二「夢の道標」
湯気が立つスープを口元に持っていくと、想像以上の熱さに驚き少しこぼした。それを心配する素振りもせず話を続けるジェイクに眉をひそめたが、若い頃のフィロンツとの話し合いを思い出し、少し口角が上がった。
「理論の時間の捉え方は因果論的な……僕の仮説間違ってますか?」
「いや、違うんだ。少し昔を思い出してな」
食事を終え、書斎に戻った二人は散らかった部屋を見て顔を見合わせた。すぐに片付けをし始めたジェイクにそのままでいいと言いながら嫌々整理をするエルンストは、本の間に挟まった色褪せた写真プリントを見つけた。
「なんですかそれ」
田舎旅行の際にコテージで見つけたほこりまみれのフィルムカメラで撮った仲間達の若い姿を見て、酒が回っていることもあり、少し涙ぐんだ。
「え、これが教授……何年前ですか?」
「四十数年前だ」
ジェイクが片した書斎の椅子に深く座り、煙草に火をつけてゆっくりと話始める。自考家電が流す雰囲気のある音楽についさっきまで学者をしていた二人は研究者の火を弱め、思い出話に更けた。エルンストが話すのは、人生で一番楽しかった学生時代の仲間と歩んだ研究の日々。時代を作った英雄、F・フィロンツがまだ雛であった頃の話であった。
四六年前。郊外の山道で大学生の七人組が国境を越え車で片道二時間の旅行に出かけていたが目的地手前でトラブルに見舞われていた。
《目的地まであと五キロメートル道なりです》
「だからコイツで大丈夫かって聞いたんだ。いま時ガソリン車なんてよお。重くて話にならん、中のビール全部捨てろ」
「コテージに着いたら何飲むんだよ。便所の水でも飲むってか?」
レオナルドが文句を言う男達に食い下がると、
「着いたら、だって? このまま無事に着くと思ってるのか。この車が黄金の馬車に様変わりすれば、セーヌ川の水だってワインみたく飲み干してやるよ」
エルンストが脇汗を濃くしながら吐き捨てた。
旅行の発案者のレオナルドが親戚から借りてきた時代に似合わない高燃費エンジンの自動走行車に、当初は慣れない大きな振動とガソリンの匂いに胸が高鳴った七人だったが、興奮冷めやまぬ内に背の高い木々に囲まれた長い一本道で汗だくになりながら言い争っていた。
「ウォッカが全部抜けちまった。もうたくさんだ」
「ガソリン切れなんて、間抜けにもほどがある。叔父さんに言われなかったのか」
ハーマンの質問に日陰で化粧直しをする女達も耳を傾けた。
――「よくこっちまで来たなあ。車で旅行、俺も昔はよくやったもんだ。当時の男共はみんなオープンカーを……おい、聞いてるか?」
「ん。ああ聞いてるよ。充電いらずなんだろ。すごいや」排気口に指を入れ、黒ずんだ人差し指の匂いを嗅いだ。
「充電はいらない、というか出来ない。ガソリンだからな」
「すげえ。ありがとうございますジョン叔父さん」
「言ってた、はず。満タンだと思ってた」全員がレオナルドのうつむいた表情を見て呆れ、力が抜ける。車は斜面上で後方へ滑り、彼らは焦って力を入れなおした。取り敢えず、坂の上まで行くとそこからはなだらかな下り道だと言うナビゲーションシステムに従い、もうひと踏ん張りした。
やっとの思いで到着した古びたガソリンスタンドで、杖を着いたいまにもこと切れそうな老人が給油方法を教えてくれた。
「この国でガソリン車製造が廃止になってもう十年か……ここら辺の年寄り共は車しか楽しみが無いってのにおもちゃみたいな車にはいまさら乗れねえのさ」
「最近は地下開発も盛んですからね、これからの移動はドローンになっちゃいますよ」
「時代に追いつけないジジババは地上に置いてけぼりだあ」
老人は乾いた声でカカカと笑い飛ばし、レオナルドも笑った。
「このイかした車も古いもんだがハンドルは無いみたいだな。ワシらの世代は車ってのは自分で動かすモンなんだぜ」
