理由
「実はだな、隣国の王子とうちの国の王子......つまり息子なのだがすこぶる仲が悪いようでな.....幼い頃に会った時から話もしたがらないのだ。それに、それぞれの国の騎士団で争いが起きそうな勢いでのお」
王が苦笑しながら理由を述べた。
しかしチェーロは納得しなかった。
(それでどうして聖女を婚約者にという話になるのか。しかも今の王子の年齢は知らないが今の俺はまだ五歳。前の世界風に言うのなら......ロリコ......おっと、さすがに違うか)
「理由は分かりました。しかし、なぜ私なのですか?王子ともなれば昔から婚約者がおられるのでは?」
どうしても嫌だと彼女は次々に問を投げる。
自分ではないといけない理由が具体的にないのなら全力で断るつもりである。
「王子は昔からただ一人を探しているようでな、その者が見つかるまでは婚約をしないということなのだ。それは息子もなのだが、二人共同じ者を探しているから仲が悪いようなのだ」
ただ一人を探しているから婚約者はいない。
それもどちらの国の王子も同じ者を探している。だから、仲が悪く王も困っている。
(んーなんだろうこの絶妙に聞いたことのあるような王子の話。うちの組にもいたからな、一目見たら口喧嘩する二人。というか、ただ一人を探しているのであればなおさら今婚約者は求めていないだろう)
「あの、おそらくですが......隣国の王子は私を差し出したところで喜ばないでしょう。探している方を見つけるほうが早いのでは?」
チェーロが疑問を述べる。
探している者がいるのならばその者を見つけてしまえばいい。それなのにそうしない理由は......
「もちろん探した。しかしな、どこにもいなかったのだ。彼らが言う橙色の雰囲気をまとったお人好し、というのがな」
探したのに見つからなかった。もう一度探そうともしない。
抽象的なことしか言われていないのであればどれだけ探したところで見つかるわけがないというのに。
(なぜ名前を聞くとかしていないのか......まあ、言ってもらえなかったのか、聞かせたくないのかどちらかだろうな。にしてもなにか引っかかるんだよな。会ったら喧嘩する、お人好し......橙色...どうにも俺の知っている人が言っているように思えてしまう。お人好しとか俺に言っていたのがいたし)
彼女は王が言うことに自分の前を思いかえしている。
自分の言われたことがある言葉。自分の印象。
もしかしたら自分以外にもこの世界にいるのではないかとそんな思いに至ったチェーロは
「一度お会いさせていただけないでしょうか?私もまだ五歳。顔も分からない方と婚約するのは抵抗があります」
王にそう言った。
それは建前で確かめたいことがあるから会ってみたいと思ったのだ。
(本当にうちの組のが来ているなら会えば分かるはず。転生した身としては会えたとしても複雑なのだけれどな)
自分の知っている者たちもこちらの世界に来ているのか。それを確かめるために会わせてもらうことにした。王が言ったことを受けるかどうかはその後決めるつもりである。
「そうだな、チェーロはまだ幼い子供であった。王子は十八。時期尚早であったかもしれんな。だが会うというのなら隣国に伝えておこう。良ければ我の息子にも会ってくれるか?」
「はい。ご挨拶しておきたいです」
王に本心を隠して彼女は微笑む。
自国の王子のこともまだ知らなかったチェーロにとっては嬉しい申し出だったのだ。
「ではまた来てもらおう。今日から聖女の仕事、頼んだぞ」
王はそう言って笑い彼女を帰した。
仕事はするようにと強調して言われたので彼女は帰る前に川の近くに寄った。
「結界を広範囲で張りたかったら川の側でってね。気づいたら使えるようになってたから助かったな」
聖女の力は気づいたら使えるようになっていた。ある朝起きると(あ、使える)そんなふうにふと思ったのだ。
しかし、まだ二年経っていないときだったので知らせなかった。
(今こうして使っているのだから知らさなかったのは許してほしい。はあ......自分で王子に会うと言ったけれどこれで良かったのかは分からない。それでも、自分の勘を信じたい)
会ったほうがいいという自分の勘を信じる。
それが彼女の今思うことだ。
だから、王子と会って話をする。
本当に自分の勘が合っているのかも確かめるために。