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王子

 ついに王子と会う日。

 隣国の王子と会う前に王に自分の息子に会ってほしいと言われてチェーロは再び呼び出された。


「初めまして、チェーロ・アーランと申します」


 チェーロは王子に会うのならと、またきらびやかなドレスを着せられた。あまり無理はしないでほしいというのが彼女の本音ではあるのだが、今回はソルにも装飾をつけられた。

 彼はチェーロのことを妹のように可愛がっているのだ。

 彼女もそのことはまんざらでもないようでされるがままにしてもらった。

 そのため更に動きづらくなってしまったのだが、自分が止めなかったからだと少し反省している。


「僕はクラウ」


 王子はそれだけ言ってにこりともしない。

 王子の容姿は美形と言われそうな整った顔つき黒色の艷やかな髪に、細めていても分かる紫色のアメジストのような瞳。


(見れば見るほど似ているなあ。あの戦闘狂に......抗争があった時に迷わず突っ込んでいったあの人に。ソルさんもだけど俺の知っている人に似ているのってこの世界に何人もいるのだろうか。まあ、元の世界でもなんか世界には自分に似ている人が少なくないとかなんとか……)


  チェーロはそんなことを考えていた。

 見た時から知り合いに似ているとずっと思っていた。


「ではあとは二人で話すのだぞ」


  そう言って王……あくまで一人の男の父親として同席していた者が席を外した。

 そして二人となった。

 しかし、どちらも口を開かない。


(こういう場合が一番困るのだがな。大体急に二人にされて何を話せっていうのだか……)


 チェーロが困っていると


「ねえ」


 たった二言クラウが喋った。


「はい、なんでしょうか?」


  チェーロは少し驚いたがその様子を顔には出さず応えた。


「なんでこんなことになってるわけ?」

「そうですね、私が会ってみたいと言ったからですね」

「だから、僕はその理由を聞いているんだ。ただせさえあの子がいなくてイライラしてるってのに……」


 クラウは腕組みをして苛立っている。

 自分の探している者が見つけられなくて、チェーロと話す時間も惜しいのだ。


「あの、そのことで一つ質問があるのですが……」

「なに。一つだけなら聞いてあげるけど」

「その人、名前が空で髪の毛がツンツンの人じゃないですか?」

「は??」


  意表をつかれたようでクラウが目を丸くする。


「なんで君がそんなこと言うわけ??確かに僕が探しているのは空で、チワワみたいな子だ。弱く見えるのに覚悟を決めた時には強い。そんな子だった」


 続けて言った。

 疑問を抱いたままではあるが、チェーロの質問には答えた。

 その答えを聞き彼女は確信を得た。


(やっぱりあの人だ。俺の知っている人だ......)


 そう思い


「あなたは自由気ままで、俺の手に負えない人でした。でも、そんなあなたが組にいてくれたことが俺にとっては何より嬉しかったんですよ」


 チェーロは隠さず自分の伝えたいことを口にした。

 チェーロとしてでなく田宮空としての言葉。

 その言葉を聞きクラウは俯いた。


「そ、ら?僕の知ってる空......」


 俯いたまま彼は呟く。

 信じられないといった様子だ。

 今まで探してきた人物が姿を変えて自分の目の前にいる。


「あなたが俺のこと名前で呼ぶとかいつぶりですか......って本当にいつぶり?泣きそうになってるとか俺の記憶にはないですが?」


 記憶を辿っても名前を呼ばれたことと彼が泣いていた記憶が出てこず、チェーロも困惑している。

 それほど、チェーロに会えたことが彼にとって衝撃的なことなのだ。


「うるさい。というか、君なんで女の子になってるわけ?しかも聖女って......」


 先程までとは違いクラウは笑いそうになっている。


「こっちだってこの状況分かんないんですからね!!」


 チェーロは思いっきりツッコミをした。

 実際自分がなぜ女に産まれているのかも、聖女という存在になっているのかも彼女は全て知らないのだ。

 その上、自分の知っている人間までこの世界で産まれているということも不思議なものである。


「そのツッコミはまさしくチワワだね」

「それで判断しないでくださいよ!というかあなたこそ王子ってなんなんですか王子って!」


 戦闘狂だった時の姿を覚えているため、その肩書きは似合わない。大人しくしていられるような性格ではない。

 チェーロにとってのクラウはそういった印象なのだ。


「僕だって知らないよ。王子とか言われるせいで婚約者候補とかも来て迷惑だったし……」


  クラウはため息をつき遠い目をしている。

 ただ一人がいると言っているにもかかわらず、婚約者になりたいという者は大勢いた。

 地位を手にしたいという者や、美しさにつられてくる者。様々な目的で彼に近づいてくる者ばかりだった。


「はは…大変でしたね。って、そういえばクラウさんがずっとただ一人探してたのって…」

「さっき自分で聞いたでしょ。君だよ」

「や、やっぱり俺なんですか?」


  まっすぐ見つめてくるその紫色の瞳にチェーロは吸い込まれそうになる。

 その目で自分のことをずっと探していたと言うのだ。


(前も今も変わらず美形だからなんかドキドキする……この人にそんな感情持ちたくないのに)


「だってまだ勝敗ついてないし」

「それのために、ですか?」

「それ以外に何があるのさ」


  約束していたチェーロとの勝負をまだしていないから。たったそれだけのためにクラウは彼女を探し続けた。


(あー…この人はやっぱり変わらない。戦うことが好きで、自由気ままで、時々俺の支えになることを言ってくる。本当に、変わらないな)


「いえ、探してくださってありがとうございます。こんな年下になってしまいましたけどね…」

「君がそんなに小さくなるとはね。チワワ感増したんじゃない?」

「うるさいですよ!」


 こんな会話も楽しいと思いながら、二人は久しぶりの再会を懐かしみ話を続けのだった。

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