エルンストが隅で煙草を吸っていると、ガソリンスタンドに併設されてある雑貨屋でインスタントコーヒーを淹れてきた彼女は、家から持ってきたのだろうか、何度も読み返した跡のあるヨレヨレの雑誌を読みながらこちらへ歩いてきた。アペニン山脈から下ってきたやわらかい風が青々しい木の葉を巻き上げた。なびく髪の毛に視界が遮られ、少し上を向いて顔を振る彼女は大人びた表情を見せた。
「レオの奴、爺さんと盛り上がってんな」エルンストが小さな声で呟く。
「……ん? ごめん。何か言った?」
「それ洞窟? そーゆーの興味あんだ。数式だけがあたしの味方。みたいな感じかと思ってた」
レオナルドがやっとの思いで旅行に誘った彼女は合衆国出身のユウミ・アーレント、見ていた雑誌は科学雑誌だろうと決め付けていたので驚いた。
「子供の頃から好きなの。いつか海底洞窟にいってみたい」
「じゃあ、青の洞窟にはもう?」
「いいえ。せっかくこの国に来ているのだからどこかで絶対行く」
少女のような目つきに自然とこちらも笑みがこぼれた。二本目の煙草に火を点けようかと取り出すと丁度車の準備が整い、対向車が一台もやって来ない緑豊かなこの道に銀色の車が静かに走り出した。
「もし、タイムマシンがあったらどうする?」
一人が話題を振ると全員がそれぞれ一斉に喋りだした。
「帝国時代の英雄に会いに行くかな」「未来に行くでしょ。研究成果持ち帰って私のものにする」「ねえ。エルンストは未来に行く? 過去?」
「使わないな」提出期限が迫っている課題を保存し、ノートパソコンを閉じた。瓶ビールを渡され渋々受け取り、開けると炭酸が噴き出た。
「誰が誘ったんだよコイツ。旅行だぞ。課題なんかやるな」
「あのなあ。誰がこの田舎町に来るんだよ」
漏れたビールがお気に入りの青いジーンズに染みないよう、急いで拭きながら文句を言う。
「酒飲みながら、世界をひっくり返す計画を立てにきたんだろ。誰かにアイデアを盗まれないように、はるばるここまで来た。天才二人を従えるこのレオナルド・アルカ様が新時代を作るんだ。なあフロー」
「世界?」フィロンツは四本目の瓶ビールを片手に紅潮し、とろけた表情で言う。
「合衆国の新星ユウミ・アーレントさんはどうお考えで」
今回の旅行の大失態をウォッカで忘れたレオナルドが聞いた。
「やめてよ恥ずかしい。私は海底二万マイルを映画館でみたい。まあひっくり返すとしたら、まずはタイムトラベルの理論を構築することね」
空想にふけ、盛り上がる車内でエルンストだけは冷静だったが、アルコールで徐々に上がる体温と鼓動を実感し自分の中だけで留めておこうとしていた事を話すことにした。
「面白いものがあるんだ。ひっくり返すには少し出遅れたらしい、この前急に届いた論文なんだけど」
「面白くなってきたぞ。おいフロー、起きろよ」
六人を乗せたボロ車は自考制御システムに従い田舎町西の森の中にあるコテージへ向かった。彼らを止める者などいない。夢を見て、語る。儚くも確かにあったあの日々は今日までずっと、どこまでも続いている。
――「それであいつ、数値入力を間違えたままシミュレーションを始めて、三日後に出たのは顔が三つの牛だった。あの時は見てた全員が腹かかえて笑った。生物学科の連中が戻ってくる前にデータ消さないといけないのに、フィロンツはその牛をかわいいと言いやがって、自分のパソコンにデータを移した。そのせいでイタズラがばれて生物学の教授に大目玉くらったんだ」
「あの偉大なフィロンツ教授からは想像がつきませんね」
勧められたビールを普段は飲まないはずが断りきれず、頬を少し赤くし答えた。
「そのあと、泊まり込みで研究してた時だ。特性珈琲のせいで夜中に目が覚めちまってシャワーでも浴びようかと思ってたらフィロンツがパソコンに向かってぶつぶつ喋ってた。だからそっと覗いたんだ。あいつ、何してたと思う?」
