青と赤
「そうだ、聞きたいことがあってさ。みんなっていつ記憶戻ったの?いや、ほらみんな年齢もばらばらだしなんか今更なんだけど気になっちゃって。あ、別に言いたくないならいいよ」
チェーロこの際だからなんでも聞いてみようと質問をする。
ずっと気になっていたのだ。どうして記憶があるのか、記憶をいつ思い出したのかも。彼女はそれを知りたいと思っていた。
(レノには最近会ったばかりで聞いていなかったからな。せっかくだから聞いてみたい。それでいうとクラウの話も聞いていなかったような気がする。レインとストームからはもう聞いたんだったかな。どっちだったとしても、別に強要する気はない。ただ気になっただけなのだから)
「では、俺から……といっても一度話をしたかもしれませんが……」
「いいから、もう一度聞かせてくれないかな?」
「俺の記憶が戻ったきっかけはあなたに負けたからです。あなたに負けたことで、前であなたと似たような出来事があったことを思い出しまして......そこから少しづつ全てを思い出しました」
「そうか、私との出来事がきっかけか......忘れててほしかったなんて私のわがままでしかないよね。一番最後の私のことは忘れてほしかったんだけどそれも覚えてるんだよね?」
チェーロがストームを見る。
最後の私のこと。つまり、田宮空としての最後の瞬間ということだ。
彼女はそれを忘れていてほしかった。
(目の前で倒れてしまったところを見せてしまった。彼にとってそれは辛いことだったのではないかと思うから。彼の涙をぬぐいたかったけれど、ぬぐえなかった。『俺』はあの瞬間の記憶を忘れていてほしい。だって『俺』も後悔しているから。他のことに後悔はないといえるように人生を歩んできていたけれど、あれだけは後悔している。『俺』も生きる道を考えられなかったことをずっと悔やんでる。悔やんでも仕方ないって知っているというのにな)
時はもう戻らない。
その瞬間の出来事があったときにもう戻ることなどできないというのにだ。
「あれこそ俺が忘れられるわけがないですよ。あれは俺がもう二度と起こさせないと誓うためには必要なことですから。絶対に忘れません。それに組長は最後の瞬間笑ってありがとうって言ってくださったんですよ?あなたは俺たちにとって替えなんていない大切な人なんです。そんな人が最後でも笑っていたという事実を忘れるわけないじゃないですか」
「そっか、『俺』ってちゃんとありがとうって言えてたんだ。それが言えてたなら良かったかな。私はもう悔やんでいるけれど、君がそれを覚えていることで強くなれるならこれ以上は何も言わないよ」
「これからも共にいますからね」
「相変わらずだね、その瞳にともっている覚悟の赤い炎は。うん、これからもよろしくね」
ストームが話し終えるとその横で元気よく手を挙げている者がいる。
「どうしたのレイン」
「次オレ!」
「積極的だねえ。いいよ」
レインの話を聞こうとチェーロは身体をレインの方へと向ける。
そしてレインは話し始めた。
「オレが記憶思い出したきっかけは言ったけど、チェーロとちゃんと関わったからなんだよな~そんでも、多分ちょっと心に引っかかってるもんはずっとあった。それがオレの悩みを隣で聞いてくれたあの状況がオレの中に眠ってた記憶を思い出させたんだ。ほら、前でもあっただろ?オレが悩んでるときに話聞いてくれたこと。そん時のことがオレにとっては一番大事なもんだったんだよなあ。だってあれがなかったらソラと親友になることはなかっただろ?」
レインは歯を見せて笑う。
その言葉にチェーロは頷く。
「たしかにそうかもね。『俺』は真のことすごいなって遠巻きに見てるだけだったからさ」
「だろ~だからさ、オレ、嫌だったんだ。記憶戻ったって言ったらチェーロ泣きそうな顔しただろ?オレにとって嫌な記憶も戻ったんだって言ってたから。どれのことだって思ったんだよな。だってオレにとって嫌なもんなんてないんだぜ?オレがソラとか、仲間たちと過ごしてきた記憶の中に嫌なもんなんざ一っつもない!そう自信もって言える」
レインは後悔なんて一つもないとそう笑う。
彼にとって前での出来事はすべて大事なものなのだ。
空と出会った出来事のきっかけである自身の負の感情含めて全てが彼を構築している。
「やっぱり、すごいなあ」
「チェーロのがすごいぜ?」
「ううん、今も前も変わらないただまっすぐな青さがすごいなって思ったんだ」
「もちろんだろ?だって、オレはソラの......チェーロのための青なんだからよ!」
レインはこれからもチェーロのために笑っていると付け足して言うのだった。




