バカはバカのまま
「さて、十分お話もしましたし……ここからは本題に入りましょうか?」
ニイナがにっこりと笑う。その表情には自分の言うことを聞けというような若干の圧がこめられている。
「はい!脱線しすぎてごめんなさい。というか、私いつまでもベッドにいるんだけどこの場所でいいの?」
「一回倒れたんだから安静にしときな。そこにいても話せるでしょ」
「そうだぞ、無理に立とうとしてふらつきでもしたら困るからな」
「え、二人が優しい…?こわ!」
チェーロは肩を振るわせた。
前では優しい言葉をかけられた覚えが数回しかないからである。
(なんでこんなに優しくなってるんだろ?いくら私が幼いからって、中身変わらないの知ってるんだから……はっ、そうか!)
「私に恩を売っといてあとから見返り望むつもりなんだな!!」
チェーロは絶対にそうだと頷く。
でなければ二人が自分に優しい言葉をかけてくるはずがないと本気で思ってしまっているのだ。
そんなチェーロにレノとクラウはため息をつき、二人で同時に
「「バカ?」」
と言った。
「えっ?だってそうじゃないならなんだっていうの?」
「チェーロさんすみません。私もバカなのではと思ってしまいました」
「ニイナまで⁈」
ニイナだけは自分に同意してくれるだろうと思っていたチェーロは驚いた。
「ダメとバカは健在か?チェーロ⁇バカチェーロって言ってやろうか?ああ⁇」
「怖い怖い!なに私そんなに言っちゃいけないことでも言った⁈」
「そうだね言ったんじゃない⁇」
「いやクラウも怖いですって!その杖おろして⁈あーもう誰か助けてよお!!」
チェーロは慌ててそう叫んだ。
すると
「お呼びですか組長!」
「呼んだか〜?」
入って来る者がいた。
予想もしていなかった。誰かが来るだなんて思っていなかった。そんなチェーロにとって入って来る者がいたというのは想定外なことである。
「待ってなんでいるの⁈」
「お二人には私の護衛をお願いしました。チェーロさんのことで呼ばれているのでしたら、かつてのチェーロさんの右腕と懐刀はおられたほうがいいと思いまして……」
「なるほどね⁈それは嬉しいよ!でも先に言って⁈あれ、最初からいたってこと?もしかしてだけど?」
チェーロはずっと混乱している。
自分が何を言ったのか忘れているため、二人に聞かせたくないことを言っていないかと心配しているのだ。
「私がきた時からいますよ」
「てことは今のバカとか言われてるの聞いてた?」
チェーロはレインとストームに向かって質問する。
二人はその問いにゆっくりと頷いた。
「そっかあ……」
「オレもあれ聞いてチェーロはバカだなって思ったぜ」
「失礼ですが俺もですね」
「二人まで⁈私の味方は⁈」
誰も同意する者などいない。
なぜなら……
「「「「「誰も見返りなんて求めるはずがない」」」」」
この場にいたチェーロ以外の者が口を揃えて言う。彼女に対して見返りは求めないと。
「え?なんで、そうじゃないならおかしいよ……」
「僕は君に返すものがあるからね。それを返しきってないんだ」
「俺も借りを返し切ってねえんだぞ」
「何もあげてないけど?」
彼女は何も与えていないと否定する。
しかし、クラウとレノはもらったと主張し続けた。
「えー?分かんないけどなあ……まあ、でも二人の優しさは素直に受け取ろっかな」
「そうしろ」
「そうしなよ」
レノとクラウは満足そうに笑って、チェーロがたとえ覚えていなかったとしても借りは返すと誓うのだった。