「その頃からすでにタイムマシン理論の論文を?」
「いいや。それが、例の牛に喋りかけてたんだ。しかも名前をつけてやがった。カウベロス、だってよ」
口をいっぱいに広げて大声で笑いながら盛大に咽て、涙目で息を整えた。残ったビールを流し込み机に置いた写真を持ち上げた。
「若いってのはいいな。出来るものなら戻りたいよ」
遠くをみつめる教授にはもう少年の眼差しは無くなっていた。
「戻りましょうよ。人類にはもうすぐ出来るではないですか。タイムマシンが」
間接照明だけが照らしていた部屋の中に外の明かりが異様に入り込み、窓からの隙間風が押し上げたカーテンの裏に隠れたエルンストの影を濃く見せた。
「ダメだ、ダメなんだよジェイク。造ってはならない。大世紀時代はこのままだと人類史最悪の悲劇を引き起こすことになる。タイムマシン、時間の制御なんてのは科学を超えた代物だよ」
エルンストは窓を力強く閉めた。
「だから教授は理論を否定なさっているのですか」
窓がガタガタと音を立て、まるで風が中に入れろと殴りつけているようだった。
「否定なんてしてない。あいつが成した何世紀にも渡って受け継がれる偉業を、否定する訳がない。私が否定したいのはこの世界が行き着いてしまう場所。今回、いやずっと前からそうなのかもしれないな、いま権力者が追い求めるのはタイムマシンを踏み台に完成させようとしているワープ技術だ」
「しかしワープ技術がなければ、タイムトラベルは不可能ではないですか」
エルンストは立ち上がって外を見た。
「鉄ではなくプラスチック、プラスチックではなく再生樹脂、再生樹脂ではなく生成ライトメタル。時代が進むにつれて人は利便性が高く加工しやすいものを欲する、いずれワープだって違うものへ変化する。しかしワープが完成して見える未来はあるか。争いと血の流れる、どす黒い未来だ。失敗から学んでいくことこそが進化する生物の特権だろう。だがその失敗で全ての根源が一息で吹かれてしまうのであれば、いま食い止めるべきではないか」
窓に薄く反射するジェイクは拳を固く握りしめていた。
「科学は人のために存在すると? 力を借りているに過ぎない。何故なら科学は私達より遥か前に存在している。宇宙の誕生と同時にな。それよりも前かもしれない」
ジェイクはエルンストの言葉に違和感を感じつつも否定できない自分がいた。科学を夢見たあの日が脳裏にフラッシュライトのようによぎった。そして、エルンストは再び話し続ける。
「それを私達が利用し、あまつさえ宇宙を掌握しようと? なんとおこがましい。この時代は必ず過ちを犯す……ワープ技術が完成し、君の愛する人の頭の上に核弾頭が突如現れたらどうする」
愛する人の顔が焼けただれていく想像をして身震いすると、外を見ていたエルンストは振り返ってこちらを向き、一歩、また一歩と近づいてくる。
「ワープは……ワープは広大な宇宙のどこかに存在する豊富な資源を求め、効率化を図る先進的な技術ですよ。私利私欲に使うための科学ではない。はず――」
ジェイクは抗うよう必死に言葉を吐くが身の回りの世の中の動き方を考えるとどうしても確信が持てない。
「ではなぜ、平和のための会合に、軍人が参加していた。タイムマシンを求めるふりしてワープを欲しがってる。あの場にいた全員が」
「……それは必要だからであって」
シズカが部屋に入ってきて二人にココアを持ってきた。状態スキャナーが作動し彼女の目は二人を落ち着かせるために青と緑に一定の間隔を開け、点滅していた。
「いいか、人類は宇宙へ進出し新しい時代を迎えた。だがさっき君が言ったようなほかの惑星に資源を求めるのは現実的でないと、そう思わないか。その非現実的な企みを、タイムマシンを理由に無理矢理進めてる。資本家達が求めてるものが嫌でも想像がついてこないか」
