変化
「よっし、みんなの話も聞けたことだし......やりますか!」
チェーロは立ち上がった。
彼女は話を聞きながら休んでいた。
もう大丈夫だと思ったから立ち上がったのである。
「何をやるんだい?」
「そんなの決まってるじゃないですか。修行ですよ修行。私は見ての通り幼く筋肉も少ないですからね。今まで体作りもしてましたけどきっと足りないんで。一からまたレノにお願いしようかなって」
「お前からそんなこと言うようになるとはな……きついの嫌だって言ってた頃が懐かしいんだぞ」
「それは前の話でしょ?今は違うんだよ」
チェーロは笑う。
前と今は違うのだと。変わらない部分ももちろんある。けれど、変わるとこだってある。
それが彼女が修行をしたいとそう思うようになったきっかけ。
(私だってこうなるとは思ってなかった。前の記憶があるからって今は戦いに巻き込まれることもないだろうからいいかなって思うこともあった。けれど、ソルさんのところに通っていた時点で鍛える気はあったのだ。そして、私が私であるためにも強くならないといけないと思った。だから私はまた強くなる。何かがあったとしてもみんなを守れるようになりたいから)
自分自身でも分からなかった変化。だが、それが悪いことだとはみじんも思っていない。彼女の中で変わっていくものと変わらないものがある。それは自覚しているものであり、彼女もそれを楽しんでいるのだ。
「私は強くなりたい。もうこぼしたくないんだ。なにもこぼしたくない。自分に抱えられるもの全部抱えていたい。手から、腕から、全部零れ落ちていかないようにしたい。『俺』が後悔したことはいっぱいあるから、もう取りこぼしたくない。つかめるもの上限いっぱいまでつかんでみせるよ。それが、私がしたいことだからね」
「チェーロ、一つだけ間違ってるぜ!チェーロだけじゃねえんだから、オレたちにも抱えさせてくれよ!だってオレらみんなチェーロが大事なんだからよ」
「てめ、先に言いやがって!レインに先に言われたのは癪ですけど俺たちもいますからね。一人で抱えようとしないで、オレたちにも分けてください。そうすることであなたがこぼしたくないもの全部抱えましょう。困ったときには相談!これもあなたが言ったものでしたよ」
チェーロの右手と左手を片方ずつ握るストームとチェーロ。
絶対に一人にはしない。それが彼らの決意。
「そっかあ。私一人じゃないんだよねえ。最初は離れる気だったのに、今では離せないぐらいに愛おしくて......前もこんな感情だったかもしれないな。『俺』が組長になるって決めた時。みんなのことを離したくなかったんだ。巻き込むって分かっていたというのに、どうしようもなく離したくないという気持ちが強かったんだ。逃げた時だって本当は捕まえてほしかった。まあ、そんなこと言わなくて捕まえてくれたわけだけど」
「君がどこに逃げたとしても捕まえにはいくよ。こんなに面白い小動物他に知らないからね」
「小動物って......」
「君は小動物でしょ。というかチワワ?普段は弱いくせに戦いになると強くなる」
「別に戦いになっても強くはならないですよ。ただみんなを守りたいだけです」
「ほら、その目。覚悟を決めている時の君の目が僕は好きなんだ」
クラウはそう言って微笑む。クラウは強い者が好きなのだ。そのため、チェーロがどこにいたとしても絶対に見つけ出す。
「私もチェーロさんのまっすぐさが前から好きでしたよ。レノさんもでしょう?」
「あーまあへこたれないとこは評価してたんだぞ」
「みんなして私を照れさす気なのかな?あんまり好きとか言われると照れる......」
チェーロの顔は真っ赤に染まりかけている。
彼女は褒められることに慣れていない。素直でない人間が多かったため、前ではあまり言われることがなかった言葉まで伝えられているのだ。
「素直になりすぎているというのも困るねえ」
「これも変化ですから」
「でも変わらないものもあるよね」
「なんですか?」
「ん?私がみんなのこと大事って思う気持ち?」
そう言ってチェーロはにっこりと笑うのだった。




