仰ぐつもりだったしな」
ハーマンは自分の体にケーブルを差しながら重力付与装置がある大部屋の入口をハッキングする。
「それ本当に気味悪いな。足跡は残すなよ」
「良し。最後に――緑色に光る生体認証パネルを殴り叩き割る――機械ってのは壊さないと完璧には証拠を消せない」そういう所だと呆れ、中に入り装置を起動させながら計画の確認をした。
タイムマシン学タイムトラベル理論はタイムマシンの設計図ではない。並行世界を立証する相似時空学の数値を基に相対性理論、飛越の観測力理論の観点から方程式を組み立てると現在を示す数値が負の数になることを証明したものである。もちろん理論発表後この実験を試みた学者は数多くいる。RDPAにより誰でも閲覧できる状況下にあり、実験を試みた全員がワープ技術が必須で時空の壁は瞬間的な移動ではなく出現で越えると結論付けた。が、エルンスト、ハーマンの両名は全く違う観点で試みる。それが半世紀近く前の無名の教授が残した論文であり、タイムトラベルは次元の壁を越えるのではなくこの次元自体の時間を操作することで可能にすると考える根拠である。
「上手くいくかな」ハーマンがいつもは自信満々なくせに少し感傷的になってるかと思い顔を見たが、実験前に見せるいつもの眼差しを見て作業を続ける。
「当たり前だ……俺と、お前だぞ」
はにかむ二人が昔を思い出し笑っていると、煙が立つパネルを見て声を荒げるレオナルドとうつむくジェイクがやって来た。
「……完璧だ。理論を過去に送るぞ。目標は私のノートパソコン、あれはハーマンが魔改造したから当時の記憶が正しければ化け物レベルの処理能力があるはずだ」
「他の誰かの手元に渡る可能性はないのか」ハーマンの胸倉を掴んだままレオナルドが聞く。
「レオ、一応誤解を解いておくが理論を自分のものにしようなんて思っちゃいない。それに送るのは論文ではない。この私じきじきに飛ぶ」
数十年も論文を読み明かしたエルンストは理論の全てが頭に入っていた。
人間の記憶データの移行は電脳や人工脳などの機械医療技術の発達で容易いものとなったが問題は圧縮したデータがニューロンに伝わった際に起きる拒絶反応だった。簡単に言えば異なる血液型が混ざらないように体の構造上の問題、雪の結晶や雲の模様のように同じ形が一つとしてないことであるが、ある程度の法則や規則正しい動きの発見で希望は見えてきた。ただしここでは移行ではない。過去に遡った現代のデータがどう解凍されるか分からないがネットワークは存在するため、ある種の人工知能として彷徨い過去の自身のパソコンへ潜る計画だ。
「覚えてるか、私が旅行で論文を見せたこと。あの記憶が今日変わる……そういえばあれも突然……いやだとしたらタケヤマ教授も。だが理論発表よりも前だぞ」
「なんだ。どういうことだ。ハーマン説明してくれ」
小声で喋りだしたエルンストを横目にハーマンに問いかける。
「このボタンを押せば、全てが分かるってことだよ。さあみんな下がって。ジェイク君、君が押してくれないか」
「僕で大丈夫ですか」
「君がいなかったらここまで来られなかった。実験が成功したらまたしっかりと話そう。特性の瓶ビールと一緒にな」
ボタンを押すと装置が起動し始める。圧縮された空気が噴き出しタービンが回転する。散りばめられたメーターが一気に赤を振り切り、シャフトの回転でガスがピストンに押し出された。コントロールパネルの周り以外は立っていられないほどの振動が起こり稲光が走る。温まった装置の放熱が始まる。徐々に振動が止むとつんざくような爆音が鳴り圧力メーターの数値が肉眼では捉えきれない速度で跳ねあがると穏やかで力強い唸りに変わった。
「操作はお手のものだなハーマン。ちなみに君を嵌めたのはビフという奴だった。知ってるか」
そう、レオナルドが聞くと、ハーマンは少し考えた後に血管が浮き出るほど顔を赤くして目を血走らせた。
「あああ、あの刈り上げ野郎、許さん」
「安心しろ、今は中東でドローン工場の下っ端だ」
形成された球体の粒子の結合内が真空となり光子の運動が安定する。ここから外部の空間を拡張させ真空の球体の内部に圧力がかかると光の軌道が重力によって曲がり始め螺旋を描きながら中心に沈む。逃げ場を失った光は重力場の中を回り全ての光子は一ヶ所に集まり己が発する光さえ飲み込み、暗闇に輝く。エルンストの記憶データが入った原子が射出され一瞬にして重力圏に捉えられた。
「この原子には時間が流れて無いですよね。分からないじゃないですか。完成するのか、完成したのか、完成してるのか」
「そこで私が見せた移動間についての論文だよ。いま光子には時間が流れていないが、その周りを回っている原子は時間が流れている。そして第二段階、もう終わる。さあ――時間旅行へ行こう」
原子は光子を公転し時間を超越する。追い越した原子は光よりも早く進み、光よりも早く退く。
人類の運命を背負った記憶は理を越え、謀略の渦中で希望の光を導く道しるべとなるか。それは一瞬、厳密には時間が経っていない間、歪む空間に文明の青い光が宿った。
フジツボで覆われた巨大な柱に高波がぶつかる。その柱が支えるのは大世紀時代を迎えた人類がさらに飛翔するための片翼。惑星の七割を占める大海原に不自然に建設された施設は自然とは正反対の人工物で、まさに生物界の頂点に立つ人類が創り上げたに相応しい、自然の摂理を叩き壊す代物であった。生活苦にあえぐ人々は半永久的な仕事と一定の生活水準を兼ね備えた、このカナンへ移り住んだ。しかし発展途上国の生活困窮者が多く移り住んだその施設は世界各国の人々からは自力で生活することがなく先進国の支援を受けながら楽に生きていると言われ、塩まみれの浮標と揶揄された。そこに住む一人の少年は父の死と敵となってしまった世界に心を蝕まれ、暗闇に身を落としていた。ある日、真暗の部屋の中で眩しく映るモニターに一人の男を見た。その男はフィロンツの良き友であり時代の大綱を引く学者であった。
「第四回を迎えるタイムマシン理論総合学会は二年前のF・フィロンツ氏の訃報により開催が延期されるかに思われましたが、学会に初参加を予定しておりましたエルンスト・S・ノーバート氏が開催を強行。彼はここで人類の希望が絶たれる事こそが悲しい出来事であると、自身の盟友でありました・フィロンツ氏の死を絶対に無駄にしないと、我々に涙を溜めて熱く語ってくださいました」
発生と結果は相関関係にあり、原因と結果は因果関係にある。事象には必ず要因があり、これをfactor(以下f)とする。本章では過去、未来にを加え、現在変数の変動を求める。時空曲線が示した螺旋構造(Ⅴ空間域グラフ参照)は複素空間領域を経由し、再び実時間領域、つまり四次元から三次元を繋ぐループする可能性幅の存在がタイムトラベルを可能にする前兆構造であることを推論した。ここでは背理法を用いてタイムトラベルが可能であることを証明する。
――タイムマシン学タイムトラベル理論『Ⅵ タイムトラベル理論』