煙草を吸うためにもう一度開けた窓から外の風が入ってきた。カーテンが高く舞い上がり、部屋中の紙が飛ばされる。空気が通過する気味の悪い音が頭の中に響き、速くなった鼓動が体の内側から聞こえる。
「どうするんですか。企みをどうやって」
「――タイムトラベルしてみるしかないだろうな」
乱雑に置かれた数十冊の本が、吹き荒れる風により一斉にページがめくられた。
「言ってること滅茶苦茶じゃないか。結局ワープが必要で――」エルンストがジェイクの目の前に開いたのは、学会で出ていたあの論文。
「トーワの教授が書いたこの論文は、ワープ理論の論文の時間解釈をより紐解き、私達が観測する時間とその物質に流れている時間が違うことについて書いてある。そしてそれには次元を超えた力が働いていると。そう、まさに君が引っかかっていることについてだ。学会ではすぐに否定されて消されてしまったから、ここでしっかりと見るといい。私はこの理論を使って、ワープを必要としないタイムトラベル実験をするつもりだよ」
論文を夢中になって読むジェイクを横目に、部屋の外から見守るシズカにウィンクすると彼女は目の色を元の白に戻しシンクに残った洗い物を片付け始めた。
一晩中話し合った二人は家から少し歩き、ジェイクの彼女の行きつけだというカフェへ朝食をとりに向かった。オーロラソースに赤ワインビネガーを混ぜて少し鼻に抜ける辛さが特徴のソースを塗ったこの店一番人気のフィッシュサンドをほおばりながら、生温かい風を浴びる二人の横を笑顔の子供が走り抜け、溶けかけの五段アイスをこぼさないように気遣う父親が追いかけていく。
「あの論文、四五年のものなんですか。一体……」
手に力が入り、少し潰れたサンドウィッチからソースが垂れた。
「私ももちろん考えたさ。タケヤマとは一体何者なのかとな。しかしその論文を出してから結果を残してなくて、除籍され晩年は海洋開発居住区プラントで亡くなっている」
「そうですか、残念です。移動間というものがワープ原理を基盤とした考え方なので捉え方が難しいですね」
「そうだな、だが不確定性原理や相対性理論については君の畑だろう?」
「専門とは行きませんが確かにそうです……ですが正直、『観測力理論』のせいでごちゃごちゃですよ。『ヒエツ』は厄介な発見をしてくれましたよ」
*
東和のスーパーコンピュータ飛越が人類の限界と謳われる由縁は多層連結合同演算と呼ばれる特殊な処理方法にあった。
「未だにその処理方法、よくわかってないんですけど」
「分かりやすく言うと、数式が一個宙に浮いているとするだろ?」
ジェイクは首を短くし眉間にしわを寄せた。
「その数式を数式ではなく、文字列と認識する。そうするとその文字を使って他の数式を作る。またその数式を文字列と認識して――」
飛越の計算速度に疑問を持った南アジアのICT大国であるシンド共和国の大学生が調査したところ、計算結果に要した時間と処理速度が一致しなかった。一秒間に処理できる数を越えていたのである。それはこれまでのコンピュータの処理能力を覆す結果になるため、公にはしなかったがフィロンツが設立したRDPAにより徐々に明らかとなった。そしてその飛越が送信した光の逆行はとある環境下で時間を超越した機械の、データの中でのみ観測できる事象であった。
*
二〇二三年、ボイジャー一号から〇と一のみの謎のデータが送られてきていることが判明した。運用チームは他のシステムとの連携が上手くとれていない事による障害と結論づけたが、それが飛越にも起こる。当初、その前例から重く受け止めていなかったがその後突如として光の逆行と分類づけたデータを送ってきた。東和の宇宙局は原因究明を急ぎ、それは宇宙の膨張と重力の歪みによって発生する空間に起きるものであったことが判明しその空間は空間狭と呼称される。時間が進むのにもかかわらず物体は進むことが出来ない、つまり空間と物体に流れる時間が異なることで、そこから観測する事象は時間が巻き戻っているように見える事が確認され、一般相対性理論における重力問題に量子力学が加わることで、特定の重力場でウラシマ効果に似た現象が起きることを立証した。限定された場所で観測出来る現象を説明する、観測力理論。そして空間狭の存在で宇宙カーテン状仮説が唱えられる。これらの現象は人間の眼では観測できず実感すら出来ない。
「タイムマシン理論に、観測力理論、相似時空学、宇宙カーテン状仮説、それに重力付与装置。まさに大世紀時代ですね」
天井板に無数に敷き詰められた太陽モデルに改良された強力LEDライトの擬似太陽光が二人の頭上を照らす中、朝食を食べ終えた後二人はエルンストの知り合いに会いに地下鉄に乗り地上へ向かう。
「いつになったら地下鉄は治安がよくなるんですかね。ドローンでいいじゃないですか」
「さあな。私も乗りたくない。言っただろ電脳じゃないんだ」
有人ドローン機への搭乗は他の公共交通機関とは異なり神経ハードウェアとの連携が必要であり、搭乗の際はドローン機の簡易システムと同期され行動が制限される。過去に発生したドローンハイジャック事件の再発防止のためである。
「あれ冗談かと。来る前はどうしてたんですか」
「あっちはこの国ほど機械融合が進んでない。人権派が騒いでた時はコロッセオの地下も掘るのかって地元民と政府の対立で忙しかったよ」
人工知能技術が進み、日常に機械人形が馴染み始めた頃、世界では電気信号社会派を名乗る人権派が「人間も脳内の電気信号によって体を動かしている。機械も同じであることから権利が発生する」と人工知能の権利を主張するとそれが徐々に合衆国全体に広がり社会現象となった。人工知能の汎用化を浸透させるため、電化製品に搭載された規格をそのまま電脳へ移植させたせいで時間を掛けゆっくり洗脳された人間によるものであることが発覚した。その後、人類社会を阻害する可能性があるとして、ある種の反乱は秘密裏に抹消された。詳細を知らない国民には、社会に対する有意義な人権運動として「Rights UP運動」と称され、いまでは知能を制限したものが普及しているが、また反乱が起きるのではとの都市伝説が巷で囁かれている。
地上へ出ると小汚い町の中心部にある裏路地のビルの一室に着いた。
「お、やっとご対面だな。シズカは順調かな」
古びた機械があちらこちらに転がる部屋の奥にある、ビニールカーテンを開けると、埃が舞う。カビの匂いが充満する中、男が椅子に座ったままこちらを向き、後頭部に繋がったケーブルを気にしながら立ち上がった。
「ああ、もちろん。あの厚化粧のエリーゼ先生より人の気持ちが分かるよ」
二人がハグすると色褪せた白衣についた煤が舞った。咽ながら手を差し出すジェイクに笑顔で答えるその男はエルンストの学生時代の仲間であるジョー・ハーマン。理論完成から三十一年、ついに人類初となるタイムトラベル実用化に向けた話し合いが始まった。
あの日、少年はあの子が映画を眺める横顔を見たいと思った。そのためなら、車でも宇宙船でも飛ばし、タイムマシンすらも作れると信じていた。しかし現実は科学と政治、戦争と平和が無慈悲に絡み合い不確実の中で揺れ動いていた。
本文は自然界のヒトが概念として捉える、また感じ取ることができる『時間』を人類起源以前より存在するもの、即ち絶対的時計の存在を示唆するものである。
しかしそれを特殊相対性理論の観点から、『時間』の矛盾を【物】【人】【移動】から紐解き、時間と空間、量子ひも理論の融合を目指す量子重力理論の議論に関して斬新な切り口を提示し、全く新しい観点でこのメカニズムを証明する。
また本文は過去、提唱された〈感覚的瞬間移動の概念〉に起因するものであり、その理論を多角的な視点から再構築したものである。
――『移動間に於ける観測的時間解釈の乖離性と復元力』大東大和国立理科大学 武山